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呪いの後始末とイハナ家

 爆睡していた。朝食は部屋に運ばれてきていた。

 キスされた後で意識が飛んでしまったようだが、侍女たちが色々と整えてくれたようだ。

 

 出かけるということで、侍女たちの手で外出着に着替えさせられ、髪も結われて華美にならない程度に飾られた。

 ルードランと共に、馬車での道行だ。

 ルードランも、素敵な外出着になっていた。

 

「ちゃんと眠れたかな?」

 

 馬車に乗り込みながら訊かれ、思わず真っ赤になっている。

 

「はい! 思い切り眠ってました」

「今日も、たくさん魔法使ってもらわないとだからね」

 

 申し訳なさそうにルードランは告げた。

 法師は先にイハナ家の近くに転移で出かけている。呪いにけがれすぎたイハナ家に法師は入れないが、周囲の安全を確保するためだそうだ。

 それと、イハナ城は呪いが染みつきすぎて人の住める状態ではないので、法師がイハナ家の人々を転移で別の邸に送る予定らしい。

 

 

 

 イハナ家の城の中は惨憺(さんたん)たる状況だった。あちこちで人が倒れている。

 法師が転移させようにも、皆、呪いに犯されていた。

 

「すごい呪いです」

 

 入り口から入ろうとして足が止まる。マティマナは、中に入るためにも魔法を掛けまくった。

 少しずつ綺麗にしながら、廊下を進んだ。

 

「ひとりずつ、魔法で呪いを除去しないと転移させられないね」

 

 城のなかを見回しながらルードランが呟く。

 イハナ家の夫人、ケイチェルに妹、この辺りは広間でくずおれていた。

 家令や、使用人、侍女なども、皆意識なくバラバラの場所に倒れている。

 

「ええ。早く、呪いを取り除かないといけませんね」

 

 マティマナは魔法を撒きつづけながら応えた。

 とはいえ、悪魔憑きのロガが当主を乗っ取り、半解凍の悪魔を連れ込んだ城だ。二年以上の年月、じわじわと呪いは染みつき続けていたろうし、簡単には取り除けないだろう。

 

 まずは、イハナ夫人だ。続けざまに雑用魔法を混ぜ合わせながらかけた。

 ぼんやりと目蓋(まぶた)が開き、徐々に意識が戻る感じだ。

 夫人は、意識が戻ると広間の惨状に悲鳴をあげた。酷く散らかり、呪いの痕跡が刻まれ、汚れきった有様だ。

 

 呪いが解け、ルードランとマティマナの姿を見て、イハナ夫人は困惑の表情だ。

 

「主人は?」

 

 周囲を見まわし探しながら夫人が訊く。

 

「どちらの? 今まで当主に成りすましていた魔道師ですか? それとも入れ替えられた本来の当主ですか?」

 

 ルードランが訊く。

 

「え? ポレスは主人ではなかったのですか?」

 

 全く気がついていなかったようだ。魔道が掛けられ操られた状態だったのだろう。

 

「魔道がかけられていましたから、気づかなかったのも無理はないですね」

「本来のポレスは?」

「現在、捜索中です。処刑されている可能性もあります」

「ああ! なんてこと!」

 

 ひとりずつ、マティマナが魔法を掛け、呪いが取れた順に法師が新たな邸へと送る算段だ。

 ルードランが、イハナ夫人を外へと連れ出した。

 

 その間に、マティマナは近くに倒れているイハナ家の姉妹に、同時に魔法を掛けた。

 かなりの量の魔法を浴び、徐々に意識が戻ってくる。

 イハナ家の姉妹は、マティマナの魔法で呪いを取り去られると、キョトンとした表情になった。

 

「わたくしたち、一体、どうなっているのかしら?」

 

 戻ってきたルードランの姿が目にとまったようでケイチェルは困惑気に問いを向けている。状況が全く分からないようだ。

 ただ、ケイチェルは近くにマティマナが居ることに気づくと、険しい表情になる。明らかに敵意の視線を向けられていた。

 

 父は行方不明で住み慣れた城を追い出され、小さな邸に押し込められることになる。何が起こっていたのか、曖昧な部分があるだけに、すっきりしないだろう。

 

「外まで送ろう」

 

 呪いが除去できたので、ルードランはケイチェルを誘導する。

 ケイチェルはまだ婚約が諦めきれないに違いない。明らかにルードランへと秋波(しゅうは)を送っている。

 戻ってきたルードランは、呪いの除去を済ませたケイチェルの妹を連れて外に出た。

 

 マティマナが呪いを綺麗にした順に、法師は緊急で用意したイハナ家用の邸に転移させている。

 転移先では、ライセル家の執事が説明のために待機しているそうだ。

 

「使用人たちのほうが呪いが酷そうだね」

 

 何往復かして戻ってきたルードランは、心配そうだ。何気に、マティマナは魔法で難儀していた。

 イハナ家の城にいた者から、呪いを除去するのは大変だ。呪いが深く染みついている者が多すぎる。

 

「このかたたちの呪い、ちょっと敷布でくるんでみますね」

 

 マティマナは思案気にしつつ呟く。

 

「ああ、それは良い考えだね」

 

 法師に投げつけられた呪いも、魔法の敷布は吸収してくれた。

 軽く魔法を掛けた後、魔法の敷布で満遍(まんべん)なく身体を包む感じだ。頭巾付きの外套をまとった感じにして座らせ待機させた。敷布に包まれると徐々に呪いが吸われて行くようだ。

 

 呪いが取れたイハナ家の者たちをなんとか城からだし、別の屋敷へと移動させた。

 

 

 

 ここは人の住めるような城では到底ない。といって、呪いが染みついたまま放置もできない。

 マティマナが魔法を撒く必要のある場所が増えた。

 

 呪いの品も多い。

 いずれ訪ねた折りには、収納箱に詰めて持ち帰るしかないだろう。

 イハナ城中のほとんどの品が呪いに汚染されているが、呪いの品とは別物なので魔法を掛ければなんとかなりそうだ。ただ、それらは後回し。イハナ城は当面封鎖だ。

 

 なんとか全員を法師が転移させ終わるまで、かなり時間が掛かった。余力が残っていたらしく、帰りは馬車ごと法師が転移だ。

 

 

 

 イハナ家から戻り、一休みしてからマティマナは呪いの石拾いを再開した。呪いの石や品は、魔法の乱れが見えている。

 

「転移はなくて大丈夫そうです」

 

 マティマナは法師へと告げた。

 端から回収するしかないし、地道な作業になる。魔法を撒きなおし棘を探す。棘は動かないと分からないのだが、魔法を撒けば炎を上げるので見つけられる。

 

「ルーさまも、無理しなくて大丈夫ですよ?」

 

 ルードランは動きっ放しだったし、マティマナは心配しながら囁く。

 

「いや。放っておくと君はまた、昨日みたいに限界まで働きそうだからね。監視が必要だ」

 

 頑として譲らない気配でルードランは笑みを浮かべた。

 荷物持ちも必要だよね? と、言葉が足される。

 確かに回収した呪いの石は、魔法の布に包んで籠に入れるから運び手がいれば助かる。

 

「あっ、そんなっ、無理なんてしません! ですが、監視、ありがとうございます!」

 

 夕べのキスが思い出されてしまい、真っ赤になりながらマティマナは告げて礼をとった。

 ルードランは、早速(さっそく)手を繋いでくる。

 ちょっとした、逢い引き風の散歩にも見えなくない。

 

 ルードランと手を繋ぐと、暖かな感覚が身体にあふれ魔法が楽に撒ける。そして、いつもより広範囲に撒けるようだった。

 

 マティマナは主城から、探し物の魔法を撒きなおし始めた。その過程で呪いの炎があがって棘が見つかる。ルードランがいるから、楽。そして、呪いの除去などという物騒な仕事なのに楽しい。

 

「悪魔憑きのロガは、イハナ家当主ポレスの姿で指名手配されたよ」

 

 ルードランは一緒に歩きながら、コソッと教えてくれる。

 富豪貴族の姿を乗っ取った状態で、悪魔憑きは遁走した。

 その姿で指名手配するしかない。だが、容姿はポレスだが、中身は悪魔憑きの魔道師ロガだ、という形での手配なのだろう。

 

 とはいえ、いつまでもポレスの姿でいるとは限らない。

 ライセル家の乗っ取りは諦めたとは思うが、邪悪な魔道師と半解凍の悪魔が野放しなことは恐ろしい事実だった。

 

 


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