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使い放題の修繕の魔法

 棘をつけた者たちは、ひとりずつ呪いを除去して自室へと戻させた。

 周囲に落ちていた棘や呪いの品も回収しながら、次々に呪いを掃除して行く。

 

「残りの者たちを、一旦、自室へ送ります」

 

 棘の軌跡の全てを片づけたところで法師が告げた。動きを止めていた残りの使用人や侍女たちを自室へと転移させている。自室では自由に動けるが、部屋の外には出られない。その旨の説明は、法師がしているようだ。

 

「数人、弾かれました。若干、呪いがついていますね」

 

 法師は、自室へ転移させられなかった者のところへ三人を転移させた。

 

「呪いがついてます」

 

 マティマナは、何度か温泉効果があるらしき魔法を浴びせた。

 近くに呪いの石が落ちているから、その石に掠められたのだろう。

 

「大丈夫ですか?」

 

 マティマナは、動きの戻った侍女に声を掛ける。

 

「あら? 私、何を?」

「大丈夫よ。でも少し休んだほうがいいわね」

 

 きょとんとしている侍女にマティマナは笑みを向け、すかさず法師が自室へと送り込んだ。

 

 

 

 使用人や侍女たちを自室に戻してから、一旦、法師の部屋へと戻った。法師の部屋は、最も呪いの石の直撃を受けている。呪いはこの部屋から弾け飛んだ。

 貫通した穴、石壁にめり込んだところで転移したらしき石がつけた穴。

 床にも、調度類にも。

 呪いの液体を拭き取り、魔法を掛けて綺麗にしてから修繕の魔法を使う。

 

「こんな大穴の修繕は初めてよ。上手くいくといいんだけど」

 

 呟きながら、マティマナは修繕の魔法を使う。一瞬で穴は埋まった。

 

「凄いです! マティマナ様! 以前より丈夫になってますし、外側もちゃんと外装に合わせた修繕になっていますね!」

 

 室内側は勿論、穴があった場所が分からないほど完璧に修繕されているようだ。

 

「良かったです!」

 

 普段あまり使わない修繕の魔法が使い放題だ。

 呪いの液体を除去し、壁や家具を修繕した。

 

 マティマナは仕上げに、法師の部屋の一角に少し大きめの収納用の箱を出した。

 

「もう、半解凍の悪魔に、ひっくり返される心配はないと思うけど」

 

 魔法の敷布を敷き詰めてから、法師が預かってくれていた回収してきた棘やら石やらを入れて貰った。

 今まで呪いの品を入れていた籠や、包んでいた魔法の布は、魔法をかけて呪いをすっかり取り去ってから箱に入れた。それらも呪いの除去に役立つはずだ。

 

「いいですね! 回収するたびに、この中に入れましょう」

 

 法師は絶賛だ。

 その後は、地道な作業だった。法師と共に転移しながら、呪いの品を一点ずつ回収する。

 厄介なのは、手分けできないことだ。マティマナの魔法の布を手渡して集めてもらっても、その呪いの場を綺麗にしないと悪影響が出る。拾ったその場で綺麗にしないと、場所がわからなくなる。

 

 ルードランは、マティマナの働き過ぎを監視するべく手を繋いで一緒についてきた。

 法師は、転移役だ。

 

 かなり大急ぎで回収した。呪いの除去と共に、修繕も済ませる。

 一刻も早く、城の皆が、ある程度動き回っても大丈夫なようにしてあげたかった。

 とはいえ日常が戻るには、まだ遠そうだ。

 

 

 

 城の修繕箇所は思ったよりも多かった。壁の穴だけでなく、床や、調度類に穴が空き、窓帷なども破れたり、壁紙が剥がれたりしている。修繕したりつくろったり。呪いの除去をしながら、せっせと修繕作業をした。

 修繕は思ったより得意だったようだ。何より愉しい。

 

「マティマナに頼りきりで、済まないね」

 

 繋いだ手を軽く握りながら、ルードランが囁く。甘い感触に、疲労など吹っ飛んでしまう。

 

「いえ! お役に立てて嬉しいです」

 

 魔法が使い放題で、しかも役に立っている実感が楽しくてならない。

 

 上階をキレイにした後、厨房に転移してもらった。

 人が多かったから、たくさん置かれた呪いの品が回収しきれず残っている。

 呪いの品や棘のたぐいを拾い集め、呪いを帯びた床に魔法を浴びせた。

 

 なんとか、皆の食事を確保できるようにしないと。その一心だ。

 幸い時の止められた料理の貯蔵庫は無事だった。

 使用人たちの食堂もキレイにし、なんとか通常どおり食事が可能な状態にする。

 

「今日は、このくらいにしておこう」

「それが良いかと」

「あ、はい! わかりました!」

 

 マティマナはまだまだ行けそうな気がしていたが、多分、法師もルードランも相当な疲労状況だろう。おくびにもだしていなかったが。

 

 

 

 ルードランとふたり、料理の貯蔵庫から好みの料理を選んでそれぞれ盆に乗せた。

 給仕させるには、使用人たちの混乱がひどいので、自分達で選ぶことにして、食堂へ入る。

 ライセル夫妻も、同様に自力で食材を選んで食事を済ませたらしく、食堂でかち合った。

 

「マティ、本当にありがとう! ゆっくり食事してね?」

 

 優雅な仕草で夫人は礼をしてくれる。

 

「あ、ああ、お義父(とう)さま、お義母(かあ)さま! ありがとうございます!」

 

 当主も夫人も嬉しそうな表情で、微笑ましそうにルードランとマティマナを見つめている。

 ライセル夫妻は、怪我人の治癒と世話をしてくれたに違いなく、途轍(とてつ)もなく苦労させてしまったのに、疲労した様子もみせず快活な気配だった。

 

「ゆっくり食事するといい」

 

 ライセル家当主は、笑み含みに告げると夫人を連れて戻って行く。

 

 身体を乗っ取られて疲労度の高いバザックスは、法師からの報告によると爆睡しているらしい。いつ目覚めても大丈夫なように、法師が時をとめた小卓で料理を届けたようだ。

 

「だいぶ無茶なことさせてしまったからね。しっかり食べよう」

 

 ルードランに促され食べ始めると、余りにめまぐるしかった事件の展開は夢だったかのように感じられた。

 

「だいぶ片づきましたね」

 

 とはいえ危険な呪いの品は、まだあちこちに落ちている。小さな棘は、とくに見つけにくいから心配だ。

 

「明日、一緒にイハナ家に行ってもらえるかい?」

「はい。勿論です」

「呪いで酷い状態だった。ロガがいなくなったが、イハナ家の者たちを呪いのない場所に移さないとだね」

「呪い……深刻な状態だと思います」

 

 疲労が酷くなければ、直ぐにでも出かけるほうが良いのだろうが、さすがに無理なようだ。

 食事を済ませた安堵感に、マティマナは身体の力が抜けてしまう感じになっている。

 

「あら? どうしたのかしら?」

 

 椅子から滑り落ちそうだ。

 

「マティマナ! ああ、やっぱり無茶していたんだね!」

 

 ルードランは斜め横の椅子から立ち上がり、駆け寄る勢いだ。

 

「あ、魔法、使い過ぎましたかね? 力が抜けてしまってます」

「ふふ。僕としては、ちょっと嬉しいな」

 

 ルードランは顔を覗き込んで笑みを向けた後で、マティマナの身体を姫抱きにしていた。

 反射的に、というか、慌てて首に腕を回してしがみつく。

 

「ああっ、ルーさま、さすがに重いですよ。ルーさまだって、お疲れなのに!」

「ん? とても軽いよ。部屋まで送ろう」

「あっ、転移はどうです?」

「もう、今日の魔法は打ち止めかな?」

 

 本当なのか謎ながら片目を瞑ってみせながら、ルードランは嬉しそうに笑みを浮かべて歩きだす。

 使用人も侍女たちも、皆自室で良かった……

 

 マティマナの自室に入り、寝台に下ろされる。ルードランは唇に軽くキスを届けてくれた。

 

 


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