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ロガと半解凍の悪魔の弱点

 半解凍の悪魔がキィキィ声で咆吼するのを聴きながら、マティマナは床の片づけを続行した。

 マティマナの動きを止めようと、ロガからも半解凍の悪魔からも呪いを含んだ攻撃魔法が飛んでくる。

 凶悪な形に変形する攻撃魔法は、すべてルードランが光の盾で撃墜してくれた。

 

 マティマナの片づけ魔法の余波を受け、半解凍の悪魔の殻が少し凍る。

 

「早く、決着つけろ!」

 

 半解凍の悪魔は、叱咤するようにロガへと命令する。

 屑のなかから出てくるものを、ロガも半解凍の悪魔も畏れているのは確かなようだ。

 

「ダメだ、そこは、さわるな!」

 

 半解凍の悪魔が耐えきれなくなったように騒ぐ。

 わざわざ場所を特定してくれているようなものだ。マティマナは集中的に、半解凍の悪魔が反応する場所の屑と塵を除けた。

 ロガは、さまざまな魔道攻撃を全方位から仕掛けてくるが、片づけで呪いが減るたびに効力が弱まっているようだ。

 

「ちっ、厄介な奴らだ。全員殺してしまうしかないか」

 

 ロガは生け捕りを諦めたらしい。思い切り強力な魔法を放ってきた。魔道で部屋が、城が、揺れている。城ごと崩壊させかねない勢いだ。

 

(あっ、これ!)

 

 呪いで汚された装飾箱が出てきた。何かが閉じ込められるように入っている。

 魔法を掛け続け箱の呪いが消えると、中から光り輝くように見える小さな品が転移のようにして飛び出してきた。

 バザックスの手元にそれは飛び込んだ。

 

 バザックスが品を掲げると、怯んだ半解凍の悪魔とロガが、一歩退く。

 

 呪いに汚された箱は、ひとつではなかった。マティマナは次々に、箱から呪いを取り去って行く。

 ボロボロと、ロガと半解凍の悪魔が苦手としているらしき品が出てきた。中には清浄なものが入っている気配。

 

(なぜ? 苦手な物をわさわざ根城に置いてるの?)

(適当な場所に破棄して誰かの手に渡らないように、だろうね)

(あ、それはありそう)

(ここまで誰かが入り込むことは、想定外だったのじゃないかな?)

 

 ルードランと心で会話している間に、小さな品が幾つかマティマナの手に飛び込んできた。

 清浄な品が、呪いの品を凌駕するようだ。明らかに苦悶の表情のロガ。半解凍の悪魔は身悶えている。

 

 一山の屑が片づき、最後に残った箱は少し大きめだ。呪いに纏わり付かれながらもマティマナには光って見えている。魔法を掛け続けて箱の呪いを取ると、大きな金細工の鍵めいた品が飛び出してきた。

 

 扉上に飾るような魔除けの品に似ている。キレイな模様が刻まれていた。

 直感的にルードランが使えるもの、という天啓めいた思考が走る。

 

「ルーさま、お願い!」

 

 魔法で宙に浮いた品を、ルードランの手へと届けた。ルードランは、鍵のような形の品を握り、ロガへとかざす。

 翳された鍵は、ルードランの魔方陣からの光を取り込み、光の攻撃魔法として魔方陣めいた光を連射し始めた。

 

「ぎゃあああ!」

 

 連続攻撃の光の魔方陣が、半解凍の悪魔に的中した。のたうつ半解凍の悪魔の殻が、凍って閉じて行く。

 氷の凍結のように、殻が閉じ込め始めている。

 

「冗談じゃない! ロガ逃げるぞ!」

 

 ロガは、ちっ、と舌打ちすると、半解凍の悪魔を凍結から救おうとしてか呪いを浴びせた。ロガはもの凄い形相で三人を睨みつけるが、苦悶に身体を震わせている。ルードランからの光の攻撃を除けるが、ふらふらだ。悪魔憑きのロガはイハナ家当主の短め黒髪に豪華な長衣姿で、半解凍の悪魔を連れ転移で遁走した。

 

 

 

「捕まえるのは、ちょっと難しかったですね」

 

 とはいえ助かったらしい。大がかりなライセル家乗っ取りは頓挫した。バザックスの身体も取り戻せた。

 安堵に、身体から力が抜けそうだったが、呪いの残る部屋で倒れるのは嫌なので踏みとどまった。

 

「いや、上出来だよ! これで、もうライセル城が狙われる心配はもうないからね」

 

 手にした鍵のようなものを眺めながら、ルードランは確信したように告げた。

 

「随分と、たくさん苦手な品を蒐集してましたね」

 

 それらがライセル家にある限り、たぶん手出しはできないだろう。

 

「古いライセル家の紋が刻まれている」

 

 鍵を眺めていたルードランは、ふと気づいて呟いた。

 

「あ、元々ライセル家由来の品だったのですね」

 

 ルードランは深く頷いた。

 

「じゃあ、城に戻ろうか」

 

 転移で戻るつもりらしく、ルードランはマティマナを正面から抱きしめながら、バザックスの身体も引き寄せる。ふたり、まとめて抱き寄せた形だ。

 

 うわああっ、ふたりに挟まれちゃってる!

 

 マティマナの正面にはルードランが、背後にはバザックスがぴったりとくっついている。

 

「ああ、視える。マティマナが法師に残した魔法が視えているよ」

 

 マティマナはルードランの腰にしっかりと抱きつく。

 

「これは……」

 

 困惑ぎみのバザックス。

 

「少しの辛抱だよ」

 

 微笑しながら、ルードランは転移した。三人同時に、法師のいるバザックスの部屋前の廊下に転移成功だ。

 

「凄いな、兄上。いつの間に、こんな魔法の達人になったんだ?」

「これのお陰だよ」

 

 マティマナと揃いの耳縁の飾りをルードランは示した。

 

 

 

「ロガと半解凍の悪魔は逃げたけど、城の惨状は変わりませんね」

 

 城に戻ったマティマナは、撒いた魔法を乱す魔法の品々を改めて眺めて呟いた。

 片づけが大変だ。まだ、それほど刻は経っていないだろうが、皆の動きを留めておくにも限度はある。

 

「バザックスを、呪いの品のない適当な部屋へ送ってあげて」

 

 ルードランは法師へと頼んでいる。

 

「手伝えることがあれば、何でも言ってくれ」

 

 バザックスの言葉に頷きながら、ルードランは「まずは身体を休めて」と、告げた。法師が、どこかの部屋へと送ってくれたようだ。

 

「じゃあ、棘のついてる方々を助けましょう」

 

 マティマナの言葉を聞きながら、ルードランが手を繋いでくる。

 優しい感触に、疲れなど吹っ飛んで行く。

 

「ちょっと無理させちゃうね」

「大丈夫です! 急ぎましょう?」

「では、私がどんどん転移させましょう」

 

 不浄すぎてロガの住処(すみか)には手の出せなかった法師は、それでもずっとルードランとマティマナの転移を追い、展開する状況を見守ってくれていたようだ。

 申し訳なさそうにしながら、呪いの品を回収するのを手伝う気満々で有り難い。

 

 法師は、マティマナの意識の魔法を撒いた立体図を視ている。

 小さな呪いが動いた軌跡は、人の動きを止めても残っていた。

 

「主城で棘をつけている者から行きます」

 

 呟くと、法師は三人まとめて転移させる。

 動きを封じられボーッと突っ立っている侍女が居た。

 マティマナが魔法を掛けると、背から大きな呪いの炎が上がる。魔法の布で呪いの液体に濡れた棘を取り、魔法を何度も振りかけて呪いを綺麗にした。

 

「あら? 私、何を?」

 

 ふるふると首を振りながら侍女は困惑した表情だ。

 

「部屋で休んでいなさい」

 

 ルードランの言葉に頷く間に、法師は侍女を自室へと転移させていた。

 

 


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