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飛び散る呪い

「僕にも魔法の布を」

 

 ルードランの言葉に頷き、大きな魔法の布を出す。マティマナと反対側からルードランは法師の呪いを吸い上げてくれた。

 

「妙なことをしやがる!」

 

 マティマナたちの行為を止めるより、目的を済ませるのが先、といった表情を半解凍の悪魔は浮かべキィキィ声をたてた。

 呪いの品の入る籠のなかの魔法の布に触れないようにしながら、遠隔で剥いている。呪いの品は、次々に剥き出しの状態となった。

 

「ああっ、ダメよ! 呪いの品……!」

 

 マティマナは必死で、敷布のような魔法の布で半解凍の悪魔を包もうとして放った。

 空中で布はふわりと綺麗に拡がり、いくつかの籠ごと半解凍の悪魔を包み込む。

 

(ぎやああああっ! なんだこれは?)

 

 くぐもったような、甲高い半解凍の悪魔の声が布の中から響いてきていた。

 そのままくるんで、閉じ込められないかしら?

 マティマナは、そっともぞもぞと動いている大きな布へと近寄って行く。

 半解凍の悪魔の居るあたりを、魔法の紐で縛ってしまおうと考えた。

 

「マティマナ、危ないっ!」

 

 ルードランの声を耳にしマティマナは後退(あとずさ)る。半解凍の悪魔は大きな布を弾き飛ばして姿を現し、マティマナへと呪いの霧を放ち、包み込もうとした。

 反射的に、マティマナは温泉効果があるらしい魔法を自分の身体に掛けた。きらきらの光が、取り巻く霧を吸い込むようにして消してくれている。

 

「ちっ! うかうかしてられねぇぜ!」

 

 半解凍の悪魔は、呪いの品が入っている籠へと向き直る。すべての籠をひっくり返し、呪いの風を起こして床に散乱した呪いの品を掻き混ぜた。魔法の布をなんとか一気に剥がそうとしているようだ。

 呪いの風の半分くらいは、魔法の布が吸い取った。

 

「なんだ、この厄介な布は!」

 

 キィキィと高い奇妙な声で苦情を言いながら、半解凍の悪魔はどんどん呪いを注ぎ込む。さすがに魔法の布が次々に弾き飛ぶ。剥き出しになった呪いの品は、見る間に呪いを吸い込んで、強烈な呪いの品へと進化していた。

 

「ダメぇぇっ! ああ、なんて汚いのっ」

 

 清浄なはずの法師の部屋の床が、どろりとした呪いで汚染されている。

 マティマナは、だめ元で掃除の魔法を振りかけた。

 

「ぎゃう! 何しやがるっ!」

 

 文句を言いながら、焦った様子の半解凍の悪魔は膨大な呪いをちまけた。

 最早(もはや)、呪いの勢いに掻き混ぜられ、呪いの品はすべて床に剥き出しになっている。極小の棘も、呪いの石も、何もかも、更に呪いを吸収して凶悪な気配を宿した。

 

 マティマナが半解凍の悪魔に魔法を放っている間に、ルードランは手渡された大きな布で法師に降りかかっていた全ての呪いを包み込んで除去してくれていた。

 

 床に散乱した魔法の布を、マティマナは魔法で浮かせ、半解凍の悪魔へと向けて次々に投げつけた。呪いを吸い、少し汚れてはいたが、まだ掃除する力は残っている雑巾だ。

 

「うわぁ、なんだこれは!」

 

 半解凍の悪魔は、魔法の雑巾を必死で弾き続けたが、いくつかは激突した。その度に、悲鳴めいたキィキィ声を立てている。

 

 氷のような殻が、少し閉じてきてる?

 少しくらい太刀打ちできるのかも?

 マティマナが、ちょっと思案した直後、異変が起こった。

 

 焦燥に駆られたように、なりふり構わず半狂乱になった半解凍の悪魔は暴れている。

 その動きに合わせるように、半解凍の悪魔が次々に放つ呪いは床に散らばった品々へと集約されて行く。半解凍の悪魔があげる悲鳴は咆吼に変わった。

 

 極限の呪いが暴発するように渦巻く――!

 

 すると、呪いの品々は床から浮き、四方八方へと飛び散った。轟音を立てて呪いの石は主城の壁を突き抜け、棘や宝飾品のたぐいは転移されて、城の敷地中に放たれて行く。

 

 高笑いというには、情けない疲労した響きのわらい声を残し、半解凍の悪魔は掻き消えた。

 

 

 

 もう、何を、どこから手をつけていいものか、全く分からなくなっていた。

 ルードランは窓を開け放ち、外の様子を確認している。

 

 マティマナには法師の部屋に残された床にベッタリの呪いが不吉でならない。

 

「ああ、法師さまの部屋に、なんてことを!」

 

 マティマナは反射的に魔法を掛けるが、呪いはどろりとした液体状で消えなかった。

 魔法の雑巾をとりだすと、屈み込み床の呪いを拭う。

 法師に本来の力を使ってもらうためには、本拠地であるこの部屋が呪いに犯されているのは最悪だ。

 

「あ、少し取れますね」

 

 ベッタリ呪いのついた雑巾は、大きいゴミ箱用の籠をだして、どんどん入れ、新しい雑巾で次々に拭う。

 

 乗っ取り用の茶が入っていた器からは、呪いの液体がこぼれていた。乗っ取ろうとする塊のようなものは消えている。それらも、魔法の雑巾で吸い取る。

 

 床に視えていた呪いがすっかり拭い取れてから、マティマナは何度も床掃除の魔法を掛けて仕上げた。

 

「なんとか、綺麗になりました!」

「すごいね。その魔法の布は凄く高性能だよ」

 

 窓辺から戻ってきたルードランが感心している。

 

「素晴らしいです、マティマナ様! この呪いが清められるとは! 少し希望がわいてきました」

 

 呆然としていた法師も、少し我に返った様子だ。

 

「外には、使用人たちはほとんど居ない。外に飛び散った呪いの品の回収は後回しだね」

 

 ルードランの言葉にマティマナは頷いた。

 

「ああ、でも、何から手を付けたら良いんでしょう? 半解凍の悪魔は、城から出たのですかね?」

 

 法師の部屋は、呪いの石が突き抜けた穴が幾つも空いている。

 よく見れば、貫通した穴には呪いの液体が付着していた。それも、除去する必要がありそうだ。

 

「ロガも、半解凍の悪魔も、今は城の敷地内には居ないようです」

 

 法師が四方八方を見回すような仕草をした後で告げる。遭遇したので、半解凍の悪魔も探査できるようになったらしい。とはいえ城の敷地内での話だ。

 

「動く呪いの気配はある?」

 

 ルードランがマティマナに訊いてくる。

 マティマナは探し物の魔法を撒いた場所を、全体的に眺めた。

 

「ああっ、主城だけでなく城の敷地中に呪いの品が大量に! でも、今のところ移動はしていないみたいです」

 

 あちこちにベッタリと呪いに濡れた品が落ちている。その近くは、呪いの液体がにじんで汚れているようだ。

 

「棘も飛ばされていたから、人につくのは時間の問題だと思うよ」

 

 ルードランは真顔で呟いた。

 呪いの品を回収しなければならないし、棘に操られる者の動きも察知する必要がある。

 

「棘は小さすぎて、動き出さないと察知できないです」

 

 マティマナは申し訳なさそうに呟いた。

 

「使用人たちが、呪いの品を拾ってしまわないと良いのですが」

 

 法師は心配そうに呟く。

 轟音は聞こえたろうが何が起こったのかは皆知らない。呪いに汚染された品は、普通では呪いの存在は見えないだろう。石や品が落ちていれば、誰かどうか拾うに違いない。

 

「ひとつひとつ地道に回収して行くしかないだろうね」

 

 ルードランは、小さく呻きつつ、他に方法はなさそうだと呟き足した。

 

 


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