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ルードランの憂い顔

 心地好い季節。今は天空人たちの来訪を待つ比較的ゆるやかな日々が続いている。

 だが、ルードランの心は杞憂(きゆう)と分かりながらも気がかりに占められていた。

 浄化がひと段落したので、マティマナと暗黒の森に行く頻度は減っている。浄化が再開すれば、また足繁く通うことになるだろう。憂うべきことなのに愉しみにしてしまっていた。

 

 誰もいない四阿(あずまや)で、ルードランは軽く頬杖をつき、ため息めいた吐息をこぼす。

 

(また、縁談を用意する必要があるかもしれないね)

 

 ルードランは、ひとちるように頭の中で呟いた。

 エヴラールはベリンダと懇意になってくれたが、まだまだ油断はできない。婚姻する予定だと聞いてはいるが。

 それにマティマナは、魅力的すぎる。

 

 聖女と認定される前から、膨大な聖なる力を発揮する前から、可愛らしさも魅力も底抜けだったが、王妃になって拍車がかかったとルードランはしている。

 

 マティマナ目当ての来訪者、面会希望者は増えていた。マティマナは求められれば、どこまでも親身に対応し、異常なほどの行動力を発揮してしまう。

 ルードランの追跡にも限度がある。

 

(困ったものだね……)

 

 小さく心で呟いた。

 

(あ、あっ、ルーさま、なんて麗しいの……)

 

 ルードランの意識に、何やら賑やかな思考めいたものが聴こえてきた。少し離れたところで立ち尽くし、マティマナはこちらを見ているようだ。

 表情を変えないように気をつけ、ルードランは聴こえていないフリをする。もっとマティマナの心の声を聴きたかった。

 

(ステキ……。ああ、でも、あの珍しく憂いに満ちた表情。なにか気掛かりがあるのね。なにか、お役に立てることないかな?)

 

 マティマナの心には、くるくると、戸惑いとトキメキとが廻っている。

 

(でも、ああああ、ステキ過ぎてずっと見ていたい……!)

 

 マティマナは、ルードランの反応がないことで心の声が届いていないと判断しているのだろう。

 うっとりと見惚(みと)れてくれている。胸の前で祈るように手を組み、うるうるした緑の瞳が見つめているのが感じられた。きゅん、と感じ入っているような感情の揺らぎ。

 

 マティマナの気配に僕が気づかないはずないのにね、と、ルードランは心で笑む。

 

(あぁ……麗しすぎて、美しすぎるのに。その上、あんなステキな表情……どうしよう、鼓動がうるさくて止まらない)

 

 もはや視線も外せず動けず、マティマナはウットリ顔で立ち尽くしたままだ。なにやら擽ったい思いと、温かさにルードランの心は満ちてしまった。なので、憂い顔を続けるなど不可能だ。

 

(あら、なんだか解決したのかな? ホッとするけど、少しだけ残念……)

 

 安堵しながらも何気に残念そうで、思わず微笑しながらルードランは素早くマティマナの隣に移動する。

 早足なのは確かだが、マティマナは余程のぼせていたのだろう。腰を抱きよせると柔らかな身体が軽く跳ねた。

 

「あ、ルーさま、いつのまに?」

 

 キョトンと見上げられ、ルードランの笑みは深まったが衝動も止められなくなっている。

 抱きしめるよりも早く、おとがいを指先で捉えて上向かせるとキスをしていた。

 甘美な思い。

 

(ひゃぁぁ、ぁぁ、ルーさま、早業(はやわざ)すぎます!)

 

 聞こえないと思っているようで、マティマナの心は、さっきの続きの騒がしさ。だが、甘くとろけていく感覚がルードランと混じり合う頃には、陶然とした感覚に言葉は塞がれた。

 

「マティマナは、魅力的すぎて困るよ」

 

 名残惜しく唇を離しながら間近で囁いた。

 

「天空城の方々の来訪が、待ち遠しいですね」

 

 真っ赤になりながら平静を保つようにマティマナは囁く。心の中は、ルードランへの想いで満ちている。それを感じ取りながらもルードランの杞憂は、ぶり返す。

 

 天空人の縁談は難儀そうだね。ルードランは、思案再開だ。自然、憂い顔めくらしい。

 

(あら、なにか気掛かりが?)

 

 見上げる視線で脳裡に響いてくるマティマナの声は心配そうだ。だが裏腹。マティマナの心は、うっとりとルードランの憂い顔に捉えられていた。

 

 


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