表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/209

魔気の外部保管庫の実力

「なかなかルーさまへ流れて行きませんね」

 

 暗黒の森での聖邪の循環は順調、というより速度も量も桁違いに上がっている。なのに、なかなかマティマナの聖女の杖の保管庫を満たしきれずにいる。

 

「すごい量が保管できるようになったのだね。ただ、無理をすることはないからね?」

 

 また来ればいい、と、ルードランは言葉を足した。ルードランは、勢いの強烈な聖邪の循環を目の当たりにし、マティマナの疲労を心配しているようだ。

 

 だが、マティマナは、どのくらいまで溜め込めるのか、かなりワクワクしていたし疲労度は低かった。どちらかと言うと元気いっぱいな感じだ。いつも制御気味にしていた鏡の勢いを徐々に増させつつある。

 

「あ、あ、これは、かなり凄いかも知れません!」

 

 量の把握はできないが呪いを吸収し聖なる魔気へと変換する流れが、激流になったのは分かる。土の下からの拾得物が、一気に増えた。

 

「これは……凄いね! というか、マティマナ、大丈夫かい?」

 

 ルードランが心配するほどの魔気量らしい。

 だが、千倍万倍になったらしき保管庫を満たすには、もっと増させてもいいのかも?

 

「わたしは大丈夫ですが、あ、ぁぁ、籠が直ぐに満杯に!」

 

 マティマナは拾得物に合わせて籠が自動に増えるように雑用魔法を設定し直しした、そして聖邪の循環を、もっと勢いを増させる。

 ようやくルードランへと聖なる魔気が流れこんで行くようになるまで、凄まじい量が必要だった。

 

 先にマティマナが満ちないと、ルードランへは流れて行かない。

 ルードランは、マティマナの魔気の器や保管の場に空きがあれば、いつでも適量を流してくれることが可能なのだが、逆はないようだ。

 

「うゎ、これは凄い!」

 

 珍しくルードランが驚愕(きょうがく)の声をあげた。

 

「大丈夫ですか、ルーさま。勢い落としたほうがよさそうでしょうか?」

「全く平気だよ。これは、かなり爽快だね」

 

 ルードランの保管庫のほうが、マティマナの保管庫より遥かに大きそうだった。元々、ルードランの聖域のペンダントは巨大な保管庫で、それが千倍万倍になったのなら、計り知れない大きさになるはず。

 

「いつ、聖邪の循環が必要になるかわかりませんから、ルーさまの聖域、満杯にはしないほうがいいですよね?」

 

 急に、呪いや邪を浄化する必要性に迫られることはないとは思うが、聖邪の循環は保管庫に空きがないとできない。

 

「いや、大丈夫そうだ。限界を超えたとき用の緊急保管庫があるみたいだよ。マティマナが造ったみたいだね」

 

 ルードランは愉しそうに囁いた。

 確かに、そんな風なイメージはしたかもしれない。緊急時に備える必要性が、なんとなく脳裡を掠めていたような気がする。

 もしかすると、もっと都合の良いことまでイメージしていたかも?

 

「わ、わかりました。では、満杯まで聖邪の循環をしますね」

 

 なんだか魔気の結晶細工って凄すぎます……、と、マティマナは小さく呟きながら聖邪の循環を続けた。

 

 

 

 ライセル城の工房に戻ると、法師ウレンは即座に拾得物の入った籠を取り寄せにかかってくれる。

 

「これは、すごい量ですね」

 

 ウレンは、取り寄せながら驚愕した声をあげている。

 工房のなかの広々とした床を埋め尽くす勢いの籠が現れた。籠は常より大きくしたし、数は勝手に増えるようにしたのでマティマナは把握していなかった。

 

「……こんなにたくさん、拾得物が存在しているなんて! 暗黒の森は地中……どんな状態なんでしょう?」

 

 確かに、今回はいつもよりは広範囲に浄化できた。ふたりの保管庫を満杯にするまでに、かなり前進している。とはいえ、面積的にはさほど広くはなく、その地下に、こんなに拾得物が埋まっているなど、絶対に奇妙すぎる。

 

「宝物が湧き出す地点が、多数あるのかもしれないですね」

 

 さすがに鑑定士のダウゼも驚いた様子ながら、言葉を聞く分には有り得ない話でもないようだ。

 

「慌ただしくて申し訳ないのですが、ソーチェさんの浄化を試してみたいです」

 

 諸々の報告も聞きたいのだが。今後を考えると、バシオンの力を浄化するのに、どのくらいの聖なる魔気が必要なのかは把握しておきたかった。

 

「そうだね。先に、試してみよう」

 

 ルードランはマティマナを抱きしめると、ソーチェの部屋の前へと転移した。

 ソーチェは、浄化の感覚が好きらしい。マティマナとルードランが浄化のために部屋を訪ねると大喜びで迎えてくれた。

 

「聖なる魔気、どのくらい量を増やしても平気なものかしら?」

 

 浄化には、大量の聖なる魔気で、雑用魔法のしみ抜きを浴びせる。といっても、最大量はマティマナの魔気の器の量らしい。ただ、今回は聖女の杖の保管量が増しているから連続で浴びせられる。

 

「思い切り、やって大丈夫だと思います」

 

 期待に満ちたソーチェの水色の瞳が見詰めてくる。

 

「苦しかったら、直ぐに止めますから」

「楽しみです!」

 

 マティマナの心配を余所に、全く不安はなさそうだ。

 

「行きますよ」

 

 マティマナはルードランに手を繋いでもらい、聖女の杖を使って大量の聖なる魔気で雑用魔法の「しみ抜き」を浴びせた。心地良さそうにしているので連続して最大量を浴びせている。

 聖女の杖の保管庫が空になったらしく、途中ルードランから補給された。今までの補給とは桁外れの聖なる魔気が衝撃を伴って流れて来る。

 

 ひゃああ、これ、凄い衝撃よ!

 

 マティマナは慌てるが、ソーチェは全く問題なさそうに浴び続けた。色褪せたような黒い翼から、どんどん闇が抜けるような感じだ。

 

 三回ほどルードランから補給された頃合いに、ソーチェの浄化が完了したらしく、大きな金色に光る巨大な翼が拡がり始めた。マティマナからの聖なる魔気は自然に止まっている。

 

「まぁ、なんて綺麗」

 

 マティマナは、揺らぐ金色の光が収束して白い翼に戻っていくのを眺めながら呟く。

 黒かった髪は、白銀に。黒の羽は白く。最初真っ赤だった瞳は、綺麗な宝石のような水色だ。

 

「ああ、ありがとうございます! とても好い気持ちです」

 

 ソーチェはひととき、浄化が完了し元の姿に戻れた感覚に浸っている様子だった。

 これならば助け出した天空人たちを、迅速に浄化可能だ。とはいえ、ひとりひとりの浄化が、困難なことは変わらない。凄まじい聖なる魔気が必要になるのだけは確定した。

 ただ、マティマナとルードランが満杯の魔気状態なら、連続してふたりくらいなら浄化することが可能だろう。

 

「ぁぁ、私、生娘の身体にまで戻ってます!」

 

 ソーチェは、マティマナの耳元で、そっとだが驚きを隠しきれない様子で告げていた。

 聖なる魔気による、雑用魔法の「シミ抜き」に、そんな効果まで?

 だが、それならバシオンによる天空人たちの穢れをスッカリ綺麗にすることができそうだ。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ