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聖域拡張と魔気保管庫

 法師ウレンに関しては、あっという間に話がついた。一旦、戻るのが良いかと思っていると、フランゾラムとリヒトのふたりが引き留める。

 

「僕たちに、訊きたいことがあるのじゃないかな?」

 

 カルパム領主のリヒトは、笑みを向けて訊いてきた。

 ウレンさんの話のついでに、なんて、良いのかしら?

 マティマナは少し躊躇(ちゅうちょ)したが、実の所、聞きたいことが心にあふれ過ぎている。

 

「暗黒の森ですが、本当に宜しいのでしょうか? 拾得物が多すぎるように思うのです」

 

 今後、天空人たちの浄化が始まったら、もっと頻繁に通うことになり拾得物はとんでもない量になるはずだ。

 

「構わないよ。暗黒の森の呪いが、どんどん消えていて本当に助かるからね」

 

 カルパム領主のリヒトは、笑みを深める。森の呪いを浄化してもらえることを思えば、拾得物など安いものなのかもしれない。といっても、魔石もゴロゴロでてくるし、とても安くはないのだが。

 

「堕天翼の被害者を浄化するために、大量の聖なる魔気が必要なのです。それで、暗黒の森に頻繁に通わせてもらってますが……」

 

 マティマナは、途中で言葉を濁らせた。何を、どのように訊けば、問題解決できるのか、ちょっと分からない。だが、たぶん、【仙】でもある大魔道師フランゾラムであれば、もしかして。

 

「足りないのか? あれだけ暗黒の森が浄化されたというのにか?」

 

 フランゾラムはマティマナの言葉の先を察したようで、暗く青い瞳をみはる。

 

「僕の聖域に貯めていくのだけどね。天空人の浄化に比べたら、暗黒の森の浄化のほうが遙かに楽かもしれない」

 

 ルードランが応えてくれた。

 

「はい。聖邪の循環ができないのです。不浄なはずなのに」

 

 マティマナは、ルードランの言葉を補足するように告げる。

 

「そうだね。堕天の被害者を聖邪の循環で浄化できれば、もっと簡単だろうと思うよ」

 

 何気にしみじみとルードランは呟く。

 

「聖邪の循環は、魔法具?」

 

 思案気な表情のカルパム領主のリヒトが訊いてきた。

 

「はい。これです」

 

 マティマナは、両面に紋様が刻まれた手鏡を取りだして差し出す。

 

「これは、また、古い品だな!」

 

 リヒトの隣で、フランゾラムは興味深そうにして声を立てた。

 だが、なるほどな、と、魔法具に納得した様子だ。

 

「堕天翼バシオンの不浄とは、どのようなものだ?」

 

 聖なる魔気で浄化しているとなれば、不浄は不浄なのだろう。それなのに、魔法具の手鏡で聖邪の循環ができないのは奇妙だと、フランゾラムも感じている様子だ。

 

「媚薬と催眠、闇の焔。そういった術を使います。堕天と名乗っておりますが、元々は天空人だそうです」

 

 マティマナは堕天翼バシオンとの戦いを思い起こしながら応えた。

 

「浄化するのも、天空人なのか?」

 

 フランゾラムは確認するように訊く。

 

「そうです。天空人は、媚薬と催眠、それに、バシオンの闇にとても弱いようです」

 

 マティマナの言葉に、フランゾラムは思案気に頷いた。

 

「それは、魔気の結晶細工の領域かもしれんな」

 

 天空人に関しての情報があるのか、フランゾラムは聞き慣れない言葉を呟く。

 

「魔気の結晶? 魔気の回復に使用する結晶ですか?」

 

 極たまに売られていることもあるが、高額な魔気回復薬のようなものだ。

 そんな高価な物を素材にして細工するということ?

 

「どのくらいの量が、必要なのだろう?」

 

 ルードランは、何やら心当たりがあるのか訊いている。

 

「買うつもりか?」

 

 触媒鉱石を買う、というより、ずっと非現実的な話らしくフランゾラムは瞠目(どうもく)している。

 

「少しだけれどライセル家にも蓄えがあるよ」

 

 さすがに効率のよい回復剤だから、ライセル家ともなれば備蓄があるのだろう。案内されたことがあるかもしれないが、いつも豪華すぎる品物に惑乱されすぎて記憶に留まってくれない。マティマナにとって、ライセル家の財宝類の困ったところだ。

 

「魔気の結晶細工、したことある?」

 

 カルパム領主のリヒトが訊く。

 

「ありません。というか、すごく小さな物しか、見たことないです。魔気細工できるものなのですか?」

 

 骨董市や、街の雑貨を扱う場所では高額すぎる魔気結晶の大きなものなど置いていない。

 

「触媒細工が可能な魔気量なら問題ない。だが、魔気の結晶は、このくらい必要だな」

 

 フランゾラムは、そう言いながら卓の上に巨大な魔気の結晶を積み上げた。キラキラと目映(まばゆ)く冴えた光を放つ魔気の結晶らしきは、想像以上に大きい。

 

「そ、それは、魔気の結晶なのですか?」

 

 驚いた声をあげたのは、法師ウレンだ。驚愕(きょうがく)して訊かずにいられなくなった様子だった。

 

「そうだ。だが、まぁ、こんな代物はリヒトにしか造れん」

 

 流通はしていないもののようだが、魔気の結晶を造ることが可能なの?

 様々な疑問が、次から次へと湧いてくる。

 

「この、聖邪の循環をする鏡を造るのですか?」

 

 こんなに巨大な魔気の結晶を素材にし、触媒細工をする、ということ?

 気が遠くなるような感覚に襲われながらマティマナは訊いていた。

 

「それも良い考えだが、ルードラン殿の聖域拡張と、聖女殿の魔気保管庫を造るのが良い」

 

 それなら簡単だ、と、フランゾラムは微笑する。

 簡単、というが、ふたつ造るとなれば、いったいどれくらいの魔気の結晶が必要となるやら卒倒しそうだ。

 

「触媒鉱石は役に立った?」

 

 不意に、カルパム領主のリヒトは話題を変えて訊いてくる。

 

「触媒鉱石、とても助かりました。迅速すぎる対応、本当に感謝しております」

 

 マティマナは、触媒鉱石を購入させていただいたことの礼が未だだったことに慌てて告げた。

 

「『知識』が出たろう?」

 

 フランゾラムが、興味深そうに訊く。なぜ分かるのだろう? いや、フランゾラムは【仙】であり、大魔道師。カルパムの領地からの拾得物に関しても、かなり把握できているのだろう。

 

「興味深いよね? 『知識』。もし秘匿の条件がないなら、ぜひ、うわつらだけで構わないから情報がほしいよ」

 

 リヒトは、端整な貌で笑みを深めて愉しそうに言う。少し無邪気そうな表情を浮かべれば、ゾッとするような美貌、と噂されるカルパム領主は、懐っこそうな雰囲気を醸す。

 『知識』によっては、極秘の条件が課される場合もあることは、鑑定士のダウゼからきいている。

 

「ルーさま、どうしましょう?」

 

 『知識』は、ルードランのものだ。マティマナが何かを決めることはできない。

 

「どういうわけか、暗黒の森で、地中からの拾得物に、ライセルの古い紋章が刻まれた『謎の魔石』という名の魔石がでてきてね。家系のものだから使わせて貰っているよ」

 

 ルードランは『知識』を与えてくれる、ライセル家由来の魔石のことを話し始めた。

 

「『謎の魔石』は、さまざまな条件が設定させているらしく、それを満たすと『知識』が出てくる」

 

 続くルードランの言葉に、フランゾラムもリヒトも驚いたような表情だ。

 

「わぁ、手に入る『知識』、ひとつじゃないんだ?」

「それは珍しいな」

 

 リヒトとフランゾラムが、ほぼ同時に声を立てた。

 

「やはり、そうなんですか?」

 

 それで、余計にダウゼは驚きを隠せないのだろうなぁ、と、マティマナは思う。

 

「面白い情報を聞かせてもらったから、必要な量、魔気の結晶をあげるよ」

 

 カルパム領主のリヒトは、にっこり笑ってとんでもないことを口にしていた。

 

 


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