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聖なる花が咲き乱れる

 聖なる魔気を、どんどん注ぎ込んでいる。堕天翼の転移城広間では、咲き誇った一輪の花から、なみなみと聖なる魔気があふれ出しているだろう。

 

「マティマナ、行くよ?」

 

 マティマナを抱きしめたままのルードランが囁く。

 え? どこに?

 

 思う間に転移されていた。堕天翼の転移城広間だ。聖なる花から、マティマナが注いだ魔気がどんどん流れ出していた。

 

「ルーさま? 一体、どうやって?」

 

 マティマナは先程までのドレス姿ではなく、工房でバシオンに眠らされたときの衣装に戻っている。ルードランも、先程までの夢仕様ではなく、マティマナの魔法具による武装だ。外套を纏っているようだが、それは麗しい形の半分甲冑めいた防具となっていた。

 

「これを纏ってから、マティマナを抱きしめて眠りに入ったからね」

 

 ルードランは微笑する。夢の空間から出ると同時、ライセル城の寝台から、ふたりの実体が転移されたようだ。

 大仰な玉座めいた椅子に座ったまま、バシオンはまだ眠っている。エヴラールたちに、夢の空間で足止めされているに違いない。バシオンの手には、マティマナの額飾り。

 ルードランが繋いできた手を引いてマティマナは駆け、バシオンから額飾りを取り戻す。

 

「ああ、もう、二度と手放したくないです」

 

 とても怖かった。だから額飾りが戻ってきたのが心強い。

 飾りを額に戻し、マティマナは無意識のうちに広間に聖なる魔気と叛逆の粉を撒きはじめる。バシオンの仲間がいる可能性があるから、効果的だろう。バシオンを裏切り、攻撃してくれる。

 なにより、聖なる力が強い光の粉だ。

 

 メリッサの歌が夢の空間から転移されて響いてきている。バザックスの空鏡の弾も、広間のあちこちを攻撃していた。マティマナがさらわれたときに立ち籠めていた闇が、かなり削れている。

 バシオンの仲間は、既に城にはいないのかもしれない。堕天翼の転移城には、かなりの聖なる魔気が充満しているから、不浄な者は居続けられないだろう。

 

「では、花園を造ろうか」

 

 ルードランはマティマナへと笑みを向けて囁く。

 そして手を繋いだままルードランは、『土狼の知識』の力でマティマナの触媒細工した聖なる花をドンドン複写し始めた。

 

「あ! ルーさま、それは素晴らしいです!」

 

 花が……たくさん咲けばいいのだと思う。

 バシオンの堕天翼、転移城の広間を聖なる花園に!

 皆へと、心で伝えた言葉。

 

「ここを聖なる花園にする、というマティマナの考えはとても良いよ。花なら複写の劣化もかまわないだろう? 美しさは、きっとかわらない」

 

 ルードランは、マティマナの描く景色を実現させようとしてくれている。

 

「はい! 魔法具としての性能が劣化するだけですから、問題ありません!」

 

 聖なる花は倍々に増え、瞬く間に広間を覆い咲き誇る。立派な花園になりそうだ。

 マティマナは複写された花たちへと、水撒きするように聖なる魔気をドンドン注ぐ。

 

「やめろぉぉぉぉ!」

 

 不意に目覚め、バシオンが叫んだ。

 夢の空間で、エヴラールたちに何をされたのか。身動きが上手くとれない様子でいている。

 

 何だかバシオンの気配が違うみたい?

 

 バシオンは、闇の焔をけしかけてこない。

 マティマナは杖を腕輪に戻し、なんとなく手鏡を取りだしてみる。邪の面をバシオンに向けると、聖邪の循環が始まった。

 

「ルーさま! バシオンさんから、邪気が奪えてます!」

 

 闇の焔が、防御となって「邪」を隠していたのだろう。夢の空間での誰かからの攻撃が、その闇の焔を削ぎ取ったに違いない。

 

 マティマナはバシオンから邪を奪い、聖なる魔気へと循環させて花へと注いだ。

 大量の聖なる魔気が使える!

 最初に触媒細工した一輪が、ぐんぐんと成長を始めた。花から、聖なる樹へと変わっていく。

 

「ただではおかないと、言ったよ?」

 

 ルードランは、バシオンへと告げる。バシオンは叫びながら「邪」を奪われ、宙を転げ回るような状態だ。

 花は、まだまだルードランによって複写されている。床を覆い、壁を伝い、柱に巻き付き、天井へと絡んで咲く。

 

 最初の一輪は、その間にマティマナから循環されて注がれる聖なる魔気で巨木へとグングン育っていた。城の天井を穿うがち、床を突き破って地へと根を下ろす。根は深く深く地に潜り込み、城は串刺しにされている。

 

 転移城の動きを封じたみたい――!

 

 最初の触媒細工は、花を満開に咲かせる大樹となった。幹と根が城を串刺しにし、枝葉も、城の部屋を突き抜けぐんぐん成長し続けている。

 

「駄目だ! 止めろ、やめるんだぁぁぁぁ!」

 

 バシオンの断末魔めく叫び。「邪」を奪われるのは、相当な苦痛のようだ。その上で、転移城とバシオンとは魔力で繋がっていたらしい。城がズタズタにされると同時、バシオンもズタボロだ。

 

「もう、止まらないです。諦めて、バシオンさん」

 

 マティマナは告げた。

 こんな聖なる花に支配された城に、堕天だと名乗るような存在のままで棲むことは不可能だろう。聖なる花は、増殖し続けている。

 

「おのれおのれおのれ! 覚えていやがれ!」

 

 バシオンは最後の力を振り絞るような咆吼を上げると、城と自らの繋がりを切ったようだ。宙を転がるようにして聖なるものに触れないようバシオンは広間の空間に浮き上がった。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちし、バシオンは大きなボロボロの黒い闇の翼を拡げる。バシオンは凄まじい形相ながら力尽きた気配で、壁を突き抜けバサバサと遁走していった。

 

 

 

 皆は、夢の空間の扉から喋翅空間を経由し元いる場所へと戻ったようだ。法師ウレンは、転移で聖なる花園と化した転移城へと追いついてきた。

 聖なる場所となったから、ウレンでも問題なく入れるようだ。

 

「これで、堕天翼の者を特定できます」

 

 ウレンは、転移城に残る気配から堕天翼の者の特徴を特定し、ライセル領への侵入を禁止してくれた。

 バシオンの根城は複数あるのだろう。

 だが、もう、バシオンも堕天翼の仲間も、ライセル小国には入れない。

 

「ここは、聖地になりそうだ」

 

 ルードランがマティマナへと笑みを向けて囁く。

 

「ここは、どこなのですか?」

 

 夢の空間から聖なる花を目指して転移できたから、実際の場所はマティマナには分からなかった。

 

「ディアリスの街の外れのようです」

 

 法師ウレンは、座標から場所を特定してくれた。

 

「それは、また、随分と辺境だね」

 

 東にいるとは聞いていたし気配はなんとなく感じていたが、ディアリスの街はユグナルガの東の辺境。かなり治安の悪いいくさの絶えない場所だ。

 

「それでは、戻ろうか。もう、ここは放置で平気だろうからね」

 

 ルードランの言葉に、マティマナは頷く。

 やっと、本当に安堵できる日々が戻りそうだ。

 法師ウレンは、三人まとめてライセル城へと転移で送ってくれていた。

 

 


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