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光の鱗からの魔法具

 ディアートの喋翅空間と、マティマナが額飾りに弾きだした夢が繋がった。混乱したままのマティマナだったが、全てが都合よく進んでいる。

 後は夢へと突入する人選と、夢のなかで戦うための魔法具の複写をどうするか。

 

「エヴラール殿、相談に乗ってもらえるかい?」

 

 ルードランは喋翅空間からエヴラールへと声を掛けた。

 

「構わんよ」

 

 エヴラールは、即座に工房へと転移で現れた。余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な気配。短い銀髪も金の眼も、ルードランに負けず劣らず麗しい。

 

 エヴラールは、もう転移の魔石をかなり自在に使いこなせるようだ。

 夢の中での魔法具を複写することに関し、ルードランは手短に説明している。半ばは、空間から聴いていたのだろう。エヴラールはすぐに頷いた。

 海洋博士ではあるが、ルードランの軍師的な役割も担っているようだ。

 

「王妃殿は魔法具不要。であれば、ルードラン殿が一回だけ複写に使った元を使うのが良い」

 

 元と複写。

 複写したものを複写してふたつにし、それぞれ複写。これで計五つ。そのなかのふたつを複写。これで計七つ。

 マティマナは頷きながら、ふたりの会話を聞いている。

 

「戦いに入る者の人選はどうするのがオススメかな?」

 

 ルードランはエヴラールに訊く。エヴラールは何かと戦闘に加わっていたから、喋翅空間越しや、直接に、皆の戦闘を見ている。能力を見定めるのは得意なようだ。

 

「皆、断る権利はあるが。私は参加しよう。魔石が役立ちそうだ。雅狼はリジャン殿の魔石だから魔法具はひとつだ。バザックス殿とマリサ殿は後衛からの攻撃側。ディアート殿とメリッサ殿は防御魔法で参加してほしい。法師殿は、ライセル城の護り、元当主夫妻にも城の護りを担ってもらう必要がある」

 

 エヴラール、リジャン、バザックス、ギノバマリサ、ディアート、メリッサ。マティマナとルードランを合わせて八名が、夢の空間へと入る。雅狼がいるから実質九名だ。

 

「元の魔法具の他に、六つの魔法具が必要なのですね」

 

 マティマナは頭のなかで計算していたから、計七つになるよう複写は可能だと考えた。

 

 エヴラールとリジャンが比較的劣化の少ないものを持つ。

 バザックス、ギノバマリサ、ディアート、メリッサは後方組ということで、残りのどれでも大丈夫だろう。

 数は、ピッタリかも?

 マティマナの思考が伝わったのか、ルードランが頷いた。

 

「マティマナの造ったものを劣化させてしまうのは、心苦しいのだけれど。数を増やすしかないようだからね」

 

 ルードランの苦渋の選択、という表情は珍しい。マティマナは首を横にふり、決意した表情になっていた。

 

「神殿で頂いた光の鱗から造った魔法具が、複写で増やせるなんて凄いです」

 

 マティマナにしてみれば、多少の劣化はあっても類似の魔法具の数が揃うことは素晴らしいと感じる。

 だって、もう、二度と造れない魔法具だもの。

 もう一度、光の鱗が手に入るなどとは考えられない。

 

 ルードランは頷くと、エヴラールが名を上げた者たち全員に確認をとっていった。夢に入る者も、ライセル城を守る者も。

 

「皆、了承してくれたようだね」

 

 ホッとしたようにルードランは呟いた。

 

「このくらいの人数がいれば、バシオンに立ち向かうのも大丈夫そうな気がします」

 

 とても頼もしい、と、マティマナは深く感謝する。逆に、これほどの数を揃えなければ、とても太刀打ちできない、というのが怖い。その上、マティマナの夢の空間などという慣れない奇妙な場所で戦わねばならない。

 

「皆の能力が、この特別な魔法具で、どのように発揮されるか楽しみだ」

 

 エヴラールは夢の空間での戦闘と魔道具や魔石の発動を、何気に興味深く感じているらしい。だが、思い切り余裕でいてくれるのが、マティマナには有り難かった。

 

「それじゃあ、複写、やってみるよ」

 

 ルードランは、謎の魔石で『知識』を使い、魔法具の複写を始めた。

 青く透明な魔石を手に、マティマナの触媒細工した外套へとかざす。蒼白い光がほとばしった。マティマナの雑用魔法のきらきらな光とは根本的に違う。複雑な文様の魔法陣めいた青い光が空間に拡がり、魔法具の外套を吸い上げるように舞わせた。

 

 宙に浮いた青い光の魔法陣を通過すると、外套は二着に。魔法陣は消え、ふわりと舞い上がった外套は、大卓へと降りた。

 

「……素晴らしい。劣化といっても、ほとんど変わっていませんよ!」

 

 即座に、鑑定したらしくダウゼの声が響いた。

 

「それなら良かった」

 

 ルードランは、ホッとした顔で、マティマナの造った元を用意された小卓へと移す。

 鑑定士のダウゼが見れば、どれが元であるかや、何回複写されたものか分かるだろう。だが、念のため最初から区別して行く形にしている。

 ルードランは慎重に複写を繰り返し、合計七着の外套に仕上げていた。

 

 

 

 それぞれに外套は配られた。

 

 ライセル家由来の「謎の魔石」は、余りにも効果が凄すぎる『知識』を複数所持させる魔石だった。魔石としての魔法の他に、ひとつでも垂涎(すいぜん)だという『知識』を複数得る可能性があるらしい。

 ただし、手に入れ方によっては危険な『知識』が弾き出るかもしれない。何が引き金になるかは謎。それゆえ「謎の魔石」というのだろう。

 

「呪文錬成や魔法合成などが可能な『蹉跌(さてつ)の知識』のときは、情報が飛び交っていましたが、どこかの魔女が偶然に手に入れてしまったようです」

 

 ダウゼも、『知識』は欲しいのかな?

 鑑定士のせいだけでなく何気に『知識』に詳しい。

 

「譲れないものなのに『知識』の情報、出回るのですか?」

 

 鑑定士のダウゼは頷いた。

 

「不思議なことに、どこかで出現が可能になると自然に噂が拡がるのです。『知識』を狙う者たちは皆、色めきたちますよ」

 

 譲れない、というのが魔法具や魔石とは異なる『知識』という特殊技の特色だ。

 今回、ルードランが手にいれたのは、マティマナの触媒鉱石と同じ名である『土狼(どろう)の知識』。使えるのは複写だけではないのだろう。

 ルードランは、今後、謎の魔石を進化させると共に、謎を弾けさせ、ライセル小国を治めるに相応しい『知識』を得て行くに違いない。

 

「ディア先生は追加の魔石、なくて大丈夫ですか?」

 

 成り行きを見守ってくれていたディアートへと、マティマナは訊いた。ディアートの喋翅空間からマティマナの夢の空間へと、一緒に入ってくれる。だが、ディアートとメリッサは追加の魔石を得ようとはしていなかった。

 

「今のところは不要……のようですね」

 

 ディアートはそう応え、マティマナは頷いた。だが次の瞬間、工房に置かれた拾得物の入った籠から、いくつかの魔石がディアートの元へと飛んで行く。

 

「まあ、とても綺麗です!」

 

 マティマナは、光に包まれるディアートを見て驚いた声を上げる。

 単純魔石たちは輝きながら、喋翅の魔石へと吸収されていくようだった。

 続いて、メリッサにも同じように単純魔石が飛んで行き、葡萄歌の魔石へと吸収されている。

 光の鱗から造られた魔法具を手にしたことで、皆、魔石の段階が変わってきているのかな?

 いずれにせよ、準備は整ったようだった。

 

 


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