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謎が弾けて『知識』が飛び出す

「これ……誰がまとうのが宜しいでしょうか」

 

 マティマナは恐る恐るルードランへと視線を向けて訊く。ルードランの様子が妙だった。

 

「ルーさま?」

 

 返事はなく、ルードランは触媒細工のときに部屋に満ちた光に包まれたままでいる。

 驚いたような表情を浮かべたまま、しかし何かと会話している気配。

 謎の魔石? もしかして触媒細工に触発されて進化してるの……?

 ルードランの心からこぼれるような言葉が心へと届いてきていた。

 

 やがて、ふわっ、と、包み込む光は消えて行く。

 

「マティマナの魔法具の複写ができそうだ」

 

 ルードランは驚いた表情のまま呟いた。

 

「謎の魔石……触媒細工の影響で進化ですか?」

「触媒細工の影響は確かだけれど、進化とは少し違うらしいよ。『知識』? そう、『土狼(どろう)の知識』といっていた」

「あ……触媒鉱石の名と同じですね。土狼触媒からの光が?」

「そのようだね。謎の魔石から、ひとつ謎が弾けた。謎が弾けるごとに『知識』という魔法に似た不思議な効果が飛び出すらしいよ」

 

 謎は、ひとつではないらしい。ルードランの魔石は、進化の他に『知識』という奇妙な魔法に似た力を提供してくれるらしい。

 

「『知識』ですって?」

 

 マティマナとルードランの会話を聞いていた鑑定士のダウゼが、驚愕(きょうがく)したような声を上げている。

 

「『知識』について何か知っているのかい?」

 

 ダウゼは最初、言葉もでないほどの驚き顔でコクコク頷いていた。

 

「『知識』は特殊な魔法に似た存在です。多くの、特に魔道師や魔女たちの垂涎(すいぜん)。魂すら差しだすほどの魅力を持ち、皆、血眼(ちまなこ)になって探しています。ですが、本来、手にいれる方法は過酷。罠に掛かる必要があったり、毒を飲まねばならなかったり、様々です。そのかわり、他の者には譲れない、手に入れた者だけが独自に使える特殊技が手に入ります。普通の魔法では絶対不可能なことを、実現させるのです」

 

 ダウゼは珍しく興奮したかすれ声で、必死になって説明してくれた。

 

「複写は、珍しいのかな?」

 

 ルードランは『知識』が普通の魔法では絶対不可能な特殊技ときいたからだろう。首を傾げながらダウゼに訊いている。

 

「複写自体は珍しくありません。ですが、ルードラン様は、王妃様の魔法具を複写、と、仰いました!」

「できないのかい?」

 

 ルードランは更に首を傾げる。

 

「王妃様の魔法具は、唯一無二の物ばかりです! どのような小さな魔法具も、複写は不可能です!」

「そうですよね。わたしも、魔法の布とか、雑用魔法で造りだせるものは複写できますが、触媒細工したものは複写できませんよ?」

 

 ダウゼの言葉に頷きながら、マティマナは、そういえばと思い起こしながら告げた。

 

「それなら、僕の複写は役立ちそうだね。ただ、何やら厄介な制約がついていてね。どうしたものか。それに、複写はマティマナの魔法具限定だよ」

「厄介、な制約ですか?」

 

 マティマナは、少し困った表情のルードランに瞬きしながら問いを向けた。

 魔法具の複写に、どんな厄介な制約が?

 

「マティマナの魔法具限定なのは良いのだけれど。複写すると元と複写の魔法具、双方が微妙に劣化するらしい。何度でも複写は可能だけれど、複写する度に劣化する。一回だけ元から複写し、複写品から複写も可能だけれど、数を増やすとなると、どこまでの劣化かは分からない」

 

 ルードランは思案しながら、そのまま呟いている感じだ。

 

「一回複写して元は残せば、ひとつは少しの劣化で済みますよね? でも、複写の複写を複写し……という感じだと、魔法具の効果がバラついていきますね」

 

 マティマナも深く思案してしまう。

 

「複写の仕方を工夫し、最低限の複写に留めるしかないでしょうね」

 

 話を聞いていたダウゼが呟いた。

 

「わたしは、夢のなかで魔法……使えてましたから。他の方で使うのが良いと思います」

「夢へは、どうやって入ってもらうのかな?」

 

 ルードランが訊く。ルードランを夢の中へと誘導するのは比較的容易(たやす)いが、他の者は……手段が分からない。だが、マティマナとルードランだけでは、絶対にバシオンには太刀打ちできないと分かっていた。

 

「私の喋翅空間と、連動させられないでしょうか?」

 

 空間越しに話を聞いていたのだろう。ディアートが工房へと入ってきて提案した。空間越しではなく、直接来たのは、マティマナの額飾りとの連動を試しにきたのだろう。

 

「そうですよね! 皆さんの魔法や魔石の力も、ディア先生の空間越しに作用しますから」

 

 言っている間に接近のためか、マティマナの額飾りと、ディアートの喋翅魔石が呼応し始めている。

 

「やはり、反応しましたね!」

 

 ディアートは、半ば予期していたようだ。

 

「予兆でもあったのですか?」

 

 マティマナはディアートの言葉に瞠目(どうもく)しながら訊いた。

 

「ずっと、喋翅空間を展開していますからね。わりあい楽に進化するのです。さきほど、マティさまが触媒細工をしたときの光が、空間にもあふれて進化を促しました」

 

 額飾りと喋翅の魔石は、マティマナの持つ土狼鉱石から光を引きだそうとしている。マティマナは慌てて雑用魔法からの聖なる魔気を注ぎ込む。触媒細工とは違った連動を促すための光と化し、きらきらとマティマナとディアートを包み込んで行く。

 

 何もかも都合良く。だが、それを疑う心は大敵だ。何もかも都合良くて良いのだと。マティマナはルードランの言葉を心に繰り返す。

 信じるのでも、願うのでもなく。

 最も都合の良い。幸せで楽しい――。それだけを目指す。

 

「繋がりました!」

 

 光が収束すると同時に、マティマナとディアートには、それが実感できていた。

 

「これで、私の喋翅空間に入っていれば、眠ることでマティさまの夢の空間への扉が現れますね」

 

 ディアートが、囁くように告げる。

 

「まだ、皆、入ってはダメだよ?」

 

 ルードランは、喋翅空間に入っている者、皆に釘を刺す。

 

「そう。魔法具を、複写して配りますから。それに夢へと入るのは、単独では絶対にダメです」

 

 マティマナも、皆へと告げる。

 

「夢に行く前には、打ち合わせが必要だろうね。その上で、たくさんの魔法具を身につけて、喋翅空間に入ったまま眠る。扉の前に集合だよ」

 

 ルードランは、念を押すように皆へと声をかけている。

 

 マティマナは、こっそりと喋翅空間から夢の空間へと入る扉に鍵を掛けた。バシオン側からは入れてしまうのだが、額飾りをマティマナがつけていれば、入ったとしても聖なる魔気の補充のせいで大したことはできないはずだ。

 皆が準備万端で集合したら鍵を外せば良い。

 

「では、まずは、人選と、魔法具の複写の手筈……ってところでしょうか?」

 

 マティマナは、複写の問題へと話題を引き戻す。

 光の鱗からの魔法具を複写する分配状態は難題だが、夢に突入する人数次第でかわる。ディアートも居るし、他の者たちも、喋翅空間に揃っているようだった。

 

 


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