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ルルジェの都に潜む射手たち

 心配することもなく、ほどなく魔石への吸収は一段落したようだ。

 キリなく吸収し続けるわけではなさそうで少しホッとする。逆にいえば、進化には時間がかかるのだろう。吸収させることが可能な魔石は、籠には入らずルードランの手元にやってくる。

 

「ルーさまの手元にたくさん来ましたけど、籠にも随分と飛んでいった気がします」

 

 確証はないのだが、そんな気がした。

 

「聖域への魔気の補充も大丈夫そうだよ。そろそろ戻ろうか」

 

 ルードランもホッとした様子で囁き、抱きしめると転移する。工房に入ると、ウレンが即座に籠を取り寄せてくれた。

 

「空での魔法具は、とても好評ですね!」

 

 メリッサが嬉しそうに教えてくれた。マティマナが出かけているときも、メリッサか鑑定士のダウゼは工房にいてくれるので、要望などあれば伝えて貰えるので助かる。

 

「それは良かった」

 

 ルードランは感心したように応え、マティマナへと笑みを向けた。

 

「要望は、なぜか、皆、魔石になっていますね。連鎖しているのでしょうか?」

 

 鑑定士のダウゼが首を傾げながらマティマナとルードランへと報告する。

 

「雅狼ちゃんにも魔石が必要みたいでしたし、博士も、ルーさまも。皆、ディア先生の喋翅空間で繋がっていたりしますから、連鎖は有り得ますよね」

 

 単純魔石は進化のためにルードランの魔石へと吸収されて行った。魔石同士の合わせ技もあるらしい。

 

「皆も僕の魔石のように、進化のために単純効果の魔石を吸収するのかな?」

 

 メリッサかダウゼが何か知っているかもしれないと思ったようで、ルードランは訊いている。

 

「ルードラン様の魔石は、魔石を吸収なさるのですか?」

 

 鑑定士のダウゼは、驚いたように訊き返す。

 

「あら、みなさんは違うのですか?」

 

 マティマナは、なんだか見慣れてしまったので魔石が魔石を吸収するのが当たり前のことのように感じていた。

 

「たいていは、複数所持でそれぞれを進化させます。進化の過程で連動し、合わせ技が生まれます」

 

 ダウゼは慌てて説明してくれている。

 

「ルーさまの魔石は、ライセル家の古い紋章入りですから、何か特殊なのでしょうね」

 

 マティマナはダウゼの言葉に瞳をみはりながら、ルードランの魔石が普通と違うことに驚いていた。

 法師ウレンが回収してくれた籠の中身は、いつもに増して量が多い。

 

「また、魔石が多いと良いですね。あ、でも、鑑定、急がなくて良いですから無理のないようにしてくださいね」

 

 マティマナは、ダウゼへと告げた。

 拾得物には皆が合わせ技に使えるような魔石が増えてきている。

 とはいえ、素材との仕分けのためにダウゼに鑑定してもらわねばならない。日々、拾得物の量が増えているので鑑定作業が過重になりそうで、マティマナはちょっと心配だった。

 

 

 

「最近、見慣れない衣装の者たちを、ルルジェの都中で見掛けるらしい」

 

 エヴラールは工房へと入ってくると、深刻そうな表情で告げた。

 

「怪しい者たちなのですか?」

 

 マティマナはエヴラールが何を危惧しているのか気に掛かって訊く。

 

「さりげなく武装しているつもりだろうが、射手は目立つ。ライセル城へと近づいては離れて行くという話だ」

「それは気になる話だね」

 

 話に加わるルードランも深刻そうな表情になっている。射手といえば、先日は上空から都を催眠魔法の矢で狙っていた。

 

「射手は、そんなに厄介ですか?」

「マティマナは絶対、ライセル城の門に寄ってはダメだよ?」

 

 ルードランは珍しく真顔でマティマナを見詰めて念を押す。

 また、さらわれると思っているのかしら?

 マティマナは少し首を傾げる。

 

「たぶん、マティマナの額飾りを狙っている。武装といっても、魔法具のたぐいだろうから門の魔法障壁も突き抜ける恐れがあるよ?」

 

 やはり、立ち聞きされてしまったね、と、ルードランは呟き足した。

 

「あ……わたし、中庭以外にはでないようにします」

「いや、主城からでないほうがいい」

 

 マティマナの言葉に今度は、エヴラールが呟くように言う。

 

「そうだね」

 

 ルードランも同意して頷く。

 えええっ。中庭もダメなの? 花の素材、集めたいのだけど……。

 手は繋いでいなかったが、心の声はルードランへ筒抜けたようだ。ルードランはマティマナを安心させようとしてか、笑みを向けてくる。

 

「しばらくの辛抱だから」

 

 ルードランは諭すように呟いた。外にでたいときには必ず僕と一緒に、だよ? 更に念を押すように言葉が足される。

 

「ライセルは主城や別棟は完璧な護りだ。だが、建物の外は護られてはいても若干の隙がある」

 

 随分とエヴラールはライセル城の状態に詳しく、マティマナは不思議に思った。

 

「若干の隙……が、博士には分かるのですか?」

 

 マティマナの言葉にエヴラールは頷いた。

 

「三つの魔石が、それぞれ育ってきたのだよ。闇煌の魔石も、夜叉の魔石も、本来、邪悪な方向性の魔石らしいのだがね。私が王妃殿の聖なる魔法具に包まれているせいで、奇妙な進化をしている。お陰で今は、護りの隙のようなものを察知しやすいのだ」

 

 邪悪な方向性というからには、本来は聖なる力や光の魔法の隙を突いての攻撃が可能なのかもしれない。

 博士が所持してくれているから良かったけど、敵の手にあったらそれこそ大変だったのかも?

 

「やはり、敵の入り込む余地があるのだね」

 

 ルードランは溜息まじりだ。

 法師ウレンの力は、どちらかといえば城攻めをされた時に、外のものへの攻撃に適する。

 ライセル城の護りとしても、城壁を閉ざして外敵を弾く方向性だ。

 だが、たぶん、門を閉ざしても、何か隙があるのだ。転移での出入りを禁止しているが、転移以外のなんらかの方法で侵入可能なのに違いない。

 

 ルードランも、エヴラールとは別の感知方法で同様のことが分かっているのだろう。

 

「しばらくの辛抱……というのは?」

 

 マティマナは、少し前のルードランの言葉を思いだして訊く。

 

「謎の魔石が、もう少し育つと例の探査を恒常化してくれそうだよ」

「私の魔石も、似たようなものだ。隙を塞ぐことが可能になるだろう」

 

 ルードランとエヴラールの言葉が頼もしい。マティマナは頷く。だが、魔石の進化は時間がかかる。

 

「マティマナには、ソーチェの浄化を続けてもらうから、僕と頻繁に暗黒の森へ行くよ? だから、外には出られるね」

 

 何気に外に出るのが好きなマティマナを慰めるようにルードランは囁く。

 確かに、呪いにまみれた場所でも暗黒の森へ行くのは安全だろう。誰も、ルードランとマティマナの転移を追うことはできない。まして、暗黒の森は、城塞都市カルパムの領地内にある。

 

「はい! 暗黒の森で散歩ですね。ルーさまの魔石を進化させましょう」

 

 散歩と言っても大した距離は進めないけれど。呪いには満ちているけれど。しかし、最も安全な場所かもしれない。ルードランと一緒にいられるし、聖なる魔気に包まれる。素材集めもできる。

 今は、ルードランかエヴラールか、どちらかの魔石の進化を急がねばならないときのようだった。

 

 


(お知らせ)


↓にリンクもありますが、本日より


「悪役令嬢に憑依したとたん婚約破棄を言い渡されましたが婚約破棄は破棄だそうです」(異世界恋愛)

https://ncode.syosetu.com/n0918il/


の同時連載を始めています。

ルードランと同じ、ユグナルガ王族直系の五家であるウルプ家、ウルプ小国が舞台です。

同じ世界、いずれマティマナたちとの交流もでてくる予定。

ぜひ、合わせてお読みいただけると嬉しいです。

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