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暗黒の森で捉えた秘密

「バシオンは何度でも、代わりの追跡者を送り込んでくるつもりらしいよ。目的は、マティマナの夢のようだ。急に夢との接続が切られたからね。その原因を探るめいを受けていた」

 

 ルードランはマティマナとふたりになると、追跡者の思考から得た内容を囁くように告げた。マティマナに関する内容だからか、慎重な気配だ。

 

「では、ギギガンデの他に、既に入り込んだ者がいるのかもしれないですね」

 

 沈黙の追跡者ギギガンデと同様な能力を持つ者が多数いるなら厄介だ。法師ウレンにしても、ひとりひとり個別に個体認識して行くしかない。一括(ひとくく)りにするには、情報が少なすぎるだろう。早く堕天翼に所属する者、という指定が可能になれば良いのだけれど。堕天翼という組織には謎が多すぎる。

 

「今のところ僕の魔石が反応しないところを見ると、城の敷地内に入り込まれてはいないよ?」

 

 ルードランはマティマナと手を繋いで歩き始めながら少し顔を覗き込みながら囁いた。

 

「ルーさま、それは凄いです! その魔石の力、とても安心できますね」

 

 心の底からホッとした響きの声がこぼれた。

 

「額飾りだとは気づかれていないと思うけれど。ただ立ち聞きされた可能性は否定できないね」

 

 それだけは覚悟しておいたほうがいい、と、言葉が足された。ルードランが魔石の力に気づいて発動させる前に、ギギガンデはライセル城の敷地内に入り込んでいた。

 

「そうなれば身につけたままが、一番安全ですよね」

 

 この夢を弾きだした魔法具を盗られた場合、どんな事態になるものか計り知れない。

 バシオンは魔法具の空間越しに、マティマナの夢へと自由に出入りできるようになるだろう。催眠など不要で、操られることになりかねない。

 ただ、魔法具は、強烈に聖なる魔気をはらんでいる。

 堕天翼の方たち、額飾りに触れることが可能なのかしら?

 でも、対策方法はあるのかもしれない。マティマナは、手がかりとなる聖なる花を咲かせてきてしまった。

 

「マティマナは必ず僕が護るよ」

 

 そう囁くとルードランは立ち止まり、柱の影でマティマナを抱きしめがてらキスを届けた。

 そして、転移。

 

 

 

「聖邪の循環……? 必要なのですか?」

 

 暗黒の森に連れてこられ、マティマナは少し驚く。

 

「謎の魔石が、聖域から膨大な聖なる魔気を喰らってしまったのでね」

「そうだったのですね。……あれは、大技のようでしたし」

 

 マティマナが同じことをするなら何日も掛けて城の敷地中に雑用魔法を撒くことになる。

 広範囲に魔法を撒いたのと同様の効果を、一瞬で実現させたのだから聖なる魔気の消費も頷けた。

 

「色々と、聖なる魔気の需要が多くなりそうで、少し心配だよ」

 

 抱きしめていた腕を解き、ルードランは手を繋ぐ。

 

「ルーさまと、歩くの嬉しいですよ? それに、最近、聖邪の循環、迅速ですし」

 

 前回の続きの場に転移で現れているから、早速(さっそく)、鏡を取りだしマティマナは聖邪の循環を始めた。

 ルードランが手早く転移するし、聖邪の循環の速度は増すばかり。拾得物を法師に回収してもらう必要がなければ、誰も、ふたりが暗黒の森に出かけていたと気づかないかもしれない。

 

 拾得物の量にはバラツキはあるが、毎回、大量なことは確かだ。

 

「ここの地下には、どうしてこんなに大量の品があるのだろうね?」

 

 ルードランの使う魔石も、この森の地中からの拾得物だ。

 

「不思議ですよね? ライセル家の古い紋章入りのものが出てきたわけですから」

 

 謎。ルードランが使う謎の魔石に隠された謎。

 それを解く鍵も、案外、聖邪の循環中に拾得物として出てくるかもしれない。一度に進む距離は短いから、まだまだ同じ一帯を探っていると言えると思う。きっと手がかりは、それなり纏まっているだろう。

 

 不意に拾得物のひとつが、籠へと飛ばずにルードランの目前へと浮いた。ルードランはあいているほうの手で、それを捉える。

 

「魔石? なぜ僕の元に?」

 

 呟くうちに、ルードランが手にした魔石らしきは、輝きながら「謎の魔石」へと吸収されていったようだ。手を繋いでいるので、なんとなく分かった。

 

「せっかく得たばかりの聖なる魔気を、大量に使ってしまったよ」

 

 単純な機能の魔石を吸収することで進化を促すらしい。魔石がルードランに語っている内容の断片が、手を繋ぎ聖邪の循環をしているマティマナにも伝わってきた。

 ただ、大量に単純魔石が必要な上に、謎の魔石が吸収する際には、聖なる魔気をゴッソリ使う。ということらしい。

 

「ここで魔石を使うのは、良いですね! すぐに聖なる魔気を補給できます!」

 

 マティマナはセッセと聖邪の循環で、ルードランへと聖なる魔気を渡す。

 

「確かにね」

 

 応えるものの、ルードランは聖なる魔気をマティマナのためだけに使いたがっている節があった。だが、ルードランの魔法の充実は、マティマナにとってはとても頼もしいことだ。

 それに、マティマナは元より聖なる魔気を独り占めする気は全くない。浄化にも惜しみなく使いたいし、ルードランに必要なら、なんだか嬉しくて、ドンドン渡したくなる。

 

「ルーさま、遠慮は無用ですよ?」

 

 マティマナはルードランの顔を下方から覗き込むようにしながら告げた。珍しく、ルードランから妙に遠慮している気配が漂っているのだ。

 

「そんな顔されると、キスしたくなるよ?」 

 

 囁きと共に、唇が触れ合いキスされていた。

 

 わわわっ、と、慌てるマティマナの聖邪の循環が早まる。別にどんな体勢でも、鏡の邪の面が呪いの場へと向かっていれば、聖なる魔気に変換して吸収できる。万が一、逆を向けても、マティマナには邪や呪いを吸収することはできないから、聖の面からの吸収は不可能だ。

 

「……ぅぅ、確かに、遠慮はダメですけど……っ」

 

 キスをねだったわけじゃないです、と、マティマナは真っ赤になりながら小さく呟く。

 

「一定量の魔石を吸収できれば、封じられている古代の知識のようなものが甦るのだそうだよ」

「タップリの聖なる魔気と、この辺りから蒐集できる単純機能の魔石が必要なのですね」

 

 暗黒の森の存在があればこそ、ルードランの持つ謎の魔石は真価を発揮できるようだ。この呪いに包まれた森の地中深くに謎のカケラが呪いにまみれてたくさん埋まっている――。

 

「古代の知識……、とても有用な気配ですね」

 

 聖邪の循環をすることで、ルードランの手元には頻繁に単純魔石が飛んできていた。そして光輝きながら謎の魔石に吸収され、聖なる魔気を大量に使う。

 

「……これは、キリがなくて困るよ。マティマナに仕事をさせ続けてしまう」

 

 ルードランは少し呻き声まじりに呟いていた。

 

 


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