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触媒細工で夢の空間を弾きだす

 その後も、堕天翼のバシオンはマティマナの夢への侵入を諦めなかった。

 直接的に、ライセル小国の王妃の心を操れる可能性があるのだから、ダメ元で接触してくるだろう。

 

 ああ、あんな触媒細工を置いてきてしまったから……。

 堕天翼の転移城に咲く聖なる花を思い起こせば、後悔する思いもなくはない。だが、マティマナにとって苦しい状況になってしまっているが、必ず役に立つはずなのだ。

 

 なにしろ堕天翼の転移城はどこに移動するかわからない。

 

『バシオン配下と思われる存在の侵入を確認しました』

 

 ディアートの喋翅空間に法師ウレンの声が響いた。

 

『捕獲できたのかい?』

 

 確認するようなルードランの声。

 

『残念ながら捕獲は出来ませんでしたが、二度とライセル城の敷地に入れないように術は掛かりました』

「領地に入れなくすることは可能でしょうか?」

 

 マティマナはすがるような思いで訊く。

 

『領地外れは難しいですが、ルルジェの中心には入れないはずです。天空城にも近寄れません』

 

 ウレンの言葉に、思案気なルードランの気配が感じられた。

 

『バシオン配下は、何をしに来たのだろう?』

『城の者に催眠を施すつもりだったようです。催眠の魔法をかけられた者はいましたが、聖なる品を身につけていたので弾いています』

 

 バシオンは、マティマナをさらったのと同様に追跡者を城へと侵入させているようだ。催眠の魔法具を与えているのだろう。城の者や領民が催眠で操られたら厄介だ。だが、聖なる魔気で祓えそうなのは安心材料だ。

 操られるのは困るが、実の所、城の者に限らず領民の誰であっても人質に取られるのが問題だ。バシオンは、領民など目に入っていないようではあるが。

 

 今後もライセル城に配下を忍びこませるだろう。だが、皆、なんらかの聖なる品を付けているから催眠はかからないか、かかっても直ぐに解ける。

 

「誰であっても、わたしみたいに、転移で拐われるの……困ります」

 

 さすがに領地民が転移で誘拐されるのまでは察しようがないとは思う。

 

『現在、ライセル城の敷地からの転移での移動を禁止にしました。私と、王妃様を連れたルードラン様は転移可能です』

『ええっ、私はだめなのですか?』

 

 ギノバマリサが文句めく声を空間に響かせた。

 

『城の敷地内は問題なく転移できますが、マリサ様も外に転移はダメです』

 

 ウレンの声に、バザックスの頷く気配。ギノバマリサが城の外にでることは、ほぼないとマティマナは思うのだが、違うのだろうか?

 忍び込む者がでるたびにしるしがつけられるから、出入り禁止になる者は増える。転移で連れ出される心配は徐々に減るはずだ。バシオンがどのくらいの追跡者を用意しているのか謎なのは不気味だった。

 

 

 

 まずは、わたしが催眠にかかっちゃダメよね。

 マティマナは工房で、素材を積み上げながら思案していた。バシオンからの夢への接触は、執拗だ。ルードランが一緒にいてくれれば心が強くいられるから追い返すことは可能だが、いつ不意打ちを喰らうか分かったものではない。

 ルードランが興味深げに近づいてきていた。

 

 マティマナはバシオンに接触される心を吐き出すように、気ままというか直感で集めた素材品々へと雑用魔法を注ぎ、四種すべての触媒を使って触媒細工を始める。素材は、地中からの拾得物が多い。

 

 集約されて出来上がったのは、美しい装飾品だった。意外に小さい、というか薄いが、綺麗な宝石も嵌まった金細工のような感じ。鎖を通す場所などはない。どこに飾るのか、ちょっと分からなかった。

 

「不思議な気配だね」

 

 ルードランが興味深そうに覗き込んできて呟く。

 

「夢の……空間ですか」

 

 ダウゼが驚き、感心したように言いながら歩み寄ってきて鑑定を始めた。

 

「できてます? 良かった……」

 

 マティマナはホッとしたように呟く。

 

「接触される夢の場所を取りだしたのかい?」

 

 ルードランは瞠目(どうもく)して訊いてくる。さすがに夢の空間の意味が分かるようだ。

 

「ディアート様の、喋翅の魔石空間のように、王妃様の夢の部分を空間にしているようです」

「魔法具ですよね? それなら、使いこなすことで皆さまを、招待できるでしょうか?」

 

 バシオンに接触されていた夢では、魔法が使用できていた。バシオンは、どこにいても、聖なる花から繋がる夢へと侵入してくるだろう。この夢の空間ではバシオンを捕らえることはできないと思う。そういう目的では造っていない。

 ただ、堕天翼の転移城に咲く聖なる花との繋がりは強い。

 

「可能ですよ! 夢に限りますが、ディアート様の空間を模した感じに出来上がっています」

 

 複数人を集めるときは、皆に眠って貰わないといけないだろうが。

 一先(ひとま)ず、マティマナはこの空間にいかない限りバシオンと遭遇することはないはず。普通の夢への侵入は阻止できると思う。

 

「マティマナがうなされずに済むなら嬉しいよ」

 

 ルードランはホッとしたように呟いた。

 

「ですが、放置はダメですよ? 最悪、この夢の空間を乗っ取られる危険があります」

 

 鑑定士のダウゼが物騒なことを告げた。

 

「あ……放置せず、乗っ取られないようにするには、どうしたら?」

 

 まさか、毎回バシオンと対峙(たいじ)して追い出さないといけないのぉ?

 それでは、自分の夢のなかから弾きだした意味がない。

 

「それは額飾りですから、起きているあいだ身につけていると良いです。王妃様の聖なる魔気が自然に注がれれば問題ありません」

 

 ダウゼの言葉に、マティマナは安堵して頷いた。

 

「これ、額飾りなのですか?」

 

 大抵前髪を下ろしているので、額飾りというのがちょっとピンとこない。

 

「つけてみると良いよ」

 

 ルードランが勧めるので、綺麗な宝石も嵌まった金細工を手にし、額に寄せる。ぱわわっと、淡い光が散乱し形が少し変わったようだ。マティマナの前髪に隠れるように小さな飾りは額に貼り付いた。特に、装着の違和感はない。

 

「どうですか?」

 

 マティマナは、少し薄茶の前髪を掻き上げながら訊く。

 ちょっとしたどよめきの気配。ルードランとダウゼとメリッサが、感嘆した声を上げた。

 

「マティ姉さま、これを」

 

 メリッサがすかさず鏡を差しだしてくれた。

 

「……!」

 

 吃驚(びっくり)するほど派手な飾りに変わっていたが、額を綺麗に飾ってくれていた。

 ちょっと神秘的な印象かな?

 薄く繊細な金細工でちりばめられたような宝石が煌めいている。

 

「つけたまま眠っても、意識しなければ空間には入れません。魔法具を使いこなすには、それなりの回数は空間に入る必要がありますね」

 

 れたような視線を向けながら、ダウゼは身につけたことで少し変化したらしき効能を伝えてくれた。

 

「とても似合っていて良いよ! でも、つけたままだと額にキスできないね」

 

 ルードランが耳元で、コッソリ囁いた。

 

 


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