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空を舞うための魔法具

 リジャンや雅狼にも戦力になってほしい。マティマナは翼飾のような魔法具を造ることにした。

 ジュノエレの翼は、翼のようにして飛べるが羽ではないらしい。

 とはいえ、鳥の羽は素材として良いに違いない。

 

 鳥の羽は、素材としてかなり集められていた。美しすぎて、ちょっと素材にするのが躊躇(ためら)われるものも多い。

 

「無理して使うことはないよ? マティマナの選択はいつでも、的確だから」

 

 頂き物のあまりにも美しい羽は、どうにも素材として使うことができない。

 使えなくて悩んでいるのがわかるらしく、ルードランは笑みながら囁いた。

 

 勿体ない、というのに似た感覚なのだが、使う場が違うのだと無意識が教えてくれているのかもしれない。

 

 素材として興味深いのは、ウレンが運んでくれた暗黒の森の拾得物だ。

 相変わらず聖邪の循環での進みは遅いのだが、染みた呪いを吸い取るせいか地中からの拾得物が多い。

 清浄になった石、宝石、化石らしき貝類、よく分からないが綺麗な色をした何らかの塊。

 

「飛び魚の羽なんて、どうでしょうね?」

 

 乾燥の魔法部屋から、メリッサが色々と運び込んでくれている。 

 飛び魚の羽は、天使の羽というよりは妖精の翅のような印象だ。

 

「ええ、良さそうよね!」

 

 昆虫の翅は妖精のものを奪う感覚めき、ちょっと蒐集するのを躊躇(ちゅうちょ)する。だが飛び魚の羽なら元より食材なこともあってわりと気楽な感じがする。

 

「マティお姉さまの直感が良いはずです!」

 

 他にも乾燥した花びらのたぐいなど、色々と素材を品出ししながらメリッサが励ましてくれる。

 何より、メリッサは、いつも触媒細工で何を素材にしたか覚えてくれていた。細かい配合まで覚えているのは、物凄い才能だと思う。

 

「水中の魔法具にも、地上のものが必要だったから、空中だと地中のものが効いたりするかも?」

 

 マティマナは独り言ちるように呟くと、海竜の触媒は除き、三種類の触媒を混ぜる形にした。

 翼飾を造ったときは、二つの触媒だったはず。

 だが、光の竜の触媒を混ぜるのは良い気がする。

 

 素材は色々混ぜて積み上げた。

 

 マティマナは、花びらが風に舞い上がるような光景を思い浮かべる。そして魔気細工の雑用魔法を聖なる魔気として触媒を通し、素材をきらきらと包み込ませた。

 

「ああっ、なんてまぶしいの!」

 

 メリッサの歓喜した声が響いた。

 ふわわわっと、素材は発光し収縮し、何やら形になって行く。

 

「できた? のかしら?」

 

 翼飾とは違う形だが、翼の紋様が刻まれ鎖で繋がる肩当てのような対の宝飾品。

 

「素晴らしい! 飛べる機能がついています! 上空まであがれますよ」

 

 鑑定士のダウゼは、一目見ただけで分かったようだ。

 

「ちょっと試していいかしら」

 

 マティマナはメリッサの両肩へと鎖で繋がったような形の宝飾品を触れさせる。

 

「あっ! すごいです! 身体が軽くなって、あああっ、浮きますっ!」

 

 メリッサは吃驚(びっくり)したような声をたてながら、工房の中くらいまで浮いている。光めいた翼が開いていることには気づいていないようだ。

 

「あら、とても綺麗な翼ね! 魔法具が外れそうな感じはないかしら?」

 

 鎖付きの対の宝飾具だったはずが、背で大きな翼を拡げる形に変わっている。肩についたまま、光の羽を放射しているようにも見える。

 

「え! 翼になっているのですか? 本当! 綺麗です! 魔法具は、装着感、全くないですが外れる感じもないです!」

 

 メリッサは振り向くようにして確認した後で、ふわふわと工房内を器用に飛んでいる。

 

「メリッサ、ありがとう。外せる?」

 

 床へと下り立ったメリッサに訊く。

 

「はい! 面白いですね、これ。くっ付く感じです」

「今の、材料、覚えているかしら?」

「大丈夫です! 同じように、まとめます」

 

 かなり色々と、ごちゃ混ぜにしていたのに、メリッサは楽勝で整えて行く。

 

「十組くらい揃います。でも、その後は、ちょっとずつ素材が足りません。書き出しますね」

「触媒は、三種類、同じ比率よね?」

 

 面倒なことにならないように、マティマナはできるだけ当分に触媒を使うようにしている。

 

「同じでした。大丈夫です」

 

 不安そうなマティマナを勇気づけるようにメリッサは教えてくれた。

 

「じゃあ、揃った分は、触媒細工してしまうわね」

 

 

 

 同じように、花びらが風に舞い上がるような光景を思い浮かべ魔気細工の雑用魔法を聖なる魔気として触媒を通す。素材はきらきらと煌めきに包み込まれ、次々に触媒細工されて行く。

 だが出来上がった形は、バラバラだった。

 

「ご心配なく。すべて同じ効果の空を自在に飛べる魔法具になっております」

 

 鑑定士のダウゼは確信したように告げてくれる。

 

「それなら良かった。普段から身につけるなら、色々と好みがあるから違う品のほうが良いのかも」

 

 空を舞うための魔法具が十二個。全部違った形ながら、装着して拡がる翼は同じ形だ。ただ、若干、保有する魔気量に左右されるところはありそうだ。

 

「ルーさま! 少しですけど、空を舞う魔法具ができました!」

 

 工房へと入ってきたルードランへと、マティマナは弾む声をかける。

 

「それは凄い! どれも形が違うのだね」

 

 ルードランは興味深そうに、マティマナの造った魔法具を眺めて感心したような声だ。

 その後で、無理をしていないだろうね? と、囁きで念をおしてきた。

 

「同じに造ったはずなのですが、不思議です。ただ、効果はどれも一緒だそうです」

「誰に試してもらうのが良いだろうね」

「雅狼ちゃんには、ぜひ試してほしいです」

「では、リジャン君とふたり分、確保だね」

 

 ルードランは笑み含みで応える。

 

「ルーさまも、お使いになりますか?」

「いや? 僕は飛べるし。マティマナと一緒に飛ぶのが良い」

 

 マティマナに翼をつけたら、どこに行ってしまうか分からないからね、と、こそっと耳元に囁かれた。

 

「あ……っ、そんなこと、しません! でも、わたしもルーさまと一緒に飛ぶのが良いです」

 

 瞠目(どうもく)しながら、マティマナは必死で訴えている。

 翼をつけてどこかに行こうなどと、考えてもいない。ルードランは愉しそうな笑みを浮かべてくれた。

 

「翼をつけて一緒に飛ぶのも楽しそうだね。たくさん出来上がって、色々片づいたら一緒に空の散歩もしよう?」

 

 ルードランは、ズルいくらい麗しい笑みを向けて囁く。

 

「ルーさまと、翼で空の散歩したいです! たくさん造りますね!」

 

 無理は駄目だよ、と、囁きながら軽くマティマナを抱きしめるとルードランは次の公務へと向かって行った。

 

 


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