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浄化と聖邪の循環

「天空城は転移で出ることはできますが、転移で入ることはできないです。それと、今は城に入ることは禁止です」

 

 ウレンが応える前に、ジュノエレが慌てて告げた。

 

「じゃあ、浄化するなら外側に浮くしかないのね……」

 

 包囲する堕天翼の者たちを追い払いつつ、浄化するしかないらしい。

 

「バザックスの空鏡の映像から判断するに、あのくらいの高さなら上がれると思うよ?」

 

 マティマナと一緒なら、と、ルードランは笑みを含めて囁いた。

 ルードランは、浄化しようとするマティマナを連れて浮いてくれる気満々の様子だ。

 

「天空城の近くまで行くのは、どうすれば?」

 

 さすがにライセル城から目的地まで、ルードランと一緒に浮いた状態で進むには無理がある。

 

「それは、私が転移で送りましょう。護衛が必要ですから、一緒に参ります」

 

 法師ウレンは、天空城近くの上空へと転移させてくれることが可能のようだ。確かに、ウレンの援護があれば浄化しやすいと思う。バザックスが空鏡での攻撃をしてくれるし、ルードランも防御はできる。

 

 雅狼ちゃんも、空は飛べないものね……。

 空を飛ぶための魔法具を造らねばならないが、今は天空城を一刻も早くライセル小国の管轄上空に移動させることが優先だろう。

 

 天空城へと堕天翼側がかける魔法のせいで移動速度が落ちているなら、浄化できれば移動速度は戻るはず。

 

 

 

 マティマナとルードランが手を繋ぎ空間に乗った状態なると、法師ウレンが転移させてくれた。

 ふたり空高く浮き、突然目前に岩が荒く削れたような天空城の下部を見ている状態だ。

 

 ウレンも一緒に来ていた。ウレンは魔法の板のようなものを行く手に浮かせ、足場にして宙を翔けている。黒い羽を拡げ邪悪な闇めいた魔法を天空城へと放つ者たちへと、ウレンは法術を放って墜落させていた。

 

 マティマナは、邪であるなら、聖邪の循環ができるのでは? と、最初、鏡の裏面を天空城へと向けてみたが反応がない。

 

「あら? 邪悪な魔法のようなのに、聖邪の循環では除去できないみたいです。しみ抜きしてみますね」

 

 頃合いに浮いてくれているルードランへと声を掛けながら、片手は繋いだまま、もう片方の手で聖女の杖を展開し、雑用魔法を撒いた。きらきらときらめきながら、しみ抜きの雑用魔法は下部の岩場に貼り付き浸透して行く。

 

「しみ抜きは、効くようだね。岩場の色が綺麗になっている」

 

 ルードランは、時折飛んでくる堕天翼の者かららしき魔法を防御で弾いてくれている。

 

「ルーさま、ありがとうございます! 防御越しでも、ちょっと衝撃ありますね。邪じゃないなんて不思議です」

 

 巨大な浮遊する天空城を包み込むよう、しみ抜きの雑用魔法を撒き続けた。

 

「聖邪の循環ができれば良かったけれど、これは途中で補給に行く必要がありそうだ」

 

 既に、何度かルードランは聖域からの魔気をマティマナへと流してくれている。

 マティマナが意識しているよりも、ずっと膨大な量の、しみ抜きの雑用魔法を撒いているらしい。

 

「補給……暗黒の森ですか?」

「そう。このまま飛んで、ここに戻ればいい」

「拾得物、置き去りで良いですかね?」

「後で取りに行こう」

 

 会話をしながらも、マティマナは雑用魔法を撒き続け、ルードランは何度も聖域からの魔気を流してくれていた。

 

「座標を覚えておきますから、拾得物は私が回収しましょう」

 

 近くで堕天翼の者を追い払ってくれているし、ディアートの喋翅空間でも繋がっているので、会話を聞きつけたウレンが提案してくれている。

 

「それは助かるよ。大荷物まで転移で運べる気がしないからね」

 

 以前に、バザックスを連れて三人で転移したことはあったが、あれは特殊な状況下での成せる技だったろう。

 

「戻られるまで、堕天翼の排除につとめます」

 

 マティマナは、しみ抜きの雑用魔法をタップリ浴びせて包みこみ続けた。

 

「そろそろ、聖域が尽きる。飛ぶよ!」

 

 ルードランは空間の上で、マティマナを抱きしめると暗黒の森へと転移した。

 

 

 

 一瞬で空から森へと景色が変わる。静かな森の手前。ルードランは抱きしめの腕を解き、手を繋いできた。マティマナは以前のように大籠を置き盗難除けをする。ウレンが転移させるのは許可にした。

 

「聖邪の循環ができれば簡単でしたのに」

 

 マティマナは、堕天翼の使う魔法が邪とは違うことに微妙な気分で呟く。

 

「しみ抜きの魔法が効いて良かった」

 

 ルードランはしみじみと応えた。

 

「しみ抜きで浄化できる魔法……何なのでしょう?」

 

 話ながら一緒に森へと足を踏み入れる。真っ黒に変わった木々の景色のなか、聖邪の循環を始める。二度目の場所だからか、気が急いているせいか、聖邪の循環の速度が早い気がした。

 

「マティマナ、凄い速度で聖邪の循環をしているね。もう、戻れるよ」

 

 ルードランは驚きのままに告げると、暗黒の森のなかでマティマナを抱きしめる。それでもルードランの聖域を満たすまでに、さほどの距離は進んでいなかった。森全体を綺麗にするには、一体どのくらいかかるのか見当もつかない。拾得物は多かったようだ。

 

「外にでなくて大丈夫なのですか?」

 

 頷く気配を感じた頃には、また空の上。

 天空城の間近だ。

 足元には、眼には見えないルードランの空間の足場がある。

 

「座標ではなく、天空城との位置関係での転移のようだね」

 

 座標からすると、元居た場所から少しずれているのは分かった。マティマナの撒いた、しみ抜きの魔法の煌めきが尾のように天空城から長く棚引いて空を輝かせている。

 

「天空城の移動速度が増しています!」

 

 ジュノエレの歓喜めいた声が、ディアートの空間から響いてきた。ディアートは、ジュノエレを喋翅空間へと招いたようだ。

 マティマナは即座に、しみ抜きの雑用魔法を撒くのを再開する。

 

「凄まじい効果だ」

 

 バザックスの声も響いてきた。空鏡での光景はディアートの空間で展開されている。

 空鏡からの攻撃の弾は、落とされては回復し舞い上がってくる黒い羽を持つ者を直撃していた。

 

「ライセル領までは、まだ遠いですかね?」

「まだまだ……いや、だいぶ近づいたよ。加速が付いている」

 

 ルードランとマティマナは天空城から一定の距離を保った状態で浮いているので、移動感があまりない。

 だが、真下をみれば移動速度が随分と早まっているのが分かる。

 

「ああっ、こんなに凄い速度で移動してたなんてっ」

「振り落としたりしないから大丈夫」

 

 ルードランは慌てるマティマナに笑みを向け、繋いでいる手に力を込める。

 

「もう少しです!」

 

 ジュノエレの声が響く。

 マティマナは、声に励まされるように、一気にしみ抜きの雑用魔法をちまける。すかさずルードランから聖なる魔気が流れ、マティマナを満たした。

 

「ライセル領の上空です!」

 

 法師ウレンが知らせてくれた。

 

 


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