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天空城の移動

 一刻も早く、天空城を動かす必要があるらしい。

 

「天空城を、ライセル小国の領地上空に移動させるには、まず、どうすれば良いのかしら?」

 

 マティマナは焦りがちな気持ちを抑えつつ訊いた。

 手伝えることはあるのだろうか?

 

「自力で動けるのかい?」

 

 ルードランが重ねて訊く。

 

「包囲されていますが、じわじわと移動してはいるのです」

 

 ジュノエレは焦れったそうに呟いた。

 

「敵の方々は、ライセル城の上空にくれば弾かれますよね?」

 

 ルードランが許可したのは、天空城と、そこに所属する天空人だ。敵である堕天翼の者たちは入れないと思いたい。

 

「弾くには堕天翼という存在たちを特定しないといけないね。天空城を襲っている者であれば弾くだろうけれど。それと、どのくらいで来られそうかな? どのくらい持ち堪えられるのだろう?」

 

 マティマナへと応えた後で、ルードランはジュノエレへと訊いた。

 

「空で戦闘ができるものは、今のところライセル小国には居ないと思うが?」

 

 エヴラールは少し眉根を寄せながら指摘する。

 

「空鏡をお使いの方がいらっしゃいます。まずは、それだけでも充分助かります」

 

 空鏡の魔石は、天空人の由来だと言っていた。威力も増しているし、どこにいても監視や攻撃ができるから確かに援護には向いている。

 

「それは、私だ。では、援護しよう。天空城の位置は?」

 

 バザックスの言葉に、ジュノエレは座標を示している。

 

「わたくし空を飛べます」

 

 おもろむにギノバマリサが笑みと共に告げた。そういえばギノバマリサは『翼飾』を所持している。練習しているだろうし、元より宝石魔法の使い手だから、きっとかなり自在に飛べるようになったのだろう。

 

「ダメだ、マリサ。無茶過ぎる」

 

 今にも魔法具で飛び上がりそうなギノバマリサを、バザックスが肩を抱き留め慌てて止めた。

 

「あ、でも、それ良い考えです。翼飾、量産できれば……騎士さんたちが護りに加われるのでは?」

 

 マリサはダメよ、と、マティマナは言葉を足した。

 ただ、問題は、何を使って造ったのか記憶がないことだ。メリッサは覚えているだろうか?

 『翼飾』を造ったとき、メリッサはマティマナ付きの侍女にはなっていたが、まだ助手的な役割ではなかったように思う。

 

「造れそうかな?」

 

 材料を覚えていないらしきには気づかれているだろう。ルードランが笑み含みに訊いてくる。

 

「全く同じものではなくても、空を飛べる魔法具、試してみます」

 

 何らかの素材があれば、きっと可能だ。海中へと潜るための魔法具も造れた。

 

「空を飛ぶことが可能な魔法具があるのですか?」

 

 ジュノエレが驚いた表情で訊いた。だが、期待はしているようで光でできているような羽が、ふわわっと大きく拡がる。

 

「今のところ、マリサの所持するひとつだけですが。造るの試します」

 

 翼飾は、異界での素材を使ったように思う。 

 

「売られた者を、少しずつでもライセル城に保護するわけにはいかんのかね?」

 

 エヴラールの言葉にマティマナも頷く。まず天空城を安全な場所に移動、それは分かるが同時に保護も進めるべきではないだろうか?

 

「天空城を安定させ、バシオンの転移城をライセル領に入らせないようにする必要があるのです」

 

 ジュノエレは切実そうだ。

 

「天空城がルルジェの都の上空に入れれば、敵方を阻止できるのかい?」

 

 ルードランは確認するように訊いた。

 

「堕天翼の転移城は、通常どこにでも転移可能な厄介な城です。転移城に拉致されている者も売られた者も救出せねばなりませんが、受け入れ体制を完璧にしないと取り戻せないのです」

 

 拉致している堕天翼側には、底知れぬ嫌な気配を感じる。

 

「助けに行った天空人たちは、ことごとく拉致され、他の者と同様の憂き目に遭っています」

 

 ジュノエレは言葉を続けた。

 

「天空人たちが逃げられん理由でもあるのかね?」

 

 エヴラールはいぶかしげに訊く。 

 確かに他にも事情がありそうだ。

 

「麻薬漬けと、天空人専用の特殊な首枷のせいで、そもそも逃げる気になってくれないのです」

 

 それなら薬を抜く必要があるし、特殊な首枷を外さないといけない。

 どのような代物なのかが分からないが、逃げる気がないなら助けるといいながら、こちら側が拉致する形になる。

 

「ライセル領地に天空城を入れるとどうなる? 確かにライセル小国の領地に近づいているが、あの速度ではまだまだ刻が掛かるぞ」

 

 バザックスが訊く。空鏡の魔石で、天空城の場所を把握したようだ。ディアートの喋翅空間のなかに、空鏡で捉えた天空城の姿が映し出されてきた。

 青空に浮かぶ、なんて綺麗な城!

 巨大で、下方は削れた岩のような外観。上部は、広い城の敷地だ。たくさんの施設があると分かる。

 そして、たくさんの黒い翼を持つ者たちに包囲され、邪悪な魔法を注がれ続けていた。

 

「ライセル領地の力を得れば、天空城は変化します。天空人の力も底上げされるのです」

 

 だが、堕天翼側に包囲され動きは鈍い。邪悪な魔法を浴びる度に移動速度が落ちているように見えた。

 

「引き寄せるなり、ライセル城側からできることはないだろうか?」

 

 ルードランは思案げだ。

 

「包囲してる者たちを、減らすのが良いですよね、たぶん」

 

 マティマナは呟くものの手立ては分からない。

 翼飾も、造れる保証はない。

 現状では、バザックスの空鏡の魔石による攻撃くらいしか手がなさそうだ。

 

「できる限り、排除してみよう」

 

 バザックスが応えた。空鏡からの弾が的中しても、黒い羽の者たちの周囲には障壁が現れるため威力は弱まる。だが、浮かぶ力は失うようで下降して行った。

 

「城を浄化するには、近寄らないとダメですよね……?」

 

 マティマナは雑用魔法で浄化すれば移動速度が上がりそうな気がして呟いた。

 あ、でも、ルーさまの空間に乗せてもらって移動だと、王と王妃が最前線? それは拙いかな?

 それでも、マティマナの雑用魔法での浄化は天空城にも効きそうな気がした。

 

「堕天翼の者は、天空城に入り込んだりしないのでしょうか? 転移が使えますよね?」

 

 法師ウレンが訊く。

 

「天空城は、堕天翼の者を判別できますから、転移で入ることはできません。ですが、今も、邪悪な魔法を注がれ続けられ、堕天翼の者が、かなり接近できるようになってしまいました」

「天空人は転移できないのか?」

 

 エヴラールは少し不思議そうに訊く。

 そういえば、ジュノエレも空を舞って降りてきた。

 

「出来ないのです。堕天翼の者でも、元天空人は転移できません。堕天翼のおさバシオンは元天空人なので転移できませんが、城を転移させることを可能にしました。必ず、天空城の近くへと城を転移させてきます」

 

 ジュノエレは絶望感に満ちたような表情だ。よくあの包囲網を抜けライセル城まだ来られたものだ。

 

「ウレンさんの転移で、天空城に連れていってもらうことは可能ですか?」

 

 マティマナは、籠城中の天空城に入って中から浄化したらどうだろう? と、考えながら呟いた。

 

 


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