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呪いの底に眠る町

「乾燥の魔法部屋を造るときも、地下を掘って素材を探していたのだよね?」

 

 ふと気づいたようにルードランは訊く。

 

「そうでした! ただ、何を掘り出したのかは使ってしまったので分からなくて。石や土や岩も、素材にしたようですけど、特殊な感じもありました」

 

 宝石とまではいかないように思うけれど、化石? とかかしら?

 マティマナは必死で思いおこそうとしながらも、聖邪の循環を続けた。

 

「一度、ライセル城のどこかを掘ってみてもらおうか。何か、特殊なものが埋まっていてマティマナに必要なのかもしれないね」

 

 じりじりとマティマナと一緒に少しずつ前進しながら、ルードランは思案気に呟く。

 

「そんな! 綺麗なライセル城の敷地に、掘って平気そうな場所なんてないのでは?」

「そうでもない気がするよ」

「あっ、また何か地中から籠に飛んで行きました」

 

 それからも、聖邪の循環をする間に時折、地中から品が飛んで行った。

 

「そろそろ良い具合に、聖なる魔気が聖域に満ちてきたみたいだ。一旦戻ろうか」

 

 ルードランが繋ぐ手に淡く力を込めて囁く。

 

「はい! 籠へも、結構、飛んでいきましたし。戻りましょう」

 

 森に入ってほとんど進んでいないこともあり、黒い木々が続く森である以外、怖い映像も視ることなく済んだようだ。ふたりは、すぐに森を出ることができた。

 

「森を出てしまうと、すっかり普通の風景に見えるね」

 

 ルードランは出てきたばかりの「暗黒の森」と言う名の場所を振り返っている。

 

「不思議ですね。でも、やっぱり呪いの多い場所だから緊張していたみたいです。外にでてホッとしました」

 

 安堵の息をつきながらマティマナは告げた。

 聖邪の循環で聖なる魔気を手にいれることはできるのは有り難いが、やはり怖い場所なのだ。

 

「当分、来なくて大丈夫だけれど。次に来ること、大丈夫そうかな?」

 

 余りに怖いならムリしなくて大丈夫なんだよ?

 

「あ、いえ。怖いものも出ませんでしたし。足りなくなる前には来ましょう」

「そういえば、籠には何が?」

「籠、大きすぎましたかね」

 

 ルードランと一緒に歩み寄り、籠を覗き込む。マティマナの腰くらいまでの高さのある大きめな籠は、半ばに埋まっている。

 

「これは凄いよ。こんなにたくさん掘り出していたのだね」

「あら。十個くらいかと……」

 

 手を繋いでいるので、ふたりで同様に驚いていることは伝わってきた。

 

「なんだか、色々な種類が入っているね」

 

 大半は、生活雑貨のように見える。しかも古い……というか、時代が違っているような気がする。長く続く名家が代々の宝として蔵に入れていたような雰囲気だ。

 それに合わせ、金貨、宝石、宝飾品。綺麗な石や、鉱石のような綺麗な結晶もある。大漁だ。

 

「随分と、高価なものが多そうです。これ、金貨だと思うのですが、見たことのない形です……」

 

 今流通している金貨のたぐいは、王族の始まりとなった最初の天人の子へ天から贈られたらしい。王宮の神殿地下には、まだまだ放出していない金貨や金塊があるというのは、ディアートから習った。

 

「確かに。どこか他国の品だろうか?」

「ダウゼさんなら、鑑定できるかもですね」

「転移させて貰おうか」

 

 ルードランは、ディアートの喋翅空間越しに転移で荷物ごと引き上げてほしい旨を告げている。

 ギノバマリサ宛てだったが、応じたのはウレンだ。

 一瞬で、大きな籠ごと工房に戻ることができていた。

 

 

 

 鑑定士のダウゼが、持ち帰ったものを端から鑑定してくれた。

 生活雑貨としか思えないような品も、ほとんどに効能がついている。長く呪いの森の下に置かれたためか、元々そういう品だったのかは分からないようだ。

 古代の金貨らしきも、金銭的な値打ちより魔法の効能のほうが興味深そうだった。

 

「ほとんど魔法具だったのですね。素材として使えそうなものはありますか?」

 

 綺麗な石や、鉱石っぽい結晶もあった。

 

「魔石もありましたよ! 素材にできそうなものは、こちらに纏めてあります」

 

 まだ全部の鑑定は済んでいないようだが、素材にできそうなものは真っ先に仕分けられていたようだ。

 

「魔石が埋まっていただなんて吃驚(びっくり)です」

「自然発生的な呪いで、町がひとつ飲み込まれたのでしょう。自然発生的な呪いは、地上のものは何もかも消滅させてしまいます。ですが、魔法の力の強いものや、地下に隠されていたものは辛うじて残るようです」

 

 以前にリジャンが骨董市で集めてきた魔石の残りも、工房の棚にある。魔石は、取り敢えず同じように纏めておくことにした。

 

 使える素材としては何があるだろう?

 魔石ではなかったが綺麗な石。きらきらと結晶がついている鉱石。化石? 貝殻のようなもの。何らかの塊。樹木の根? 石化したような木の破片だろうか。

 どれも、マティマナの雑用魔法の素材探査で拾い集めたようなものだから良く分からなくても使えるはず。

 

 海中の物や、地上の物が必要だったように、地中の物も何らか必要になるのだろう。乾燥用の魔法部屋を造るときに、足りない素材は地中から掘り出していた。土や石や岩も金属的なものも、使えるに違いない。

 

「魔石が増えたそうだな」

 

 ふらりと、エヴラールが工房に入ってくるなり訊いてきた。

 

「はい。魔石の場合、魔石だとは分かっていますが。何の効果かは謎のままですよ?」

 

 マティマナの言葉に頷きながら、エヴラールは少し思案気にしている。エヴラールは魔石の棚を見遣り、それからマティマナへと向き直る。

 

「魔石だといわれている品で、持ち主のいない物を預かっても良いか?」

「博士、魔石をお試しになるのですか?」

「使えそうなものがあれば、是非に使いたいところだ」

「分かりました。ルーさまには伝えておきますから、どうぞ」

 

 魔石は、ひとまとめに綺麗な箱に入れられているので、箱ごとエヴラールへと渡す。魔石の場合、試してみないと分からないことが多いし、魔石との会話するとき人によっては静寂も必要だろうと思う。

 エヴラールに使用できるものがあれば、ライセル小国としても益があるに違いない。

 

「助かる」

 

 エヴラールはホッとした様子で、礼を告げながら箱を受け取り工房を出て行った。

 なんだか、随分と柔らかな性格になったのかも?

 マティマナは見送りながら不思議そうに首を傾げる。きっと、人魚のベリンダの影響なのだろう。

 残りの魔石をエヴラールが吟味することで、使い道が分かるものが増えることをマティマナは期待していた。

 

 


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