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暗黒の森の呪い

 早速(さっそく)、大魔道師フランゾラムは「暗黒の森」と呼ばれる呪いの場所の入口へ転移で飛ばしてくれた。

 幻覚のように怖い映像が視えることはあるらしいが、襲っては来ないらしい。ただ、かなり怖いよ、と、領主のリヒトは、微笑しながら言葉を足していた。

 

「今度は、僕たちだけで、ここまで来られるね。森の中も、呪いを浄化したところまでは入れるようになるから、いつでも続きから始められる」

 

 ルードランは少し安堵した気配だ。たぶん、ルードランの聖域に蓄えられている聖なる魔気は、枯渇寸前なのだろう。ルードランは定期的に自らの魔気を足しているとは思うが、ライセルの領地の護りにも使われているから大量には注げない。

 

 呪いの滞る地に来ていてなんなのだが、マティマナもホッとしている。いつでも、大量の聖なる魔気を手にいれることが可能になった。

 

「聖邪の循環の場合、聖なる魔気はルーさまの聖域に蓄えられますが。拾得物、どのくらいの量になりますでしょうね?」

 

 素材になりそうなものも多分ある。聖邪の循環をしてから手にすれることになるから、きっと安全な素材だろう。この際、何が素材になるのかは謎だが。

 

「持ち帰る方法が心配?」

 

 ルードランは手を繋ぎながら訊いてきた。

 

「雑用魔法で、ライセル城の工房まで飛ばすのは、ちょっと遠いですよね」

 

 小物をライセル家の領地内では転移させることは可能だが、小物とは限らないし、かなり遠い。

 

「じゃあ、例えばだけど。ここにマティマナの魔法の籠を置いて、森のなかで拾得物を得るたびに送り込むことはできるかな?」

「あ、それなら可能です。途中で籠を増やすこともできると思います」

「それなら、聖邪の循環を終えたらここに戻ろう。喋翅空間からマリサの魔石で転移させてもらえば回収可能じゃないかな?」

 

 ディアートはウレンとの、混乱の最中でも喋翅空間は開いてくれている。

 本来なら、空間から法師が転移で運んでくれるところだろう。

 

「それは良いです! 安心して素材集めができますね」

 

 マティマナは大きめな籠を「暗黒の森」の入口に置いた。人の出入りなどは全くないらしいが、一応、雑用魔法での盗難除けはつけてみた。

 両面に模様の刻まれた手鏡を片手に、もう片方の手はルードランに確りと繋がれて森のなかへと入る。

 

「これは……」

「一瞬で景色が変わりましたね」

 

 森の外から見ている限り、極々普通の緑の樹木の森に見えていた。

 だが、一歩入り込めば、木々は黒い。奥へと黒い石畳めいた道のようなものが続いている。そして禍々(まがまが)しい呪いの気配。

 マティマナの身体から自動的に雑用魔法がきらきらと煌めきあふれ、ふたりを護るように包み込む。

 

「自然発生的な呪いの痕跡だと言っていたね。もう、ここから呪いの除去が必要そうだ」

 

 マティマナは頷き、まずは足元へと鏡の邪の面を向けて呪いを吸収し始めた。森に入る前には、少しの気配も感じなかった。恐らく、強烈な結界のような魔道で呪いが外へと漏れ出ないように囲っているのだろう。

 

「ああっ、以前より広範囲から吸い取れるようになっています!」

 

 鏡は聖なるものへと変換させ、吃驚(びっくり)するほど大量の魔気をマティマナへと送り込んでくる。

 マティマナの魔気の器、聖女の杖、その他、身につけている物で魔気を必要とするものを、どんどん満たしていった。それが終わると、聖なる魔気は繋いだ手からルードランへと流れ込む。ルードランの魔気の器と、魔気を必要とする品々を満たしてから、ようやく聖域のペンダントの空間へと注がれていった。

 

「大丈夫。なんだか僕の聖域も、広くなっているみたいだよ?」

 

 ルードランの魔法の品の持つ力も、経験を積むことによってか強くなっているらしい。

 

「それは、とても心強いです。かなり呪いの力、強くて多いですよ、ここ」

 

 マティマナには魔気量をはかることはできないが、ルードランは把握できる。拡がったとはいえ聖域の空間には限界があるらしいから、程良い量を注ぎ込むにはルードランに合図してもらうことになる。

 

「いいね。今のうちに、たくさん蓄えよう」

 

 一箇所から動かないまま膨大な聖なる魔気を手に入れている。拾得物を得るほどには動けていない。

 

 カルパムの新領地には、複数の「呪い」や「邪」を持つ場所が存在しているという。自然発生的な呪いの嵐の過ぎ去った跡地は、護りの弱い山間地に多いという噂があった。

 だが、都の管轄に含まれれば、自然発生的な呪いに襲われる心配はない。

 新領地としてカルパムに加わった場所は安全になったはずだ。

 

 更に、こうしてマティマナが呪いを浄化すれば、完全に清浄で安全な場所となる。

 今は呪いにおかされ人が住めるような場所ではとてもない。放置すれば、呪いを好む邪悪な存在が集まってきてしまう。

 

 カルパムの領地に組み込まれたことで、【仙】である大魔道師フランゾラムの護りが働くので悪い者は入れないとは思うが。

 

「ルルジェの都も、都境から外には、このような自然発生的な呪いにおそわれた土地があるのでしょうか?」

 

 マティマナは、かなり不安になり、聖邪の循環をしながらルードランに訊いた。

 

「ルルジェの都は、東側は少し気掛かりではあるけれど。ただ、近くに小国が固まっているし、王都からも近い。護りが重なっているから、自然発生的な呪いはないと思うよ?」

「そうでした。カルパムの都は小国のかたまりの端のほうですから。護りの重ならない山岳地が北に連なっている土地柄……怖いのですね」

 

 聖邪の循環をしながら、ほんの少しずつ、ふたりは前進する。左右は森。木々は相変わらず黒いが、聖邪の循環で呪いを吸い取った石畳の道は、ほんのり岩の色合いが見えていた。

 

「これは、聖なる魔気を手にいれるには良いけれど。森を浄化するとなれば、とても時間がかかるだろうね」

 

 聖域が程良く満ちるまで続けようか、と、ルードランは囁き足す。

 

「あ。土の中? からですかね? 何かが籠に飛んで行きました!」

 

 飛んで行ったからには浄化され呪いは抜けているはず。何らかの品が、埋まっていたようだ。

 もっとも、森に入ったばかりの場所にいるから、極至近距離に飛んでいっただけだが。

 

「歩かなくても、拾得物……手に入るのだね」

 

 ルードランは愉しそうに呟く。不気味な森のなかにいるというのに、ルードランと手を繋いでいるから、そして呪いを浄化しているから、気分的には常の庭の散策的な感じだった。

 

「ちょっと嬉しいです。当分、歩けそうにないから、何も収獲なしかと覚悟してましたし」

 

 できれば、ちょっとくらいは素材がほしいから。

 聖邪の循環をしているだけで拾得物も得られるならと、マティマナは張り切って呪いの浄化を進めていった。

 

 


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