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ザクレスの来訪

 マティマナは法師の部屋に出入りする機会が増えた。ルードランが合流することも多い。一緒に打ち合わせをするのもあるが、マティマナは呪いの品に布ごし魔法を振りかけて浄化の効果を強めてみている。

 

 と、大門から主城へと撒いた魔法の乱れから、呪いが移動してくるのにマティマナは気づいた。

 

「あ、呪いが、この城に向かってきてます!」

 

 以前、呪いの品が持ち込まれたときは、法師除けされてマティマナも仕掛けられて魔法が乱れるまで分からなかったのだが、今回は呪いが剥き出しのようだ。

 前回は、やりとりしている現場は押さえられなかったので、持ち込んだ者、受け取った者が分かっても手を打つことができなかった。

 

「犯人を捕まえる良い機会だね」

 

 ルードランの言葉に、法師も頷く。

 とはいえ、なぜ法師除けをしていないのだろう?

 法師が三人を城の入り口まで転移させたところで、来客と鉢合わせた。

 

「ザクレスさま?」

 

 マティマナは驚いた表情になる。手に持った小箱から、呪いの気配があふれていた。

 

「なんだ? マティマナ、お前に用はないぞ」

 

 ザクレスは不機嫌そうに眉根を寄せる。

 

「確かに、持ってますね」

 

 法師も呪いの品に気づいたようだ。

 ザクレスの手にある小箱からは呪いが洩れている。

 

「何のことだ? ベナを呼んで欲しいんだが?」

 

 ザクレスは、ジェルキ家経由でライセル家の侍女となっている者の名を口にした。富豪貴族たちは、各家それぞれにライセル家へと使用人を差し出していた。ライセル家の情報をいち早く得たいという目的なことは、ライセル家の者も分かっている。

 

 ルードランを目前にしても、ザクレスは敬う仕草もなく用事を済ませたい様子だ。

 

「ちょっと話を聞かせてもらわないとだね」

 

 ルードランは険しい表情だ。騎士たちが気配に気づいて多数駆けつけて来ている。

 

「な、なんなんだ? 家から派遣している侍女に用事があるだけだ」

「何故、呪いの品をお持ちなんですか?」

「呪いぃ?」

 

 ザクレスは法師に訊かれて頓狂(とんきょう)な声をあげた。

 自覚なく呪いの品の運び屋にされた、というところだろうか?

 

「これだよ」

 

 法師が箱を取り上げて開く。髪飾りが入っているが、呪いでベッタリ汚れている。簡易的でも箱に入っていたので、ザクレスには呪いは付いてはいないようだ。

 

「このような呪いの品を、ライセル城に持ち込んで、ただで済むとお思いですか?」

 

 法師が詰め寄る。

 

「なぜ? どうして、こんなものを?」

 

 マティマナは、おろおろと訊く。ザクレスが用意するにしては、邪悪の度合いが酷すぎる。ジェルキ家は領民の扱いが悪いのは確かだが、とはいえマティマナが出入りしていた限りでは、悪魔の所業に関わるような兆候はなかった。

 

「ケイチェルが、侍女の身嗜(みだしな)みに気をつかえって、渡してくれたんだ」

 

 ケイチェル経由の品らしい。だが、ザクレスは品に呪いが掛かっていることに未だ気づいていない。気づけば、ケイチェルの名を出したりしないだろう。

 

「ちょっと、牢に入っていてもらうほうがいいね」

 

 ルードランが決めた。

 

 「その方が、ザクレス君が安全だ」と、ルードランはマティマナの耳元で囁いた。法師が奪った箱に、マティマナは慌てて魔法の布をかけて包む。

 

「丁重に、牢にお連れして」

 

 騎士たちへとルードランは命じた。他の者とも接点を断つほうが良いだろう。

 

「ちっ、マティマナ。何もかもお前のせいだ」

 

 ガッチリと騎士たちに取り押さえられながら振り向き、ザクレスは捨て台詞を吐いた。

 呪いのことが良く分かっていないのだろう。ルードランの婚約者たるマティマナへの態度からの憂き目だと思っているに違いない。

 ザクレスにしてみれば、確かに、何もかも、マティマナを婚約破棄したことで招いたことだ。

 

 

 

 法師は、どちらかというと外敵に対する護りの役割でライセル家に就任している。

 優秀な聖王院法師の力は膨大だ。ライセル城へと一万の騎兵軍を率いて攻めて来ても、正しい行いでなく大義名分がライセル家にあれば天誅技で一網打尽だ。

 

 その上で、王家由来のライセル家の魔法が効いている城内は、元より護りなど不要なはずなのだ。

 だが、今回、指名手配中の『悪魔憑きのロガ』が関わっているとわかり、法師たちによる極秘の調査を行わざるを得なくなった。

 

「更に深刻なのは、問題の三家の領地内で、若い娘の失踪が頻発しているらしいことです」

 

 ルードランとマティマナを前に、法師は深い吐息混じりに語り出す。

 税率を釣り上げているのは、既に証拠もあがっているようだが、もっと深刻な事態になっているらしい。

 

「最近は、ライセル家の直轄の領地でも誘拐未満の事件が増えてきているので、一層の用心が必要でしょうね」

 

 法師は由々しき問題だと考えている。

 

「三家の方々が、誘拐に関わっているのですか?」

 

 悪魔憑きのロガと、誘拐との間のつながりが分からずマティマナは首を傾げて訊いた。

 

「奴隷売買目的だという暗黙の了解のようですが、奴隷として売られた形跡がないのです。失踪したまま存在が消えています」

「それって……」

 

 嫌な予感めいた感覚にマティマナは言葉が詰まる。

 

「『悪魔憑きのロガ』が連れている半解凍の悪魔は、定期的に生け贄を要求するらしいのです」

 

 マティマナは悲鳴を飲み込んだ。では、頻発している失踪で、若い娘は死んでしまっている。

 

「三家のうちの誰かが、ロガなのでしょうか?」

 

 震え声で訊いた。

 

「たぶん、三家の誰かに乗り移っていますね。他の家の者たちは、奴隷売買というか高額報酬に目がくらんで娘をらうのに加担しているのでしょう」

 

 奴隷として売られることはなく、悪魔の生け贄にされている……。

 悪魔憑きのロガのせいで、密かに悪魔教が蔓延しているような感じだろうか?

 領地への悪政なだけでなく、悪魔のための捧げ物だとも知らずにくみしているということだろう。

 

「ああっ! 早くロガを捕らえなければ被害者が増えてしまいます」

 

「三家の誰かがロガでしょう。しかし、手がかりなど残すヘマはしないでしょうね」

 

 今までも、多くの土地で、いざとなれば乗っ取る相手を変えて逃げ延びている。悪魔憑き、というだけあり、実際に悪魔の力を使っているのだからタチが悪い。

 

「とはいえ、今のところロガの目的はライセル家の誰かを乗っ取ることだよね?」

 

 ずっと黙って会話を聞いていたルードランが呟いた。

 各地で生け贄を得て力を強めながら、狙いはライセル家だ。

 

「ザクレスは捕らえましたから、別の手を打ってくるでしょうね」

 

 法師は頷きながら応える。ライセル家へと仕掛けてくるうちには、何らかの痕跡を残すことになる可能性は高い。

 

「必ず仕掛けてくるだろうから、万全の体制を整えて待ち構えるしかないね」

 

 ルードランは決意したように呟いた。

 

 


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