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雑用魔法が造る衣装

「わたしたちが海中に入るには、海洋の素材が有効でした。それに、地上のものを混ぜて触媒細工しています。だから、地上のものを多く素材にして、少し海洋のものを混ぜれば……」

 

 マティマナが今まで触媒細工で造った衣装といえば聖なる外套くらいのものだが、形の綺麗なものができれば衣装の代わりになるかもしれない。

 今まで造り置きしている聖なる魔気で造られている外套、雑巾の上位版としてできた異界で物々交換に好まれる綺麗な刺繍の布地、そういった品を掻き集め、更にたくさんの花、乾燥させた花や生花をありったけ工房に持ち込んだ。

 

 異界の花よりは、ルルジェの花が良いわよね。

 乾燥の花も、生花も、ライセル城や都で手に入れたものにした。

 それと、ルードランから譲ってもらった大量の訳あり宝石。

 

「貝殻草もまだありますよ!」

 

 メリッサが乾燥された花を一箱、持ってきてくれた。海上に浮くときにも有用だったし、貝殻草は良いと思う。

 海のものとしては、半端な貝殻類が多数残っている。

 

「こんなものかしら……?」

 

 マティマナの邪魔をしないように、集まってきている者たちは工房の端のほうで様子を眺めていた。

 何気に皆、興味津々の気配だ。

 

 海中に潜るために、海の素材を使ったように、地上の素材で、きっとベリンダは上陸できる。他の怪異と同様、空気の中で、呼吸できるみたいなのだから。

 海の素材ももちろん混ぜる。海に潜るときの魔法具にも、地上のものを混ぜたから。

 

 マティマナは、そんな風に素材に確認をした。

 そして、四種類の触媒をすべて混ぜる形で、聖なる魔気を雑用魔法に通す。積み上げた素材を全部纏めてきらきらが包み込んだ。

 しばらく目映(まばゆ)い光が続いた。ドキドキしながら、魔気の流れが止まるのを待つ。

 キラキラキラキラ、マティマナの予想よりも長いこと素材は光り続けている。

 光がようやく収まった頃には、きらきらときらめく何か衣装めいたものが出来上がっていた。

 

 エヴラールは、落ち着かない様子で、出来上がった品を見詰めている。

 

「それがあれば、ベリンダは地上にあがれるのか?」

 

 期待を込めた表情が、エヴラールから向けられた。

 しかしベリンダに着てもらわないと、どんな風に仕上がったのか正直、分からない。

 

「ベリンダさんは、今、お邸にいらっしゃいますか?」

 

 マティマナは見た目よりもずっと軽い衣装らしきを手にしながら、エヴラールに訊いた。

 

「たぶん、水路近くにいるはずだ」

「では、私が転移で送りましょう」

 

 エヴラールの言葉に、即座に法師が反応する。ルードランはすかさずマティマナの手をとった。エヴラールを連れ、法師は四人で転移する。

 

 

 

 エヴラール邸の水路で、ベリンダは憩っていた様子だ。だが、エヴラールが大勢を連れて戻ってきたのを見ると、瞳を輝かせた。

 

「ベリンダさん、何度でも改良しますから、まず試してもらって良いですか?」

 

 マティマナは、どきどきしながらベリンダへと近づき、綺麗ながら形が良くわからない品を渡す。衣装らしきは、頷くベリンダが手にした途端(とたん)、自然に身体に纏った。

 

「まぁ、綺麗!」

 

 ベリンダの身体を包み込んだのは、マティマナの聖女のドレスに似た形のものだ。美しい大きな花柄が全体に優雅に拡がっている。ドレスは、水路に沈んだ魚部分の身体も包み込んでいる。

 

「ああ、すごく似合っている!」

 

 エヴラールは、すっかりれていた。

 

「褒めるなんて珍しいですね、エヴ」

 

 ベリンダが笑う。そして、ふわりと水路のなかで立つと石畳へと上がってきた。

 

「立ち上がって平気なのか?」

 

 瞠目(どうもく)し、もの凄く驚愕(きょうがく)した声で、エヴラールは訊いている。

 

「はい! とても楽です。泳いでいるみたい!」

 

 ベリンダは綺麗な立ち姿だ。海水から上がってきたが、濡れていない。たくさんの宝石が散らされたように見えるドレスも乾いている。幾重にも柔らかい絹のような襞がある裾は、綺麗に風に踊った。

 だが、ベリンダの脚というか、尾というかが、どうなっているのかはドレスの布地に隠れて見えない。姫の衣装と同じような感じに仕上がっていた。

 

 マティマナは、ホッとしてへたり込みそうだったが、ルードランが手を繋いでいてくれるので何とかたたずんでいられている。

 

「良かった。ちゃんと、地上にあがれる魔法具になっていましたね」

 

 マティマナはようやく、言葉を口にした。

 

「感謝する。聖女殿」

 

 ずっとベリンダに見蕩れていたエヴラールは、丁寧で長い礼をしながらしみじみと告げた。

 ひゃぁぁ! 博士がこんなにも丁寧に?

 マティマナは慌てて心が騒がしい。

 あら、まぁ、どうしましょう! 

 

 そんな心の動きが手にとるように分かるのか、ルードランは繋ぐ手を解いて腰へと回し軽く抱き寄せる。

 

「ベリンダ殿、今回の件では本当にお世話になった。とても感謝しているよ」

 

 ルードランは、ベリンダへと笑みと共に言葉を届けた。

 

「何か不都合あったら、いつでも改良しますから!」

 

 これで、エヴラールはベリンダを邸へと招くことが叶う。

 早くふたりきりにしてあげよう、と、ルードランが心で囁きかけてきた。マティマナは頷く。

 

「ウレンさん、工房に戻りましょう!」

 

 マティマナは、慈しむような法師の視線がエヴラールとベリンダに注がれているのを眺めながら促した。

 

 

 

「きっと、ベリンダさん、あの衣装のままで竜宮船まで戻れますよね?」

 

 夜、ふたり私室へと戻ると、マティマナは訊いた。

 海洋の魔法具を身につけたまま、わたしたちは陸上でも平気でした、と、言葉を足す。

 ふたり一緒に別棟の張りだしの柵へと寄り、夜のライセル城を眺めながらマティマナは平穏な日々に感謝していた。

 

「そうだね。あの衣装で海中を泳ぐのは、とても綺麗で素敵だろうし」

 

 マティマナへと笑みを向け、衣装は良い案だったよ、とルードランは囁き足す。

 

「竜宮船の姫が、似たような衣装でした。機能は違うでしょうが、立ち姿が印象に残っていたんです」

 

 きっと、地上に上がっても衣装のなかでは泳ぐような感覚で移動できるのだろう。

 

「マティマナ、あの綺麗で大きな貝、ひとつ寝室に置いていたのだね」

 

 ルードランの言葉に、マティマナは申し訳なさそうな表情になる。

 

「ルーさまから、最初に頂いたあの貝だけは、どうしても触媒細工に使うことができなくて。まだまだ、ずっと飾って置きたいです」

「あれは、マティマナのものなのだから好きにして良いし、申し訳なく思う必要なんてないんだよ?」

「でも、神聖視を破るために、もうひとつ造れば良かったのかな、って、考えてしまって……」

 

 しゅんとしていると、ルードランの腕に抱きしめられた。

 

「そんな風に考える必要はないんだよ? マティマナは、ちゃんと必要なときに必要な魔法を使うし、聖なる力もそうなのだから」

 

 その貝も、いずれ出番が来るかもしれない。でも、出番など、来ないほうがいいのかもしれない。ずっとマティマナが眺めていたいなら、その貝を使わなくてはいけない事態など来なくて済むよ?

 ルードランは、耳元で囁くように、そんな風に告げていた。

 

 


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