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聖王院の法師

 城壁の内側から集め終わり、籠がふたつになったため、ひとりひと籠ずつ持っている。

 

「このまま、一緒に法師のところへ行こうか」

 

 ルードランは当然のことのように提案した。

 

「わたしが一緒で大丈夫ですか?」

 

 法師は、王族を守るための人材を輩出している聖王院からライセル家を外敵から護るために来ている。マティマナにしてみれば、雲の上の存在だ。

 

「大丈夫どころか、逢いたがっているよ?」

 

 ルードランは、聖王院の法師へとマティマナを逢わせたい様子だった。

 

 

 

「全く面目ない」

 

 法師は威厳はあるが気さくな感じだった。たくさんの呪いの石を持ち込んだふたりへと深く礼をとり、申し訳なさそうにしている。法師として派遣されてきているのに、呪いの存在には全く気づけなかったことを不甲斐なく感じている様子だった。

 

「法師さまは、ライセル城を外敵から守ってくださっているのですし。内部のゴミ拾いはお任せください」

 

 申し訳なさそうな法師の様子に、マティマナは慌てて告げた。呪いを仕掛けている者は、法師が居ることを承知し法師に察することができない工夫を呪いに施している。

 

「いや、このゴミ……というか、呪いの品なのだけどね。呪いの度合いが酷すぎて聖王院では手に負えない厄介な品のようなんだよ」

 

 法師は深刻そうな表情だ。

 

「えぇと、じゃあ、この大量の呪いの品……」

 

 マティマナは、呪いの品は聖王院でなら対処できると考えていたので、だいぶ困惑してしまった。

 聖王院は、この国を護る聖なる力の源だ。聖王院で手に負えないとなると、破棄することもできないのではないか。

 

「ライセル家で責任持って預かるしかないね」

 

 ルードランは、渋々のていで呟いた。何度か法師とも話し合っていたのだろう。その結論としての言葉らしい。

 

「ああ、でも、危険です」

 

 マティマナはぞわぞわと嫌な予感に包まれた。

 呪いの品は次々に持ち込まれているから、どんどん増える。ひとつひとつ封じてはあるけれど、一箇所に集めておくのは、それはそれで怖い気がする。

 

「幸い、マティマナさまの魔法の布が、呪いの除去に効きそうらしいのですよ」

 

 今のところ、唯一の希望です、と、法師は言葉を足した。

 

「え? 呪いを除去できるんですか?」

 

 雑巾で? と、思ったが黙っておいた。

 魔法の布と言ってはいるが、布巾というか雑巾というかなのだ。

 

「マティマナ様の魔法の布に包んでおくと、徐々に呪いが弱まるらしいのです。時間はかかりそうですが」

 

 法師はすっかり感心した様子で言葉を告げている。

 聖王院の手に負えない呪いが雑巾で除去できるとは!

 マティマナは驚愕(きょうがく)を隠せず、緑の瞳を見開いた。

 

「気掛かりなのは……この呪いの術の出所(でどころ)なのですよ」

 

 深い溜息とともに法師が呟く。聖王院経由で何か分かったことがあるのかもしれない。

 

「何か、心当たりが出てきたのかな?」

 

 ルードランも、何か察したらしく法師に訊いている。

 

「このような驚異的な悪意の技は、『悪魔憑きのロガ』くらいの例しか知られていない……とのことです」

 

 悪魔憑きのロガ、という名前を法師が告げた途端(とたん)、マティマナは強烈な寒気に襲われた。

 

「悪魔憑き?」

 

 ルードランは眉根を寄せ潜めた声で訊く。

 

「半解凍されたような悪魔を連れているらしいです。完全体になれば手に負えぬと、警戒しながらの指名手配になっています」

 

 悪魔憑きのロガは、単体ではないらしい。厄介な感じだ。

 

「掴まえられるのでしょうか?」

 

 捕縛できなければ、このまま次々に呪いの品が城に持ち込まれることになる。

 

「掴まえようにも、実体が分からない。すぐに他の者に乗り移ってしまうから、掴まえたときには既に別人なのだそうだ」

 

 マティマナは、心で悲鳴を上げた。呪いを持ち込む者たちは、身体の乗っ取りを常習化している節がある。

 

「ルーさまの身体を手にいれる、とか、言ってましたね」

 

 マティマナはルードランへと、こそっと、告げる。他の者の身体を使って悪事をし放題ということのようだ。

 

 悪魔憑きのロガは、タチの悪い魔道師らしい。力を得るためなら手段を選ばない。

 法師は、魔道師とは対極にある。清さを極め超絶な天からの力を発揮し、敵を挫く。

 

 聖王院から来ている法師は存在を把握され、悪魔憑きの魔道師によって呪いに気づかせない法師除けが完璧に施されてしまった。

 マティマナとて、至近距離まで近づくか、魔法を撒くかしないと呪いの存在は分からない。

 

 

 

 ディアートは、奔走しているマティマナの緊張を解いた方がいいと思ったようで、踊りの練習に誘ってくれた。

 楽師がひとり、広間に来て旋律を奏でてくれている。

 

 ディアートは、とても優雅に踊る。いくつかの曲の、ひとりで踊る部分を習った。

 

「ひとりで踊る部分は、ある程度、好きなように創作して良いのよ。マティマナなら、もっと派手に踊るのが似合いそう」

 

「それは、一気に難易度高いですよ」

 

 うわぁ、と、少し狼狽しつつも楽しそうだと感じたので、雅な曲に合わせて自由に身体を動かしてみた。今までディアートに習った動きが、ちゃんと基本となって支えてくれている。

 

「あら、すごく良いわよ! その調子!」

 

 声に励まされ、かなり調子に乗って頑張ってみた。クルクルと回転し、衣装の裾が綺麗になびくのが心地よい。

 奏者の音が止まるのに合わせて礼をとり、安堵の息をつく。

 

「あ、すごく楽しかったですけど、大丈夫でした?」

 

 独断での踊りになってしまい、かなり心配だ。

 

「とても良かった! その感じなら、もっと自由に踊って構わない。とても優雅よ」

 

 ひとりで踊る部分は、何か不思議な導きのようなものを感じて型に嵌めて踊るのはとても窮屈に感じていたから嬉しくなった。

 

「やってみてもいいかしら?」

 

 ディアートは頷いて、楽師に奏でさせ始める。マティマナは、習ったことを中心に、何やら内側から導かれるような感覚を味わいながら、自由に身体を動かして行く。

 

「とても優雅! 華やかで最高よ! その感じなら王宮の奉納舞でも喜ばれるわね」

 

 ディアートは満面の笑みだ。

 

「どうにか、ルーさまに恥をかかせないで済みそうかしら?」

 

「恥なんてとんでもない! ものすごく自慢になるでしょうね! 請け負うわよ」

 

 ディアートはすこぶる満足そうな笑みをマティマナへと向けた。

 

 


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