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宰相と小鮫の戦い

 岩壁だが、叛逆の粉を浴びた鮫たちでも通り抜けた。敵味方を区別する通路ではなさそうかな?

 などと、マティマナが思案するうちには、ルードランに引かれて通り抜けていた。

 

「ルーさま、全く迷いませんね!」

 

 抜けた先は、広めの通路になっている。

 泳いで進む小さな鮫たちの姿も直ぐに視野に入った。

 

「マティマナの海の魔法具を身につけているからだよ?」

 

 思い切り信頼してくれているらしく、思わず耳朶(じだ)が染まる。

 

「鮫さんたちの動きからして、あちらが宰相さんの居場所でしょうね」

 

 広く長い通路が前後に続いているが、鮫たちを追えば良いだろう。

 ルードランは頷き、マティマナの手を引いて進む。

 

「おや、鮫たちが戦闘になっているね」

 

 どこから現れたのか、小鮫が大量に出てきた。叛逆の粉を浴びた小鮫たちを襲っている。

 

「きっと、宰相さんが近いのですね。叛逆の粉、もっと撒きます!」

 

 ルードランと一緒に、争うような戦いをしている小鮫たちへ寄って行く。マティマナは触媒をまぜて叛逆の粉を撒き散らした。

 争いは光のような粉を浴びた途端(とたん)に止まる。

 そして、集団となり、徐々に広くなって行く通路を進み始めた。

 

「しかし、宰相のところに繋がっているわりには、小鮫しかいないね」

「そういえば……」

 

 マティマナは同意の頷きをするが、小鮫はたくさん出てくる。その度に叛逆の粉を撒き、こちら側の見方というか宰相の敵に変えさせた。

 小鮫の一群が、どんどんと進む先は広間のような場所らしい。徐々に通路自体が広くなっている。そのまま、ひと続きの広間――といっても、ゴツゴツとした岩場に珊瑚、海藻。浅瀬の海の光景だ。

 

 通路から続き、奥へと半円状に行き止まった。

 ただ、半円形の中心辺りに円形には白砂の敷かれた場所があり、玉座に似た巨大な岩の椅子がある。そこに、誰かが座っていた。

 

「宰相さん?」

 

 マティマナは小声で呟いた。

 長い透き通るような青の髪が、海水に棚引いている。かぶると三角の頭巾になりそうな部分が付いた豪華そうな外套は、鮫の肌の色だ。長衣のようなものを纏う身体は、青年らしき。足先は長衣の裾が長く見えていない。

 マティマナの声が聞こえたか否か謎ながら、たいして動きもせずに岩の椅子に座ったままだ。

 

 玉座は、一段高いような場所。

 ただ、マティマナとルードランも泳ぎながら進み、かなり浮き上がった状態なので視線の位置は同じくらいだ。

 小さな鮫たちは、果敢に宰相へと魔法攻撃を仕掛けたり、体当たりをしようと突進しているのだが、ことごとく弾かれている。

 

 宰相は何もしていない――。

 

 だが、小鮫たちは、攻撃の度に水流に巻き込まれたり、自ら放った魔法の反射で痛手を受けていた。

 

「この騒ぎの元は、お前たちか?」

 

 面倒そうな響きの綺麗げな声。物憂げな大人しい印象。

 魔法を使う身だろうに、小鮫たちを仲間に戻す算段も考えていない様子で攻撃されるままに任せている。

 

「君が宰相か?」

 

 ルードランが訊く。

 

「否。我は、この竜宮船の王だ」

 

 くくくっ、と、小さく笑う声とともに怠惰な響きの声が告げた。

 

「王だというのに、侵入者が来ても小鮫さんたちだけが護りなの?」

 

 その小鮫も、今は宰相を攻撃し続けている。

 

「我に護衛など不要だ」

 

 宰相は面倒そうに呟いた。

 マティマナは、叛逆の粉を宰相に向けて放った。宰相自身が寝返るというのはヘンな話だが、改心し姫を解放し和解するなり、という可能性もある。

 しかし、きらきらと光る叛逆の粉は一定以上は宰相に近づけず、霧散した。

 

「……届かないの……?」

 

 マティマナは瞠目(どうもく)する。

 

「我は、海洋の神だ」

 

 面倒そうに呟くが、宰相は攻撃してくるでもない。

 

 海のものに神聖視されている、というのは本当なのだろう。今いる場所は海。マティマナが、いかに聖なる要素の魔法を浴びせようとしたところで、海は、神聖視されている宰相を護る。

 攻撃するほどに海水に巻かれたり、水圧を掛けられたり。そうして疲弊するのだろう。小鮫たちのように。

 

「宰相を見つけたよ」

 

 ルードランは、空間に向けて報告してくれていた。竜宮船の地図をディアートの空間で共有しているから、皆の位置はわかる。

 ギノバマリサも、マティマナとルードランの場所は把握できているはずだ。

 

『すぐに、残りの二組を転移させます!』

 

 ギノバマリサの声が返ってきた。

 そして、転移させている気配。

 だが、エヴラールとベリンダ、リジャンと雅狼、どちらの組みの姿も視えない。

 

『いや、ここではないようだが?』

姉上(あねうえ)、どこです?』

 

 エヴラールの声に続き、リジャンの声。マティマナとルードランのいる座標へと転移で送り込んでいるはずなのだが、気配はない。

 

「場所が違うようですね。わたしたち、とても広い場所にいるのですが……ただ、地図上では広くないのですよ」

 

 マティマナは空間へと告げる。

 

 大きな貝を使い、若干、海の神聖に対抗できる魔法具を造った。だから、早くエヴラールに合流してほしい。マティマナとルードランだけでは、全く効果がなさそうだ。否、エヴラールが合流しても効果があるかは未知数だ。

 それでも、皆の力が合わされば、何か成すことが可能なはず。

 

「僕やマティマナの極近くに転移させたらどうだろう?」

 

 ルードランが提案する。

 

『はい。元より、そのような形での転移なのです』

 

 ギノバマリサは不安気に呟いた。

 空間へは聞こえてこないが、バザックスが何かギノバマリサへと囁く声がする。

 

『転移酔いするかもしれませんが、繰り返し参りますわよ!』

 

 ギノバマリサの宣言に、転移される側の四人は同意の言葉をそれぞれ返していた。

 

『地図の展開を、王妃さま視点にできませんでしょうか?』

 

 法師の声が聞こえてくる。

 わたしの視点?

 

「ディア先生の空間に、魔法注ぎ込めば良いですかね?」

 

 誰にともなく訊いた。

 

『マティさま、思い切りやってみてくださいな』

「マティマナの思うようにすると良いよ」

 

 ディアートと、ルードランの声が励ますように聞こえた。マティマナは、軽く目蓋(まぶた)を伏せる。

 

 今、わたしは、ディア先生の喋翅空間のなかにいる。あ、メリッサの歌声が響いている……。

 そうね! メリッサの歌の効力は、皆に届いてる。

 わたしの雑用魔法……「お届け」「お取り寄せ」の応用?

 わたしのところに、みんな来て!

 

 そんな風に思案しながら、雑用魔法のきらめきを空間へと撒いた。

 メリッサの歌と、ディアートの地図を展開する思念が混ざりあい、どんな効果をもたらしたものか、竜宮船の地図がマティマナの視点で展開した。

 

『視えました! マティお義姉(ねえ)さま!』

 

 ギノバマリサの弾む声。転移の力が喋翅空間のなかで「お取り寄せ」に程良く加わる。エヴラールとベリンダ、リジャンに雅狼は、きらきらに包まれマティマナの極近くへと届けられた。

 

「みんな! 良かった!」

 

 合流できた! マティマナは安堵感でくずおれそうだったが、まだ、何も解決していない。

 

「お前か。ベリンダ」

 

 宰相の気配が一気に兇暴なものに変わっていた。

 

 


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