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馬車の御者席で

 ルードランを掴まえ、城壁の近くで古い呪いの石を見つけたことを報告した。

 

「もしかしたら、城壁に沿って城を取り囲むように呪いが仕掛けられているのかも」

 

 証拠はないが、古い呪いの石が、幾つもの呪いと連動しているような、そんな気配を魔法の布で掴む寸前に感じた。

 

「それは有り得るね。だから、バザックスやディアートの部屋に仕掛けられても、気づくことができなかったのかもしれない」

 

 ルードランは真剣な眼差しだ。

 

「随分と長期計画ですよ、これ」

「それはそうだろうね。仮にもライセル家を乗っ取ろうとしているなら、慎重に外堀から埋めるはずだよ?」

「なんとか、探し出さなくちゃです」

 

 とはいえ、手分けすることもできないし、地道に歩く以外に見つける方法はない。延々と続く城壁に沿って歩きながら魔法を撒けば、呪いの品があれば反応してくれるだろう。だが、敷地の広いライセル城を囲む城壁は余りに長い。

 遠くから見つける手立てはマティマナには思いつけなかった。

 

「馬車を出そうか」

 

 ややあって、思案気にしていたルードランが呟いた。

 

「馬車?」

 

 頓狂(とんきょう)な声で訊き返すと、ルードランは真顔で頷く。

 

「埋められているとしたら、城壁の内側だよね?」

 

 城壁による防御が魔法的に働くから、城壁の外側に幾ら呪いの品を仕掛けてもライセル家に影響を与えることはできない。

 呪いを埋めるなら、城壁の中だ。

 

「馬車……さすがに目立ちすぎません?」

 

 城壁の近くには植え込みがある場所も多い。馬車が通れるものだろうか?

 

「作業用というか警邏(けいら)用の小さい馬車は、時々、城壁に沿って内側を回っているんだ」

 

 ルードランの言う馬車は、貴族を運ぶための乗り物ではなく狭い場所の移動に特化した軍事用のものらしい。城壁の内側を実際に回っている馬車だというなら安心だ。

 

「あ。それは、凄い良いです! 馬車で移動しながら魔法を撒いて呪いが反応したら止めて回収、って感じですかね?」

「どのくらいの速度で大丈夫? 徒歩くらいの速度かな?」

「馬車から撒いたことはないですけれど、徒歩より早くて大丈夫ですよ。少し広範囲に撒く感じで撒き続けたらなんとかなるような気がします」

 

 それにずっと魔法を使っているから、以前よりも魔法の範囲が広くなっている。

 

「騎士たちには、僕たちが馬車を使うのは口止めしておこう」

 

 

 

 早速(さっそく)騎士たちの宿舎近くにある軍事用の建物から、馬車を借りだしてくれた。

 婚約者に城壁の中を案内するという口実だ。

 

「長い時間をかけて、城壁近くにたくさん呪いの品を仕掛けたのでしょうね」

 

 それでも徒歩に比べれば、格段に早く回収することが可能だから、なんとか全部探し出したい。

 小さな馬車は、一頭立て。ふたり乗りで御者席に並んで座る。後ろに引っ張っているのは荷運び用の車輪のついた箱だ。

 

「呪いの品を回収したと気づかれないといいんだけどね」

 

 仕掛けている側に気づかれて警戒されたり、強硬手段に出られると厄介だ。

 

「ライセル家の法師さまも、存在が分からないわけですし。仕掛けた者たちも、仕掛けっ放しで把握してないんじゃないですかね?」

 

 法師除けをすることで、自分たちも把握できない事態になっているように思う。

 マティマナはルードランと並んで御者席に座った。ふたりの背後の荷物運びの部分に籠を置き、魔法の大きめな布を敷き詰める。籠が落ちないように魔法で軽く貼り付けた。

 

 ルードランが馬を走らせ始める。なかなか見事な手綱さばきだ。マティマナは城壁に沿わせ、できるかぎり広範囲に魔法を撒いた。

 

「あ、少し先に在ります!」

「あるね!」

 

 マティマナが告げると同時に、ルードランも呪いの位置に気づいたようだ。場所は頭の中に意識して描いた感じなのだが、ルードランは思考を読んだのか、実際の場所に呪いのしるしが視えているのか、ピタリと丁度良い場所で馬車を停めた。

 

「凄いです! ピッタリの場所!」

 

 マティマナは馬車を飛び降り、魔法で掘り出し、宙に浮かぶ呪いの石を魔法の布に包む。呪いのあった場所に魔法を少し撒いてから、馬車へと戻った。

 ルードランは、マティマナが包みを籠に入れるのを確認すると、すかさず馬車を走らせ始める。

 

「マティマナの魔法、なんだか、すごく良く見えるよ。呪いの位置も視えてる」

 

 ルードランは嬉しそうに声を弾ませた。

 

 

 

 途中から、マティマナは御者席に乗ったまま呪いの石を掘り出している。

 ルードランが余りにも良い位置に馬車を停めてくれるので、降りる必要がなく、御者席に座ったまま作業ができていた。

 

「これだと、かなり効率良いね」

 

 植え込みに隠れ、小さな馬車は主城や別棟からは見えなさそうだ。城壁内の警邏の際も、気づかれずに見て回れるのだろう。

 

「半分くらいは回れたでしょうかね? かなりの数の呪いの石ですよ」

 

 用意した籠は今にもあふれそうなので、マティマナはもうひとつ籠を出した。どちらも籠とは言うが、ゴミ箱だ。敷き詰める布は、魔法の布ではあるけれど布巾(ふきん)雑巾(ぞうきん)たぐいだった。

 

「マティマナの布に包むと、呪いが洩れないから安心だよ」

 

 撒いた魔法に反応する呪いの位置で、ピッタリに馬車を停めながらルードランは笑み含みの声だ。

 

「そういえば、不思議ですね」

 

 雑巾なんだけど、と、心のなかで呟く。とはいえ、雑巾も布巾も、汚れを綺麗にするためのものだ。

 最初にバザックスの部屋で呪いの品を見つけ、反射的に魔法の布で包んだけれど、とても的確な対処だったらしい。

 

 

 

 城壁に沿って進むうち大門から続く庭園部分に差し掛かり、馬車は進むことができなくなった。

 ふたり馬車を降り、籠を足元に下ろしてから、ルードランは近くで見回りをしている騎士へと馬車を托している。籠をひとつずつ抱え、庭園とつながっている城壁の内側は、徒歩で進んだ。

 

 魔法を撒くと、花壇の乱れたあたりで呪いの反応があった。

 

「まあ! 庭園にまで埋められてる」

 

 急いで掘り起こして回収し、呪いの影響が消えるように何度か魔法を撒く。

 きっと、これからは綺麗に花が咲いてくれるだろう。

 

 大門の近くは、常に見張りがいるせいもあり、魔法に反応はなかった。門を左手に見ながら通り過ぎ、反対側の庭園と城壁の間も確認する。

 

 庭園を抜けて少し歩けば一周で、馬車を出してもらった近くへと辿り付けた。

 

 


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