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小舟の修復と宝珠

「やっぱり、ひとりにして置けないね」

 

 抱きしめながらルードランが囁く。ようやく魔法の煌めきがおさまり片づけも終了したようだ。

 

「なんだか、急がないといけない気がして……」

 

 そう呟いた途端(とたん)、扉の外、邸の前に複数の気配を感じた。

 

「片づけの手伝いに参りました」

 

 法師の声。に続いて、多数の声。

 マティマナは、ルードランと顔を見合わせてから扉を開ける。

 

「手伝いに来ましたわよ!」

 

 ギノバマリサが真っ先に入り込んできた。続いて、バザックス。

 

「なんだ、もう綺麗になっている」

「だから慌ててきたんです。姉上は片づけが早いから」

 

 リジャン?

 雅狼も連れている。

 その後ろから、メリッサと鑑定士のダウゼ。ダーっと人が押し寄せた者たちの最後から法師が申し訳なさそうな表情で入ってきた。

 

「片づけには間に合わなかったが、当面、皆ここで暮らさせてもらうぞ」

 

 バザックスが告げた。

 元々、通ってもらうなりする予定の者たちではある。

 

「あ、まぁ、構わない……のかしらね?」

 

 マティマナは、ルードランへとボソリと呟く。

 急いで片づけて良かったわ!

 どの部屋も問題ないはず。

 

「ここは、給仕がいないからね? みな、自力で頼むよ?」

 

 ルードランは驚きながらも楽しそうだ。

 ルードランとマティマナ、バザックスとギノバマリサはは二人部屋の多い三階、残りの者たちは二階の寝室を使うことになるだろう。リジャンとメリッサは、まだ婚約中、というより若すぎるから別々の部屋だ。

 

「片づけが終わったら何人かは来てもらう予定でしたけど」

 

 バザックスとギノバマリサまでくるとは、ちょっと意外だった。だが、とても心強い。

 

「ライセル城は、前当主ご夫妻様とディアート様が守られます。私は、状況に応じて移動いたします。片づけが終わっているのでしたら、工房の品々などを転移させますよ」

 

 ライセル城の護りは、当面ルードランの父母とディアートで担う。

 

「工房は、この辺りかな」

 

 ルードランが、一階広間の一角を指定している。了解しました、の言葉に続き、マティマナの使う巨大卓やら、鑑定士の机、メリッサの机、皆が集うときに使う安楽椅子やら棚類、素材の入った箱類、一気に転移で現れた。

 そのまま、工房を移動してきたようなものだ。

 

「まあ、凄いです! 準備も大変だったでしょう?」

「マティお義姉(おねえ)さまが、いつも綺麗に片づけてくれてますから!」

 

 メリッサはそう言うが、メリッサもダウゼも頑張ってくれたのだろう。

 

 

 

 法師はライセル城の護りへと戻り、それぞれが部屋を決めて一先ず落ちついてもらうことにした。

 その間に、マティマナとルードランは、小舟の確認のために邸のなかから階段を下る。

 階段室の空間から扉を開けると、軒下だ。

 

 軒下と言っても、一応閉鎖空間にはなっている。ただ、風雨や波をわずかに凌げる程度に囲われているだけで、外と余り変わりがない。土間というか、砂浜だ。邸は、段差のあるところに建てられている。浜側からは、一階広間へと階段であがる形だ。

 

「ああ、やはり、だいぶ傷んではいるね」

 

 ルードランは、このままでは使えないという判断のようだ。

 木製の小舟は、上向きの状態のまま三隻。櫂は壊れている。

 しかし、マティマナが予想していたよりは傷みは酷くはなさそうだ。

 

「修繕というか、復元してみても宜しいでしょうか?」

「出来そうかい?」

「はい。多分」

 

 神殿の復元や、城の解体や復元に比べたら些細な雑用魔法だ。

 マティマナの復元のための雑用魔法は、きらきらと三隻同時に包み込んだ。

 

「なんでしょう? これ……」

「なんだろうね? 見覚えはないよ」

 

 復元されて行く最中(さなか)、なんだかガラクタっぽいものがたくさん出てきた。マティマナは整頓用の箱を雑用魔法で造って、次々に入れて行く。

 よく分からないが、捨ててはダメな気がする。

 箱に詰めて一階の工房へと雑用魔法の「お届け」で積み上げた。

 

「あっ!」

 

 小さな赤い金魚らしきが、不意に飛び出してくる。一瞬困惑した様子の金魚は、転移するようにして海へと飛び込んで行った。小舟は、三隻とも綺麗に修復されている。櫂も元に戻っているし、問題なく使えそうだ。

 金魚の居た場所らしきには、美しく大きめな宝玉が忽然と現れていた。

 

「これは……なんだろうね? ライセル家の物ではなさそうだ」

 

 ルードランが宝玉を拾い上げながら首を傾げる。

 

「ダウゼさんがいますから、鑑定してもらうと良いのかも」

 

 

 

 今度は、砂浜側から一階の張りだしへと続く階段を上がって行った。

 

「不思議な気配をさせていますな」

 

 鑑定士のダウゼは工房と化した一角で鑑定具などの整頓をしていたが、ルードランの手にする宝珠を首を傾げている。

 

「鑑定していただいて良いですか? 小舟の復元をしていたら、出て来たのです。そこに送った箱たちの中身も。ガラクタみたいですけど……」

 

 マティマナがダウゼへと頼み、ルードランは宝玉を鑑定士の差しだした天鵞絨(びろうど)敷きの盆へとのせた。

 

「これは……地図……。しかも、竜宮船の内部迷宮の地図です!」

 

 鑑定士のダウゼは驚いたような声を立てた。

 

「なぜ、そのようなものが、この邸の小舟にあったのかな?」

「……金魚……、金魚さんが飛び出して行きましたね!」

 

 マティマナは復元途中に金魚が飛び出し、その後に宝玉が現れたのを思い出す。

 

「人魚の話は、本当だったようだな」

 

 不意に張りだしのほうからエヴラールの声がしたかと思うと、工房へと入ってきた。

 

「エヴラール博士? どうしてここが?」

 

 マティマナは不思議そうに訊く。

 空間を通じて話を聞いていたとしても、場所は分からないのではなかろうか?

 

「飛び出した金魚は、ベリンダの姉だそうだ。力を使い果たして化身できないが、ベリンダと話はできる」

 

 エヴラールは、たぶん金魚から場所を聞いたのだろう。

 マティマナが小舟を復元したとき、飛び出してきた金魚がベリンダの姉で会話可能ならば場所は教えられる。

 

「それでここが分かったんだね」

 

 ルードランの言葉に、エヴラールは頷く。

 

「宝玉はリアラリール姫の持ち物で、船の所有者のあかしらしいな。宰相が狙っていると知って持って逃げたそうだ」

 

「ここを作戦本部にしようと思ってね」

 

 ルードランの言葉に、エヴラールは嬉しそうな表情だ。

 

「確かに近い。これは良い。私も宿泊させてもらおう」

 

 海が見えるのが気に入ったのだろうか。猟師たちの居る宿屋からも近い。

 

「十年ぶりくらいの開放だよ」

 

 ルードランが告げると、エヴラールの表情が少し変わる。

 

「十年……前回の怪異の出た頃か」

 

 思案気にしながら独り言のようにエヴラールは呟いた。

 

「そうなんですか?」

 

 マティマナは驚いた声で訊く。

 

「ああ、そうだったかもしれない。それ以降、ライセル家は、この海の保養所を閉じた。子供の遊び場だったからね。危ないのは拙い」

 

 ルードランは不意に思いだしたらしく、記憶をまさぐるような表情で呟いた。

 

『怪異が浜にあふれて、子供たちは即座に退避させました。その後は、あまり話題にならず、なぜか皆忘れていましたね。子供たちを退避させたのは、私です』

 

 空間ごしに、法師ウレンの言葉が響いてくる。

 

「何か、怪異たちからの忘却の力が働いたのかもしれんな」

 

 エヴラールがボソリと呟いた。

 

 


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