魚素材の魔法具を触媒細工する
魚が素材として良いと竜宮船の人魚は言っていた。だが、侍女頭のコニーと一緒に素材を集めている最中に眼についた蟹の甲羅や殻や爪、海老の頭や足や尻尾や殻、烏賊の嘴や軟甲、牡蠣殻なども追加して乾かした。鱗類は、もうどれが何やら良くわからない。
マティマナは、今までの触媒細工とはちょっと違ってきていることを感じていた。
それは、人魚から海竜の鱗を渡され聖女の杖に入れたかららしい。
「不思議ね。貝殻のときは一点ずつ触媒細工してから纏めてたのに。最初から纏められそうよ。追加も……できるみたい」
メリッサに告げるようにも、独り言ちるようにも聞こえるような響きでマティマナは呟いた。
大量の床に拡がる素材たち。
マティマナは、まずそれらを鮫の頭や、鮪の頭などを中心にし、色々な素材を適宜加える形にした。
複数の素材を混ぜて置く感じ。
「素材を、一気に使用するのですか?」
近くで見ていたメリッサが、興味深そうに訊く。
「人魚さんから貰った海竜の鱗が、導いてくれてるみたいなの」
適当に持ってきたつもりの魚ではない品も、今までの海の魔道具で回収したものも、触媒細工待ちの小さな貝殻などもマティマナは追加しながら応える。
素材を一山ずつ、触媒細工でまとめる感じらしい。
攻撃に特化したものと、防御に特化したものとは分けるが、どちらにも魔法効果が付きそうだ。
光の竜からの鱗と、海竜の鱗の効果は両方とも付くらしい。
「なんだか、とってもワクワクします」
メリッサは固唾を飲んで見守っている。
「あ、宝石も入れるのね」
マティマナは呟きながら、ルードランから譲られた傷ありなどの宝石も満遍なく足した。
「とても、不思議な気配がしています」
鑑定士のダウゼが、思わず近づいてきて呟く。
「じゃあ、行きます!」
マティマナは気合いを入れて呟く。何やら最適な状態に素材の山が造れたようだ。
だいたい三十人分の、防具と武器ができるはず。
とはいえ、全部一度に細工はできない。雑用魔法を使った触媒細工が六十回、必要だ。
最初の一回は、冷や冷やだった。
三種類の触媒の力が混じる雑用魔法のきらきらの光が、纏まっていた素材の山を包み込み凝縮する。
コロンと、思ったより小さな美しい球体が出来上がっていた。
「宝珠?」
マティマナは首を傾げる。触媒は、防御となる灰鉱石と、光の竜の鱗、海竜の鱗。聖なる力としての雑用魔法が三つの触媒を介し、防御の品が出来上がったはず。
「これは、強力な防具であると同時に海での活動を快適にします。手にすることで、全身を包み込みます。見た目は甲冑のようになるのでは? 相当深く潜れますよ! 魔法攻撃も弾きますし」
鑑定士のダウゼは、弾んだ声で告げた。それだけではなさそうです、と、言葉が足されている。
聖なる効果も付いているし、鮫皮や蟹の甲羅の堅固さも防御としては良いようだ。そして、飛び魚の羽が混じっていることで、海中での泳ぐ速度や俊敏性などもましている。
相当に多機能な海用の防具が出来上がったのは確かだ。
「じゃあ、まずは防具、次々に行きますね!」
残りの二九の素材の山を、ひとつずつ触媒を混ぜた雑用魔法で包み込んで行く。
三十個の宝珠。少しずつ色が違っている。
「それぞれ少しずつ、効能が違いますが差はわずかです。使用する者によって美点が引き出されそうですね。完成品ではありますが、後から触媒細工で効果を足すことも可能です」
なんだか、とんでもなく良い品なのかも?
マティマナはホッとすると同時に、少し怖くもなった。
わたしで、こんな凄いものが細工できちゃうんだから、対峙する者たちは、もっと凄いもの所持しているのでは?
「じゃあ、武器も行きますね!」
心配していても仕方ない。効能が足せるというのなら、まずは使ってもらうのが大事だ。そして、足せそうな海の素材を探すのと、それぞれから希望の効能を訊き出すこと。
武器のほうの触媒は、攻撃力をつける霊鉱石と、光の竜の鱗、海竜の鱗。聖なる力としての雑用魔法が三つの触媒を介して海での魔法付き武器を細工するはず。
触媒を変えると、素材の山を包み込む光の色合いが少し違っていた。わずかな差だが、鋭さが混じる感じ?
残った三十の素材の山には、魚からの鋭い牙のような歯も混じる。骨の類いも。
マティマナの魔法の光が包み込むと、素材の山はやはり凝縮されていった。
カラン、と、金属風の音と共に鞘入りの綺麗な短剣が現れている。
「あら、思ったより小さくなったわね!」
驚きの混じった声でマティマナは呟く。
「ああ、でも、なんて美しいんでしょう? 魚の鱗ですかね? 宝石も綺麗です」
メリッサが、鞘の細工に歓喜の声を上げていた。
「これは鞘から抜くのではなく、手にした者の好みの武器に使用時に変化しますね。海の攻撃魔法も含んでいますから、持ち主の意志で発動可能です」
鑑定士のダウゼは近くで鑑定しながら、詳細は後で記しておきますと呟き足した。
「え? 短剣ってわけじゃないのね? それに、魔法の使い手でなくても、この武器を手にすれば海の攻撃魔法が使えるってことね?」
ライセル城が攻められた時も、色々な魔法具が出来上がったが、それらは皆が使用することができた。それと同じなのだろう。
「はい! 個人の特性を活かせる海の魔法になりますよ!」
それは多分、海のなかで多彩な魔法を見ることが可能になりそうだ。
「続けて触媒細工するわね!」
防具のときは、色合いが少し違うが同じ形の宝珠ができた。だが、武器のほうは、もっと多彩だ。
ただ、形はだいぶ違うが鞘付きの短剣のような形が多い。
その他には、鎌のような形、湾刀、魔法の杖に似た形、鈍器系、鉤爪のようなもの……。皆、鞘というか危なくないように刃は覆われている。そして、形はどれも小さめだ。
「さまざまな形をしてはいますが、最初の短剣と同じで使用者の意志で、好きな形の武器に代わります。かなり大きな武器になりますよ! ただ、最初の形を好みで選ぶのが良いですね。惹かれる物であれば、より使用しやすい武器になります」
鑑定士のダウゼの言葉に、マティマナはホッとして頷く。
海の中で、水圧などの影響を受けずに振り回すことも可能らしい。鑑定士のダウゼは、さっそく細かい鑑定に入った。一点一点に、鑑定書を付けてくれるらしい。
六十もあるから、かなり大変だろう。
あ……そうだ。雅狼ちゃん!
水が怖いらしき魔石に、なんとか対策してあげなくては!
マティマナは不意に思い出した。
そして、魚系の素材を入れて持ち運んでくれた、複数の箱を覗き込む。
「武器も……欲しいって言ってたわね」
箱の中には、まだ乾燥させた魚関係の素材が幾らか残っていた。特に、鱗類や魚の牙、牡蠣殻や他の食用貝の殻。傷ありの宝石の中からは、真珠に、海に似た透明な宝石を選んで足す。
それらを掻き集め、マティマナは四種類の触媒全てを混ぜ合わせたものを雑用魔法で細工した。






