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恋仇

 主城に魔法を撒き直しながら歩いていると、侍女頭と鉢合わせになり丁寧な礼をされた。

 

「グスナさんは、どうしてわたしをかたきにしてるのかしら?」

 

 簡単な挨拶をした後で、マティマナは侍女頭についボソッと訊いてしまった。侍女のグスナはけんもほろろなだけでなく、時々、影から睨んでいる。

 

「あら、気づいてないの?」

 

 くすくす笑う侍女頭。気安くしてはいけないと侍女頭も分かっているらしいのだが、ずっと一緒に働いたりして馴染みだったので、ついついという雰囲気でマティマナの会話に乗ってくれる。

 

「え? なにかやっちゃいました? わたし……」

「まぁ、ある意味、やっちゃったわね」

「?」

「下級とはいえ、貴族の娘が何故、正式に侍女として雇われ続けていると思う?」

 

 しかも美人よ、と、う。

 

「え? 困窮してるのかしら?」

 

 他に思い当たらず、マティマナは首を傾げながら言葉を絞り出した。

 

「やあねぇ、本当に鈍いんだから! ルードラン様か、バザックス様のお手つき狙っているに決まってるでしょう?」

 

 侍女頭は、おかしそうに笑いながら、コソッとマティマナへと囁いた。

 

「……あ!」

 

 そうか。そういう意味では、ルードランをかっさらってしまった。

 憎まれても仕方ない。恋仇だ。

 

「気をつけなさいよ? グスナにしてみれば、側室だって構わないんだから」

 

 ちゃんとルードラン様を掴まえておくのよ、と、侍女頭は笑みを深めた。

 侍女として勤めながら、お手つきの機会をうかがうのなら、ルードランが婚約しようが、婚姻しようが関係ないだろう。常に側室の座を狙っているということだ。

 

「恋仇、といえば、ケイチェル様もだから、気をつけなさいよ?」

 

 ケイチェルも恋仇なのだと、侍女頭は忠告してくれた。確かにルードランの婚約者の座を狙っていた。

 

「あれ? でも、ザクレスさま、わたしと婚約破棄してケイチェルさんと婚約したんですよね?」

 

 形だけでも婚約していれば、そうそう安易にルードランに迫ることはないように思う。

 ルードランも、ケイチェルがザクレスの新しい婚約者だと言っていた。

 

「まだ婚約してないわよ? ザクレス様が一方的に口説いてるだけで。夜会の日も、ケイチェルさんの目当てはルードラン様だったはずよ」

 

 侍女頭は鋭い。やはりケイチェルは夜会で、ルードランを手にいれるつもりだったのだ。ただ、ルードランが婚約者を連れて帰還する、という情報は持っていなかった。

 更に、ケイチェルの怒りを煽ったのは、ザクレスがマティマナを婚約破棄したことだろう。ザクレスが婚約したままだったなら、ルードランはマティマナを婚約者にはしなかった。

 

「どうしてそんなこと、知ってるの?」

 

 マティマナは感心を通り越して驚愕(きょうがく)していた。ザクレスとケイチェルが、まだ婚約していないとなると、ルードランの婚約者になることを諦めていないのだ。

 

「ふふっ。お客様のなかには、口の軽いかたが多くてね」

 

 侍女頭ともなれば、本当に大切な客の場合には、他の侍女任せにせずに直接接待したりする。

 特に、この侍女頭は遣り手なのだ。

 ライセル家の手伝いに駆り出され一緒に仕事をする機会に恵まれて良かった。

 

 マティマナはしみじみと僥倖を感じている。

 ライセル家に嫁入りするに際して、侍女頭と仲良くできているのは心強いことだった。

 

 

 

 侍女頭と別れ、マティマナは何となく惹かれるように外へと出た。ずんずん歩いて城壁近くへと寄って行く。

 さすがに城の敷地内にある建物の大半には魔法を撒き終わったし、効果が消える前に魔法を追加しているから多少は安心できる。

 

 だが外まで含めると敷地内をまんべんなく魔法を撒くなど不可能に近い。ライセル城の敷地は余りにも広かった。

 

 城の建物や別棟・別邸に密接するような庭や、渡り廊下の周辺、綺麗に整備されている庭園などには撒けているが、使用人や騎士たちの領域や、何もない土地は手付かずだ。

 城壁は騎士たちの領分なので、近づける場所は限られている。

 

 城壁近くで、マティマナはざわついた。

 

「何? これ、呪いの気配じゃない?」

 

 奇妙な気配のある辺りに魔法を撒くと、古い呪いの痕跡のようなものがある。半ばは土に埋まっているが、呪いは機能しているようだ。

 

「石拾いするときの魔法なら、呪いの品に触らずに取り出せるかしら?」

 

 ひとちながら庭仕事で石拾いをしたり、埋まってしまった石を拾い出すときの魔法を働かせてみた。

 探し物として呪いの品を設定しているので、石拾いの魔法にも反映されている。呪いの込められた物に反応し掘り起こしてくれた。

 

 呪いが込められていたのは、石のようだ。宙に浮いた時点で、ゴミ箱に放り込まれないうちに魔法の布で包んだ。埋もれていた周囲に染み出していた呪いを消すように、続けて魔法を撒く。

 

「危ない、危ないわよ。こんな感じで古い呪いが城壁に沿って取り囲んでいたらどうしよう」

 

 ざわつく思いから、直感が正しいことは分かった。

 ひとりでは手に負えない。

 マティマナは急いで主城へと戻り、ルードランを捜すことにした。

 

 呪いの品は土に埋められているようだし、城壁近くは元より人の入らない荒れ地のような場所がほとんどだ。呪いで周囲が汚れても誰も気づかないだろう。

 長年にわたり、ずっとじわじわと呪いが効いていたのだとすると恐ろしい。

 

 王家由来のライセル家ならではの魔法が働いていてなお、バザックスやディアートは呪いの影響を受けたし、あちこち呪いの影響がでている。

 

「ルーさま、どこかしら?」

 

 小さく心で呟きながら、主城に戻り探した。

 

 ニケアは、二年以上城で働いているらしいから、勤め始めた頃から、密かに外側から呪いを埋めはじめていたのかもしれない。

 

 城壁は、大門の近くや極秘の門などの近くは整備されている。だが、さすがに放置されたままの土地のほうが多いだろう。広すぎる故の弊害だ。

 

 


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