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海洋博士と海の魔法具

 海の上を走るには、何を足したら良いのだろう?

 エヴラールの希望を叶えるために、マティマナは思案する。

 タンポポの種とか? それじゃ、宙に浮いちゃいそう。

 そのとき、以前に触媒細工した在庫、貝殻草の指輪が視野へと入った。

 

「メリッサ! 貝殻草の指輪って余ってるかしら?」

「はい! 予備としてかなりの数がありますよ!」

「じゃあ、貝殻草の指輪をふたつくらいずつ、小さな貝殻の触媒細工に混ぜて紐に通してくれる?」

 

 メリッサは在庫の箱を取り出すと、貝殻細工に混ぜて紐に通してくれた。

 

「こんな感じ! 可愛いですね!」

 

 メリッサから受け取り、貝殻草の指輪、貝殻と名前続きね、などと考えながら触媒細工してみる。

 腕輪の四箇所くらいに、小さな宝石が飾られたような出来映えだ。

 

「あら、綺麗!」

 

 マティマナが嬉しそうな声を上げると、近くで見ていた鑑定士のダウゼは瞠目(どうもく)する。

 

「素晴らしいですね! 水面を歩ける効果が足されましたですよ! ただ、水中に潜るのと水面を歩くのと、切り換えを身につけるのに少し苦労しそうです」

「基本としては水面を歩く感じですか?」

「そのようです。水面を歩くだけなら直ぐに使えるでしょう」

 

 海中に潜ったり、また水面を歩いたり、という切り換えが難しいらしいが、取り敢えず水面を歩くことはできそうだ。

 

「先に、ジルガさんたちに試してもらったほうが良いわね」

 

 エヴラールに直ぐに渡すのは、ちょっと危険かしら、とマティマナは思った。何より魔法に慣れていない感じだ。

 

 

 

「海の上を歩ける魔法具ができたのに、なぜ私が後回しなのかね?」

 

 耳が早いというか、余程海の上を歩きたいのだろう。エヴラールは勢い込んで工房に入ってくると、早速文句を言っている。

 

「海の上を歩ける魔法具ができましたが、水中にも潜れるので扱いが難しいみたいなのです」

 

 博士を失敗させ海に落としてしまっては申し訳ない。

 

「その魔法具があれば、海に潜っても大丈夫なのだろう?」

 

 落ちても問題ないと考えているようだ。

 なんだかんだと文句をいいながら、魔法具の効能に関しては信頼してくれているのかしら?

 マティマナは、ちょっと不思議な気分だ。

 

「海には余り深く潜れませんので、ご注意を」

 

 鑑定士のダウゼが、一応、一言足してくれた。

 

「どんどん改良して行きますので、ご使用の後は、ぜひ、ご希望を告げていただけますと嬉しいです」

 

 出来上がりの魔法具を渡しながら、マティマナは一応、告げる。

 

「当然、文句を言うに決まっているだろう?」

 

 エヴラールは少し笑って言うと、マティマナから腕輪を受け取り馬車で海へと出かけて行った。

 

 

 

「何故、猟師たちは海の上を歩くのと、水中に潜るのを上手く切り換えられるのだね?」

 

 ビショ濡れになった形跡はないが、割合早くに海から馬車で戻ってきたエヴラールは早速、詰問だ。

 

「猟師さんたちは、貝殻草の指輪になれているからだと思います」

 

 その上で、海に潜ることが多いのでしょう、と、言葉を足した。

 

「海洋研究をしている私も、海には良く潜るのだが?」

「では、やはり猟師さんたちは貝殻草の指輪で、聖なる魔法になれているのでしょう」

「聖なる魔法に慣れれば良いのか? どうすれば、慣れられる?」

 

 声を荒げてはいないが、エヴラールは声高だ。一刻も早く魔法具を使いこなしたいのだろう。

 

「そうですね……」

「マティマナが以前に細工した強めの聖なる魔法具を携帯するのはどうだろう?」

 

 マティマナが思案気にしていると、エヴラールの声を聞きつけたか工房へと入ってきたルードランが提案してくれた。

 

「それは、どんな効果があるのだね?」

「死霊を寄せつけないとか、死霊を倒すとか、呪いを除ける……とかですかね?」

 

 マティマナの言葉にエヴラールは、不服というよりは何かにピンときたような表情を浮かべた。

 

「では、是非、買い取らせてもらおう」

「品も見ずに、買い取る気かい?」

 

 ルードランは笑みを深めて訊いている。

 

「海の魔法具を使いこなすためなら、どのような代物でも構わん」

 

 エヴラールは言い切った。

 

 聖なる力の込められた品は、さまざまな物が出来上がっている。

 異界での商売用の品もあるが、素材の元が凄すぎて効果も絶大すぎて外に出せないものもある。

 女の子なら、髪飾りというのが定番ではあるが。

 今のところ海の魔法具は腕輪なので、宝飾品ばかり増えるのも何だか申し訳無い。ただ、エヴラールには何であれ、激烈に似合うと思う。

 

 言動はキツいが、容姿の美しさは相当なものだ。

 

「ペンダント……のようなものが身につけ易いですかね? 武器にも変化するようなものが在ったはず……」

 

 出来上がった品は、どれも愛着はある。だが品数が多すぎて把握は難しい。

 

「あ! はい! 少々お待ちください!」

 

 メリッサは真っ直ぐに目的の棚へと向かい、綺麗な装飾箱に入れられた金細工風のペンダント・ヘッドを持ってきた。

 

「ああ、これは良さそうだね。エヴラール殿に似合いそうだ」

 

 ルードランが笑みを深める。

 

「どうやって身につけるのだね?」

 

 不信そうにエヴラールは首を傾げながらも腕を伸ばして飾りを手にした。金細工に宝石のような小さなきらめきが幾つか飾られた楕円形。

 指先で持ち上げた途端(とたん)に、首に掛けるための金鎖が現れた。

 なるほど、と呟きながらエヴラールは身につける。

 

「確か、武器に変わるのだったね?」

 

 確認するようにルードランが訊いてくる。

 

「はい。聖なる力が通用する相手であれば、好みの武器になりますよ」

 

 マティマナの言葉に、エヴラールはまた不信そうな表情だ。

 

「好みの武器? 使う者によって違う武器になるということかね?」

「そうです」

 

 マティマナは即答だ。確か、材料には神獣関係の特殊な素材が使われている。マティマナの触媒細工や雑用魔法の力というよりも、聖なる効力によりその神獣の力が発揮されるはず。

 

「今、武器に変えてみることはできんのか?」

 

 確認したいのだろう。

 

「残念ながらというか、幸い、ここは聖なる空間で死霊のたぐいも不浄もないからね」

 

 ルードランが笑みを深めて告げた。

 

「なるほど。では、海で不浄な存在に遭えば自然に武器となるわけだな?」

 

 楽しみにしよう、と、エヴラールは頷きながら呟いた。

 

「また、海に行かれるのですか?」

「いや。今日は、研究の続きを書く」

「早く慣れるためでしたら、就寝時も付けることをお勧めします」

 

 やりとりをずっと見ていた鑑定士のダウゼが、そっと言葉を足してくれていた。

 

 


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