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貝殻の触媒細工

 ジルガたちは、マティマナの魔法具を試すことを喜んで引き受けてくれたそうだ。

 元より、貝殻草からマティマナが造った指輪を皆嵌めてくれている。聖女自らが造る魔法の道具を、真っ先に試すことができると、大いにわいているらしい。

 

 マティマナは小さな貝殻をどんどん触媒細工し、鑑定士のダウゼに種類分けしてもらった。メリッサには雑用魔法で造った飾り紐を渡し、小さな触媒細工を飾り紐に通した腕輪にしてもらった。

 

「こんな感じで宜しいでしょうか、マティお義姉(ねえ)さま!」

 

 メリッサは手早く大量の腕輪の形にしてくれている。

 

「ありがとう! 作業が早くてすごいわね!」

 

 最初のひとつは腕に嵌めたときに自然に触媒細工されてしまった。だが、今度は、マティマナは意図して触媒細工する。ふたつの鉱石は半々の割合で注ぎ込む感じだ。

 

 最初と同じように、貝殻や宝石の浮き彫り細工でできたような腕輪に変わって行く。ただ、繊細な模様が白く浮きあがるのは同じだが、地色は微妙に違っている。綺麗な色合いなのは確かなので、貝殻と同じようにうっとりと眺めてしまう。

 

 身につければ自然に手首にピッタリに嵌まるから、意識せずに外れてしまうことはなさそうだ。

 

「微妙な色合いの変化で、効能が少しずつ違うようですな。ただ、極々わずかな差異です」

 

 効能の差を色合いで現しているようだ。真珠の光沢にも似たさまざまな色合いの地色は、白い浮き彫りと相俟(あいま)ってとても美しい。

 

「じゃあ、メリッサ、今度は同じ種類を二個ずつ、倍量を紐で繋いでみて」

 

 マティマナは、触媒細工された貝を増やしたら効果が増えるのかが気になった。

 

「はい! こんな感じでしょうか?」

 

 メリッサは即座に、器用に触媒細工した貝を魔法の紐に通してくれる。

 

「ありがとう! 良さそうな感じね!」

 

 即座に触媒細工してみる。

 すると、少し今度は地模様の色合いが深い感じで腕輪の太さがちょっとだけ増した。

 

「ああ、これは素晴らしい! 効果は、倍以上になっていますぞ」

 

 素材を足したことで相乗効果があるってことかな?

 マティマナは少し驚きながらも、組み合わせによって色合いや形も変化しそうだと感じた。今のところ、腕輪の形なら使いやすいように思う。

 

「じゃあ、まずは、この形のものを量産してみましょうか!」

 

 マティマナは、さまざまな種類の小さな貝殻を、次々に触媒細工し始めていた。

 

 

 

「海軍が必要かもしれない」

 

 ルードランと一緒に工房に入ってきたエヴラールの声が聞こえた。

 

「海軍……ですか?」

 

 なんとなく不穏ではあるが、竜宮船が問題を起こした貿易船を追いかけてルルジェ港に向かっているとなると、なんらかの対策が必要かもしれない。

 

「軍というほど大がかりなものは直ぐには無理だけれど。ただ、自警団に丸投げするのも良くないのでね」

 

 ルードランがマティマナへと応えた。

 

「当面は、猟師の自警団とやらを支援して海軍の元とするのが良いと思うが」

 

 エヴラールは、早くに海軍が欲しそうだ。だが、ライセル城の騎士たちを回すには人数が足りないうえに、海に対応できるかは謎だろう。

 

「確かに海のことは、海の者に任せるのが得策だろうね」

 

 ルードランの言葉にマティマナは頷いた。

 

「ジルガさんたち、喧嘩っ早そうですけど頼りになると思います。援助、賛成です」

 

 既に自警団として海辺を護る役を買ってでてくれているのだから、できる限りの援助をしてあげてほしい。海での魔法具も、急いだほうが良さそうだ。

 

「随分と、魔法具が増えてきたね」

 

 ルードランは、短い期間に品が山積みになりつつある様子に青い眼をみはる。

 

「はい! 久しぶりで楽しくて!」

 

 貝殻を触媒細工するのを躊躇(ためら)っていたのが嘘のように、楽しんで細工できている。ただ、まだ大きな貝殻や、特別な形や色の貝殻は手付かずのままだ。

 ルードランの隣でエヴラールが何か皮肉を呟くのでは、と、マティマナはちょっと冷や冷やだったが、意外にも何も言わない。

 

「余り無理をしないようにね?」

 

 ルードランはマティマナが勢いづいているのに気づいたようで、少し心配している。

 

「王妃さまが自らお造りなさるの、とても貴重な品ですね」

 

 メリッサは、小さく呟く。だが、もう、こうなると、雑用魔法を使って触媒細工するのは趣味のようなもので、止められたら辛くて寝込みそうだ。

 皆、マティマナの雑用魔法や触媒細工を歓迎してくれているのが分かるので、温かい気持ちになれた。

 

「それなりの数になってきているようだから、ジルガたちに届けて使ってみて貰おうか」

 

 ルードランは、完成品らしき腕輪の個数などを確認し、鑑定士のダウゼが効能を記した紙を読んだ後でマティマナに告げた。

 

「はい! ぜひ、使ってもらって更に必要そうな機能を教えてもらえると嬉しいです。海に潜ったときって、きっと思いもよらない魔法が必要かもしれないですから」

 

 マティマナの触媒細工した魔法具を使ったものから報告を聞けば、たぶんその機能を足せるような気がする。

 

「海上での機能はどうだ?」

 

 ずっと静かにしていたエヴラールが不意に訊く。

 

「海上? あ、それは考えてませんでした。どのような機能があると良いのでしょう?」

 

 マティマナは緑の瞳を見開き、ちょっと期待に満ちたような表情で訊いている。

 

「……例えば。波の上を歩けるとか、だ」

 

 エヴラールは、そんなことは不可能だろう、とでも良いそうな気配だ。

 

「海中だけでなく、海上でも、対応が必要になるのですね?」

 

 エヴラールは、何か前例を知っているに違いない。

 

「怪異は、まず海上に現れる。貿易船は、たぶんそうした怪異と激突するなりしたのだろう」

 

 海中の竜宮船を調査したいとエヴラールは考えているようだが、その前に、海上へと出てくる怪異たちとの対応があるのだろう。

 きっと、船では不都合なのだ。

 

「分かりました。ちょっと、色々試してみますね」

 

 マティマナは、なんとなく、貝殻だけでなく他の地上の材料が必要だと直感した。

 だが、エヴラールの望む品は造れる気がする。

 

「造れそうなのか?」

 

 エヴラールは、意外そうな表情でマティマナをじっと見る。金の眼には、うっすらと期待の色合いだ。

 

「必要なものなら、必ずできるよ。エヴラール殿」

 

 ルードランが横合いから笑みを向けて告げる。

 

「はい! なんとなく、出来そうな気がしてます」

 

 不確定なことを言って申し訳ないと思いつつマティマナは応えていた。

 

 


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