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竜宮船の挙動

 マティマナに対して当たりのキツいエヴラールは、それでも少し態度が軟化している。マティマナとしては、必要な者に、必要な品を造りたい。

 なのでエヴラールが海での調査に必要な魔法具が必要だと分かれば、なんとか希望を叶えたいと思う。

 

「竜宮船は海底だ。潜るだけでなく、船内の調査をしたい」

 

 エヴラールは目的を告げる。

 

「それでは、先程の魔法具では無理でございます。機能は向上していますが、海底、まして海底の船内での行動はできないでしょう」

 

 鑑定士のダウゼが慌てて告げる。

 

「性能の良い海の魔法具にするなら、その大きな貝を使ったらどうだ」

 

 少し苛々した調子でエヴラールは届けられたばかりの貝殻を視線で示しながら要求した。

 マティマナの心が悲鳴を上げている。

 

「嫌です!」

 

 マティマナは反射的に応えた。応えてから自分で驚いている。そんな風に、他の者の言葉にあらがうことなど余り体験がなかったからだ。

 

「何故だ?」

 

 瞠目(どうもく)し、せないという表情のエヴラール。

 

「ダメです。まだ、眺めていたいの!」

 

 届いたばかりの綺麗な貝殻。美しく眺め足りず、とても触媒細工に使うだなんてできない。ままかもしれないけれど、まだ絶対にダメ、と、なぜか心か騒ぐのだ。

 マティマナの言葉に、エヴラールは苛立つ表情だ。

 

「エヴラール殿、触媒細工には段階があるらしくてね。焦ってはダメだよ?」

 

 いずれ必要な品はできるから、と、ルードランはエヴラールへと笑みを向け確信したように告げた。

 マティマナは、ルードランの言葉にホッとするが、申し訳ない気持ちは勿論あった。

 

「エヴラール博士、竜宮船の船内は、やはり海中なのですか?」

 

 深呼吸を一回。それから訊いた。

 手がかりは少しでも多くほしい。エヴラールが何を望んでいるのか、まだマティマナは全然分かっていなかった。

 

「当然、海中だろうね」

 

 問いには普通に応えてくれたので、マティマナは頷いた。

 

「では、船内調査中はずっと海の深くに居るのですね?」

 

 マティマナは思案気に呟く。

 長時間、海の魔法具が持ってくれるかどうか確認もせずに造るわけにはいかない。やはり段階を踏むしかない。実験が必要だと思う。

 

「竜宮船は、もうルルジェの都に着くのかい?」

 

 今度はルードランがエヴラールに訊いた。

 

「いや、分からんな。まだ猶予はあるだろう。それにルルジェなど通り過ぎてしまうかもしれん。だが、航路的に間近は通る。得難い機会だ」

 

 なんとしても、竜宮船を調査する機会を掴みたいに違いない。その必死さは伝わってきた。

 

「竜宮船、近くに来ればわかるのですか?」

 

 マティマナの言葉に、エヴラールは頷く。

 

「海の怪異たちの目撃情報が増えるはずだ」

「なぜ向かっているのがルルジェ方面だと気づいたんだい?」

 

 エヴラールの言葉に、ルードランが訊く。

 

「シャミヌティ辺りの猟師が怪異に遭っている。海沿いを東に、貿易船を追いかけているらしい」

 

 シャミヌティは王都などがある湾の出口近くの外洋に近い。

 

「シャミヌティ辺りの貿易船なら、目的地はルルジェ港というわけだね?」

 

 ルードランは納得した様子だ。

 

 王都や聖王院のあるカージュガイの都、学術都市アーガラなどは、大きな湾の内側に面した都だ。

 ルルジェは、それらの都に陸路では比較的近い。だが、王都などは奥まった湾なので、ルルジェに船で向かうには、湾を抜けてから外海を長く航海する必要がある。長い距離を航行する間、主たる都や街は海に面していない。

 

 シャミヌティ辺りを通る貿易船の目的地は、ルルジェ港。その後は、東の辺境を目指す。

 

「怪異は、怖いのですか?」

 

 ずっと静かに話を聞いていたメリッサが、不安そうに小さく訊いた。

 

「竜宮船は、ひとつの小国が動いているようなものだ。いさかいは好まんだろう」

 

 今までの例では、と、エヴラールは言葉を足した。メリッサは少し安堵の表情だ。

 とはいえ、なぜ貿易船を追っているのか。何か事件でもあったのなら、その貿易船がルルジェ港に入ったら追いついて襲うかもしれない。

 

「では、竜宮船が近くを通る前には、絶対に海の魔法具必要ですね!」

 

 怪異が現れる前には、何とかする必要がある。

 

「猟師たちが先ず発見するだろうからね。彼らにも魔法具が必要だろう」

 

 ルードランは何かと思うところがあるような気配をさせている。

 

「あ! では、ジルガさんたちに、魔法具を試してもらうと良いかもです!」

 

 怪異に遭遇したときに、対応できる魔法具も必要かもしれない。

 

「それは良いね。連絡を入れておこう」

 

 乗り気な様子でルードランは応えてくれた。

 

「エヴラール博士、竜宮船の怪異さんたちは、言葉が通じるのですか?」

 

 マティマナは確認するように訊く。意思疎通ができないとなると、何かと厄介だ。貿易船との間に何かあったのなら特に。

 

「言葉を発さない者が多いが、基本会話は可能だ。こちらの言葉を研究しているらしい」

 

 エヴラールの応えに、マティマナは少しホッとする。最悪、言葉が通じないなら言語に強いキーラを呼ぼうかとも思ったが大丈夫そうだ。

 

「どの貿易船を追っているのかまでは、分からないですよね?」

 

 一応、心配だったのでマティマナは訊いてみる。

 

「わからんが、何かいざこざを、誤魔化しているようだったな」

 

 ええっ! 竜宮船と問題を起こした貿易船がルルジェ港に向かっているってこと?

 しかも、どの船かは分からない。竜宮船の側では、きっと明確なのだろうが、ライセル小国としては調べようもないということだろうか。

 

「貿易船を特定する方法はないのかい?」

 

 今度はルードランがエヴラールに確認する。エヴラールは少し思案気にしながら、しばらく黙していた。

 

「問題を起こしたなら。恐らく、怪異によってしるしは付けられている。だが、我々がそれを見分けられるかは未知数だ。情報がなさ過ぎる」

 

 怪異によるしるしが付けられた貿易船がルルジェに入港する!

 貿易船は毎日かなりの隻数の出入りがある。その上、入港したら長期間の滞在になることが多い。

 

「印が、どのようなものか、分かると良いのですが」

 

 竜宮船より先に、その貿易船を特定できれば……。

 

「特定して問題のある貿易船を追い出すつもりかね?」

 

 エヴラールは皮肉な口調で呟く。

 

「いえ! 和解してもらうしかないのでは?」

 

 マティマナは主張した。

 

「和解するにしても、仲介が必要かもしれないね」

 

 ずっと思案気な表情のままのルードランが呟いた。

 

 


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