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王宮での奉納舞い

 マティマナにとっては夢見心地の新婚生活が続いていた。

 結婚式の数日後のこと。

 

「王宮への報告を済ませてしまおうか」

 

 すっかり身支度を整えたルードランが、少しボーッとしていたマティマナへと声を掛ける。マティマナは何度か瞬きし、ルードランへと見上げる視線を向けた。

 不意にルードランの身につけているのが特別な衣装だと気づき、マティマナはジタバタする思いだ。

 

「今から出かけるのですか? ああ、支度しなくちゃですね」

 

 予定をすっかり忘れていたのだと思ってマティマナは、あたふたと慌て転びそうになっていた。

 

「済まないね。本当は、もう少し先の予定だったのだけど。王宮側の不手際で」

 

 転びそうなマティマナを器用に支えて立たせると腰を抱いてくる。予定を忘れていたわけではなかったらしく、少しホッとしたが、急遽王宮に行くことになったので慌てたままだ。

 

「着替え……もしかして王宮に行くのでしたら正装ですか?」

「そう。王宮では簡単な挨拶と奉納舞いだね」

 

 小国の制度になったため、王都の王宮は周辺の貴族たちと、小国以外のユグナルガ全土を管轄する形に変わった。小国からの挨拶は、以前はもっと仰々しいものだったらしいが、簡易化していくらしい、というようなことをルードランは話してくれた。

 

「正装でしたら、雑用魔法で着替えても良ろしいでしょうか?」

「もちろん。だから僕は先に着替えてきたんだ」

 

 マティマナは頷き、結婚式の前に練習した魔法を使う。聖王院から賜った高貴な緑色の正装一式を、一瞬で身につけた。

 

「ああ、腕のなかでの着替えは、とても良い感じだよ。じゃあ、行こうか」

 

 ルードランは笑み含みで囁くと、マティマナの身体を抱きしめる。

 

「え? あ、行くって、ルーさまの転移……」

 

 マティマナの言葉が終わらないうちに、巨大な庭に出た。たぶん王都の王宮だろう。

 そうだった。ルーさまは、何度も王宮に行っていたのだから転移できるのよね!

 

 王宮側の不手際はあったらしいが、きちんと段取りは整っているらしい。ただ、とても忙しない感じではあった。

 

 マティマナはルードランと共に、即座に転移させられ王宮内の広間に招かれている。

 

「ようこそ。神殿巫女のルナシュフィです。慌ただしくて申し訳ございませんが、王族方々へと奉納舞いを給いたく」

 

 王都・王宮内に存在する巨大神殿の巫女が告げた。

 ルナシュフィは【仙】の中でも最も強い力を持つという。ディアートに習った。ディアートは王宮勤めの際にルナシュフィに仕えていた。

 白金の長い髪に、水色の瞳が印象的だ。【仙】としての衣装であるから、基本的にマティマナの着ているドレスと同じ形の色違いをまとっている。白に豪華な金の刺繍。少女のような姿であるのに、【仙】である聖王院の院長とは別の意味で強力な威圧感があった。

 

 そして、踊りの場の奥に、数段高い場所があり王族方々らしきが豪華な椅子らしきに座している。王族の方々は皆、金の衣装だ。

 

「お任せください」

 

 ルードランが応えた。

 楽が奏でられる。馴染みの曲。ただ、さすが王都王宮。奏での雅さは凄まじい。

 しかし奏でを耳にし、踊りの場へとルードランに導かれて行けば、強烈だった緊張感も吹っ飛んでいた。

 

 最初から少しも緊張した様子のないルードランは、いつもの眼差しでマティマナを見詰めている。

 踊りが始まってしまえば、常よりも、もっとずっと開放感に満ちて身体は動いた。

 

 ルードランに送り出され、踊りの場にひとり。そこからが本格的な奉納舞いだ。マティマナは王宮にある独特の気配が、導いてくれるように感じていた。満ちて行く高揚感と浮遊感。

 

 ルードランの腕に戻り一緒に踊る部分も終わる。

 ふたりで、王族の方々へと礼を届ける頃には、拍手喝采だった。特に、五歳の姫が、段から下りてマティマナに駆け寄ってきて抱きついた。

 

「すごいです! こんなすごいの初めてです!」

 

 第一王位継承者セリカナの娘であるサリュン姫は、興奮した様子で満面の笑みだ。セリカナは、優雅な仕草でサリュン姫を追いかけ近づいてきた。王族を代表しているらしい。

 

「ライセルによる都の統治、愉しみにさせてもらおう」

 

 セリカナは、ルードランとマティマナへと威厳に満ちた声で告げた。

 

「御意に」

 

 ルードランは優雅な礼をしながら応える。マティマナも隣で丁寧な礼をする。

 

「我が王宮の【仙】である神殿巫女より、ふたりに祝福を」

 

 セリカナの言葉の後、ルナシュフィは、タップリと神聖な魔気をルードランとマティマナへと与えだす。それは、魔気の器の量を超えて蓄えられるらしき不思議な感覚だった。

 

 


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