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迫る婚儀と魔法の練習

 何かと延期になっていたルードランとの婚儀も、いよいよ間近になってきた。

 ライセル城では、慌ただしく準備が進んでいる。

 マティマナは準備を手伝うわけにもいかず、ディアートから特殊な場面での所作などを習ったり、何気に平穏な日々だ。

 

 ただ、ルードランとふたり、婚儀で着る衣装については悩み続けていた。聖王院のドレスも、異界の王子がもってきた超豪華な異界王家のドレスも、ライセル家が以前から用意してくれている婚儀用の豪華衣装もある。

 

「異界の衣装で臨もうか。ライセル家が用意した衣装は着る機会がいくらでもある」

 

 夜会のときにでも一緒に着よう、と、ルードランは考えた末に提案してきた。

 

「そうですよね。ガナイテールの第二王子からの超豪華な衣装……。あれは婚儀以外で着る機会はなさそうです」

 

 ガナイテール王家の宝物庫に存在していた豪華すぎる衣装だ。色合い的にも、ライセル家での婚儀に相応(ふさわ)しい。ライセル家が用意したドレスも超豪華なのだが、こちらは、いくらでも着る機会がありそうだ。

  

「うん。でも、マティマナは、聖王院からの正装には、是非、衣装替えしよう!」

 

 聖王院のドレス。マティマナの聖女姿は、皆が望んでいるらしい。

 

「はい。聖王院長もいらっしゃいますし」

 

 マティマナは、了承の頷きを示した。

 ただ、ちょっと思うところがある。密かに練習が必要だと、マティマナはコッソリ考えていた。

 

 

 

 ずっと婚儀の準備には駆り出されなかったマティマナだが、婚儀間近になると俄然(がぜん)忙しくなった。

 招待客のなかには早めにライセル城に到着し、長逗留する者もいる。

 ルードランと共に、先に挨拶を済ませることになっていた。

 そのため、マティマナは連日、昼間はとくに、ずっと夜会のときのように着飾らされている。ルードランも同様に華やかな衣装を身につけているので、マティマナは頻繁にれていた。

 

「ルーさま、とっても素敵です!」

 

 衣装の着こなしが素晴らしく、さり気ない仕草も高貴だ。衣装の華やかさが増すごとに、麗しさは増大し目が眩む。

 

「素敵なのは、マティマナのほうだよ? どの衣装もとても似合っているね」

 

 ルードランは、陶然とした表情で見詰めて囁いた。

 招待客のなかには贈り物だけで済ませる者もいる。そうした品が、次々に届く。出席する者たちも、贈り物は先に別送してくる者がほとんどだから、確認作業も必要になってきた。特に、出席者たちから先に届く贈り物は、把握しておく必要がある。

 

 

 

 マティマナは密かに雑用魔法を駆使し衣装替えを練習していた。習得できなかったら、おとなしく着替えさせてもらおう。

 当日の衣装担当の侍女には、あらかじめ頼むことにした。

 

「お手間とは思うのだけど、衣装替えの一式、ここに着せつけておいてほしいの」

 

 マティマナの着替えのための部屋には、人形型がある。二体の人形型に、二種類の衣装を着付けさせておく。

 着付けの練習をした後で、マティマナは頼んでおいた。飾り物もすべて揃えてもらった状態だ。

 

「はい、畏まりました。手間だなんてとんでもないです」

 

 問題なさそうなので、ホッとする。

 マティマナは婚儀の儀式会場で、一瞬で衣装替えをしたかった。着替えには時間がかかるし、来客を待たせるのは恐縮すぎる。

 

 衣装の乱れを直す魔法も、進化してきていた。

 応用で、なんとかならないかな?

 そう思っての練習だ。幸い、当日まで衣装二種類は人形に着付けた形で控室に置かれる形に正式になった。おかげで練習しやすい。

 特に、聖王院からの賜り物は、聖なる衣装なので簡単にマティマナの意志に従ってくれた。それは脱ぐほうのガナイテールの秘宝衣装も同様らしい気配でありがたい。

 

 

 

 マティマナとルードランは、婚儀の後、しばらく豪華別棟で過ごすことになった。

 当主が引き継がれ、部屋も全体的に移動になる。

 ルードランの父母は、階下の特別部屋に移動となるが、今までの当主部屋が整えられるまでマティマナたちは別棟暮らしとのことだ。

 

 別邸は一階には使用人が出入りし、食事を用意したり、別室にて身支度などを整えてくれたりする。

 階上は基本的に、ふたりだけの出入りになるようだ。

 基本、ライセル城では片づけや掃除は不要。まして、マティマナの雑用魔法があれば使用人や侍女の出入りがなくても問題はない。

 

 そうこうしているうちに、あっという間に結婚前夜だった。

 別棟には泊まりの客が増え、式場となる神殿風にしつらえられた広間は、大夜会のときより広く整えられている。ライセル城中に、たくさんの花が飾られ、特別な飾りがあちこちを彩り、華やかさを演出していた。

 

「さすがに、ドキドキしてきました!」

 

 食事を済ませた後、最後の打ち合わせをしながらマティマナはルードランに囁く。

 

「待ち遠しかったけど、マティマナとずっと一緒に過ごせていたから、あっという間だったよ」

 

 斜め隣に座りながら、ルードランはマティマナの両の手をとり笑みを深める。

 

「婚儀の宴のとき、踊るのですか?」

 

 バザックスとギノバマリサの婚儀は、半ば内輪のものだったので、宴のようなものはなかった。なので全く参考にならない。

 

「要望が多いからね。僕とずっと一緒に踊る曲だよ」

 

 ひとりの部分のない曲を披露するということのようだ。踊りは、ずっと色々な種類の練習をしてきているし、ルードランと一緒に踊るなら特に問題はなさそうだ。

 

「ああ、ルーさまとずっと踊れるの嬉しいです!」

 

 ひとりで踊る部分は開放感があって愉しいのだけれど、やはりルードランと一緒に踊るのが心地よい。

 

「キスの練習もしなくちゃね」

 

 ルードランは両の手を取ったまま身体を寄せてくる。無意識にマティマナは少し顔を上向かせ、唇の重なる感触を甘く受け止めた。

 

「……あ、本当にこれ、挙式でするのですか?」

 

 立ってられるかしら……?

 キスが解かれた後で、くらくらしながらマティマナは訊く。

 

「都に、キスが広まると良いね」

 

 神前での誓いの印だと言っていたが、ルードランには別の思惑もあるらしい。

 にっこりと笑みを深めるルードランの顔を、マティマナはすっかり陶然として見詰めていた。

 

 


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