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金の竜からの賜りもの

 石の巨人は少し神殿のなかを歩き回っていたが、転移したように姿を消した。

 

「遠い昔。この神殿の守護である石の巨人が封じられ、神殿は弾け飛んだ」

 

 石の巨人にかけられた封印が解かれなかったなら神殿は再び崩れたろう、と、脳裡へと知識のように言葉がひらめいた。

 神殿の守護たる石の巨人は、小さく封じられ魂は別空間に引っ張られ何かの使役をさせられていたらしい。

 聖なる成分を大量に注がねば、元の姿には戻れない。元の姿になるまでは封じた矢が視えない。矢を抜き取れば封印は解けるが、聖なる成分でのみ元の姿に戻せるのだ。そんな風に、シェルモギを封じる矢の特性が教えられていた。

 

「シェルモギの封印は、その矢で可能だ。ただ、これも授けておこう」

 

 マティマナの手に、光る鱗らしきが二枚乗せられている。

 

「竜さまの鱗なのですか?」

 

 驚いてマティマナは訊く。宙に浮いた翼のある光の竜は頷いた。

 

「一枚は、触媒のような使い方をするが良い。聖女の杖に仕込んで使えば『叛逆の粉』という光の物質を撒き散らすことができる。浴びた死霊たちは皆、司祭(シェルモギ)に叛逆し其方(そなた)たちの仲間になる。聖邪の循環で、邪の成分を全て抜けば浄化され消滅する」

 

 火葬による浄化よりも強力な浄化だと、追加の知識が来る。

 

「もう一枚の鱗は、所持している触媒で好きに加工すると良い」

 

 何が造られるかは、御神体にも謎らしく楽しみにしている気配があった。そして、御神体である光の竜は、この神殿から出られない存在であることも無意識へと伝えられた。イハナ城を壊してもらうことはできない。

 

「今後は、神殿は破壊されずこのまま残る。ただ、入るためには、門前を護る石の巨人を説き伏せねばならぬ」

 

 其方(そなた)たちは出入り自由だ、と、言葉が足された。

 

「ありがとうございます! なんとか、イハナ城を攻略できそうです」

 

 ルードランは手にした矢を、腕輪にしている武器のなかへとしまい込んでから深く礼をとった。

 

「感謝いたします!」

 

 マティマナも声を掛け深く礼をする。

 感謝するのは此方(こちら)のほうだ、と、声を残しながら光の竜は祭壇のなかへと消えて行った。

 マティマナとルードランの身体は、神殿の外、草地へと転移させられている。

 門前に、かしづく気配でうずくまる石の塊があった。

 

「じゃあ、戻ろうか」

 

 ルードランの言葉にマティマナは頷いた。

 

「……これで、準備は整ったですかね?」

 

 緊張が解け、安堵の吐息と共に呟く。

 強烈な目眩(めまい)が、襲いきていた。

 大量の聖なる成分を出し入れした衝撃が、今更のように甦ってきているようだ。

 転移のためルードランの腕に抱きしめられた瞬間、マティマナは意識を手放していた。

 

 

 

 だいぶ爆睡してしまったようだ。侍女に衣装を整えもらい工房へと赴く。

 バザックスとギノバマリサは連携して都の死霊を片づけていた。バザックスが空鏡の魔石からの弾で倒し、骨や死骸はギノバマリサがグノーフ教の焼き場へと届ける。

 法師が手配した焼き場では、即座に火葬による浄化を進めていた。

 

 その辺り、ディアートが使う喋翅の魔石で知ることができた。

 ただ、マティマナとルードランが魔法の森に入ってからの出来事は、森の魔法に阻まれてか共有には到っていないらしい。

 その分は、マティマナの意識がないときに、ルードランが説明を済ませてくれたようだ。

 

「マティさま、大活躍でしたね!」

 

 心配していたらしきメリッサは、マティマナの顔を見るとホッとした表情を浮かべ、その後で声を弾ませた。

 

「でも、本番はこれからなのよね……」 

 

 危険のない場所であればこそ、魔気をすっかり使い切る、などという危ない行為も可能だ。だが、イハナ城を壊す際には、そんな危険はおかせない。

 死霊たちやシェルモギ、レュネライ、人質などから邪の成分を吸い上げ、それを直接使用し、地道にイハナ城を壊して行く。

 

「良かった。気がついたんだね、マティマナ」

 

 急いで工房に入ってきたルードランが安堵の声をたてた。

 ディアートの空間越しに声をかける前に、直接顔を見たかった。と、空間越しにコッソリ伝わってきている。

 

「はい。いつの間に寝てしまったのか、失礼いたしました……」

「あれだけ魔気を大量に出し入れしたら、そうそう持たないよ。無茶をさせてしまったね」

「本番はこれからです。きっと、もっと無茶をしないとです」

 

 イハナ城に染みついた呪いも、聖邪の循環に使用できるだろう。ただ、呪いはシェルモギが根こそぎ吸い上げてしまった可能性かある。

 その不安は、ルードランに即座に伝わったようだ。

 

「僕の聖域には、まだタップリ聖なる成分が貯められているから大丈夫。できるだけ、無茶しないで済むように手助けするよ」

 

 邪や呪いや闇の成分を完全に抜いた後で叛逆の粉を使用すれば、死霊たちは浄化で消滅すると分かった。ギノバマリサに転移してもらわなくても良くなる。

 

「城を壊しに掛かったら、マリサにはバザックスが見つけた人質の転移をしてもらう予定だよ」

 

 ルードランが補足説明してくれた。人質が見つかる度に、転移で助けられるのはとても良い。

 たぶん、マティマナが城を分解しているうちに、聖邪循環で人質に掛けられた呪いや邪の成分も吸い取れるから、転移で助けるときには、綺麗になっていると思う。

 

「人質の方々は皆、魔気に体力も不足でしょうから、補充は私が引き受けます」

 

 ルードランの言葉に続き、法師の声が響いてきた。

 人質は邪を取り除き綺麗な状態でライセル城へと転移され、法師が魔気や体力を補充してくれる。それはかなり安心材料だ。城には、治癒のできるライセル夫人もいる。軽い邪や洗脳なら、敷地に入っただけで浄化されるだろう。

 

「すっかり準備万端ね」

 

 マティマナは頼もしさに笑みを深めて呟く。

 

「先ずは、城壁の外からだね。敷地の死霊から邪の成分を吸収しよう」

 

 ルードランの言葉にマティマナは頷く。ルードランがマティマナを連れて少し浮き、リジャンが雅狼を連れて警護に。歌でメリッサが防護する。バザックスとギノバマリサは、当分は都を歩く死霊の退治だ。ただ城攻めが始まれば、死霊たちはイハナ城に戻されるだろう。

 その辺りの状況報告も、ディアートの魔石で都度ごとにわかるのが有り難い。

 

「城を壊しに掛かる前に、少しでも多く聖なる成分が貯められると良いですね」

 

 マティマナは切実に呟く。

 邪の成分を奪っていると分かれば、シェルモギは死霊たちを城内に入れてしまうだろう。それまでに、できる限り、聖邪を循環させておきたい。

 

「まあ、引きこもってくれれば即座にイハナ城の解体にかかれるから、そのほうが良いかもしれないよ?」

 

 イハナ城の広い敷地には、分解された石などがどんどん積み上げられることになる。

 ディアートの魔石空間で話し合い、明日の早朝から取りかかることを皆で決めた。

 

 


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