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怪しい侍女

 侍女のなかに愛想がない、というかマティマナが避けられてると感じる娘がいた。話かけようとすると「申し訳ありません、急いでおりまして」と、けんもほろろで逃げられる。

 なんだか後ろめたい気配を漂わせているようにも感じられてしまう。

 

「怪しいわよね? それにあんまり見たことないかたみたい」

 

 マティマナはひとちた。

 夜会などで臨時雇いが必要なときは、身元が確かということもあり下級貴族の者が手伝うことになる。

 だが、ライセル家に普通に雇われる者は身分は問わない。募集に応じた者を、家令や侍女頭が審査する。

 

 怪しい侍女は、特徴的な金色の髪に水色の瞳。なかなかの美人だ。

 侍女頭に訊くと、グスナという名の下級貴族の娘だと特定できた。意外にも長く勤めている娘だという。マティマナは厨房の手伝いが多かったが、担当が違うから見掛けなかった、ということのようだ。

 

 無愛想だけど、良く働くらしい。

 ディアートやバザックスの担当だったこともある。荒れているふたりから追い出されたようだ。

 とはいえ、担当になったのは呪いの品が仕掛けられた後らしい。

 

 

 

「あら? ……呪いの品が、仕掛けられたみたい」

 

 マティマナの撒いた魔法の上に、誰かが呪いの品を置いたようだ。マティマナの意識のなかの地図に、しるしがついたように視えている。

 呪いの品を仕掛けた者にも、印がついたはず。

 

「ルーさま、呪いの品、仕掛けられました」

 

 ルードランは食堂にいたので直ぐに見つけられた。

 

「場所、わかるかな?」

「はい。それと、仕掛けた誰かには印がついたはず。近づけばわかります」

 

 場所は大胆にもライセルの主城で、しかし家令や執事などが出入りする資料室だ。マティマナも単独では入れなかったので、ルードランに連れられて入り魔法を撒いた場所だった。

 

「資料室か。ヘンな場所に仕掛けるね。汚れだしたら直ぐに気づかれる」

 

 ルードランは呆れたように呟く。

 連れだって入ると、呪いの嫌な気配が感じられた。

 

「入ることが許可されているかた以外でも、出入り可能ですか?」

 

 無断で入ることなどマティマナには考えられないが、だからこそ仕掛けやすい場所なのかもしれない。

 

「鍵は掛けていないからね。頼まれて使用人が資料を探しに入ることもある」

 

 マティマナは頷いた。見つかればとがめられるだろうが、要は誰でも入ろうと思えば入れるのだ。

 探し物用の魔法が乱れている。乱れを視線で追えば、異様に魔法が反応している箇所は直ぐにわかった。

 

「魔法を撒いておいて良かったです。棚と棚の隙間に呪いの品、ありますね」

 

 周囲の魔法が乱れているから、呪いの品を置いた者に、相当量の魔法が付着したはずだ。衣服越しでも肌に付く。洗っても一定期間落ちないと思う。とはいえ魔法の付着に本人は気づかない。

 マティマナは魔法の布を手にし、棚と棚の間へと腕を挿し入れ布越しに品を掴んだ。

 

「取れました!」

 

 手早く腕を引き、魔法の布で呪いの掛かった品を包み込んだ。やはり最初から埃まみれにされている。

 部屋に漂っていた嫌な気配は消えた。

 マティマナは、魔法の乱れている箇所へと何度か魔法をまいて清める。

 

「置いた者を、まず見つけ出そうか」

 

 魔法の布に包んだ呪いの品を受け取りながら、ルードランは呟いた。

 

 

 

 魔法のしるしが付いている者を捜すのは、視認だ。

 遭遇すれば分かる。

 なので、ルードランと共に、使用人の多い場所を捜すような感じで歩くことになった。

 

「見つけても声を出さないようにね」

「はい。通り過ぎてしばらくしてから、ルーさまに伝えます」

 

 不自然にならないように、ルードランと並んでどこかに向かっているような雰囲気で歩いた。

 グスナが怪しいと睨んでいたのだが、彼女には魔法の付着は無い。

 あら? 疑ったりして悪いことしちゃったわ。

 マティマナはコッソリ心で呟いた。

 呪いの小物を仕掛けたのは、別の者のようだ。

 

 あ! いた!

 マティマナは心で叫んだ。少し上等な侍女服の裾が、乱れて飛んだマティマナの魔法(まみ)れになっている。

 

 それこそマティマナは初めて見た娘だった。

 茶の髪に茶の瞳。可愛らしい顔立ち。侍女服も違うし、厨房には余り出入りしない、もっと極秘の用事もこなすような役割の侍女かもしれない。

 

「ルーさま、今すれ違った侍女です」

 

 廊下の角を曲がってから、極潜めた声で囁いた。

 

「ニケアかな? 茶の髪の。主城で当主の用事も頼まれる立場の侍女だよ」

 

 二年以上は働いているね、と、言葉が足された。

 それとなく引き返し、ふたりで再度確認し、魔法が付着しているのはニケアだと確定した。マティマナは少し離れたところから、ニケアへとコッソリ魔法を掛ける。本人は全く気づかないし、他の者も気づかないはず。

 

「何の魔法なんだろう?」

 

 ボソッと訊いてくるルードランの言葉に、マティマナはギョっとする。

 そうだ、ルーさまには、わたしの魔法がわかるんだった……。

 

「探し物の魔法の続きです。たいてい物をなくした人は、無意識の行動のどこかで落としてますから移動の軌跡をたどるんです。本人も忘れていたような場所に落としてますから。ただ、何か役に立つかは謎ですよ?」

 

 ルードランに話したように、マティマナがニケアに掛けたのは探し物をするときの魔法だ。髪に付けた。

 無意識の行動の軌跡を追うのが目的ではあるが、魔法を撒き忘れている場所に呪いの品を仕掛けられても分かるかもしれない。品の遣り取りも分かる。要はあらゆる方向から探し物をする魔法なのだ。ニケアの自室に呪いの品があるなら、それも判明するかもしれないが踏み込むことはできない。

 

 ただ、複数の者が関わっている場合は厄介だ。

 

「軌跡が追えるなら、接触の痕跡も得られるかもしれないね」

 

 ルードランは頷きながら呟いた。

 

「あ、そうですね。うまくすればですけど、接触の情報も得られるかも」

 

 何より後をつけていれば気づかれるが、この魔法なら、その心配はない。

 

「家令に、最近ニケアが対応した来客がいないか調べさせてみるよ」

 

 法師のところへと呪いの品を届けに行きがてら、ルードランは家令に話をしに行くのだろう。

 

「わたしは、まだ魔法を撒いていない場所を回ってきますね」

 

 呪いの品を仕掛けた者は特定できたし、今後の行動はある程度追える。

 ニケアを問い詰めたところで、黒幕のことは知らない可能性も高い。それよりは、接触したものを確認したり、今後の接触を待つほうが確実だ。

 

 

 マティマナは花嫁修業としてディアートから王宮仕込みの作法を習いつつ、空き時間にはルードランと連動して魔法を撒く生活になっていた。

 雑用魔法は使えば使うほど種類を増しているように感じられる。こんなに盛大に魔法を使うことは今までなかったから分からなかった。お陰で魔法は日々磨かれている。

 

 魔法を撒いていない場所を探し、時間切れで消滅した場所にも新たに魔法を撒いた。

 なので実家に帰宅もせず、ずっとライセル家に連泊中だ。

 物騒な事件の渦中に巻き込まれてしまったが、ルードランと過ごせるのは愉しい。もっともっと話がしたい。

 

 正式な婚約者となり、婚儀の準備なども着々と進んでいる。とはいえライセル家で長い時間を過ごしているのに、まだ夢のなかにいるような気分は続いていた。

 

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 嫁に出す事になったが、婚家に行って帰ってこない婚約中の娘に父親はなんとか話しかけたいよね(笑) まぁ、帰ってこないけど(笑)
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