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神出鬼没の死霊と、魔石たちの進化

 法師の部屋へと、ルードランとマティマナは刻が許す限り入り浸っている。収集した品から呪いを吸い上げ、聖なる成分へと変換し、聖域に溜めた。

 入り浸っているお陰で、法師には今までの事情をスッカリ話すことができた。

 

 もの凄い量の聖なる成分が魔道具からマティマナのなかを流れ、繋いだ手からルードランの身につけた聖域へと入って行く。

 

「かなりの量を吸収しているはずなのに、呪い、余り減りませんね?」

 

 一気に減ってしまうより長持ちしてくれるほうが、聖なる成分を溜めるには良いのだが。分かっていても、呪いの残存は嫌な感覚だ。

 

「いえ、かなり呪いは薄くなり始めています。強烈な浄化作用です!」

「余り早く呪いが消えてしまって、聖なる成分が足りないのも困る」

 

 法師の言葉を聞きながら、やはりルードランも同じことを考えていたようで、悩ましげに呟く。察するに、聖域には、それほど貯まっていないのだろう。

 

 

 

「また、死霊が都に現れだしたぞ。何体かずつ組みになっている」

 

 マティマナとルードランが工房へ戻ってくると、バザックスが待っていて深刻そうに告げた。ギノバマリサも一緒にきている。

 

「何をしに出てきたのでしょう?」

 

 マティマナは事態が更にややこしくなっていると感じながら訊く。

 

「教祖たちとやっていることは変わらんようだ。いや、もっとタチが悪い。指輪を付けていないものを一瞬で拐っている」

「戦闘にはならないのかい?」

「自警団のいるところは避けているようだ。戦闘は仕掛けずに指輪のないものを捕まえて転移している」

 

 再び都を彷徨(うつ)きだした死霊は、貝殻草の指輪をつけていないと即座に判断できるのだろう。見つけると一瞬で転移して拐う。

 

「死霊が闊歩する都だなんて、最悪よ」

 

 マティマナは寒気を感じながら呟く。死霊も、人質を増やすために動員されているようだ。人質という名の、魔気の補給対象であり死霊候補だ。

 

「指輪が効果的で良かった。安全のためにも、周知させよう」

 

 ルードランは貝殻草の指輪が有効であることには、少し安堵している。

 

「死霊の種類も多い」

 

 バザックスは溜息交じりだ。

 

「人型ばかりではないのですね?」

 

 マティマナの言葉にバザックスは頷く。

 映像で視たシェルモギは、さまざまな死骸を漁っていた。死霊としての種類もどんどん増えるのだろう。死霊蟲も、激突しただけで転移させる力を持っていたし、その力を、すべての死霊に与えているはずだ。小さな死霊蟲でも転移させられるとなると気づくことも難しい。

 

「死霊を倒して、死骸はマリサに回収してもらいたいのだが、骨や遺体の置き場はあるか?」

 

 バザックスはとても具体的な提案というか質問をしてきた。回収しても不浄と認識される死骸や遺体はライセル城の敷地には入れない。基本的には、浄化するなら火葬する必要がある。葬儀関係を一手に引き受けるグノーフ教との連携を求めねばならなそうだ。

 

「バズさまが倒しても、他の死霊が運んで持ち去ってしまうの。それでは、また死霊として甦ってしまうから」

 

 ギノバマリサが手にした転移関係の力を持つ、翠竜の魔石も進化したのだろう。遠くの品を転移させることができるらしい。

 

「マリサには、骨、視えるの?」

 

 バザックスは空鏡の魔石で景色を視ることが可能だろうが、ギノバマリサには視えないと思う。どうやって死霊の残骸を転移させるのだろう?

 

「微妙なんです。何か方法があると良いのですが」

 

 微妙ということは、わかることもあるに違いない。

 

『こんなのは、どうでしょう?』

 

 不意に、ディアートの声がどこからか響いてきた。ディアートの声が聴こえたであろう者たちには、続けて妖精の羽音が聴こえたようだ。

 マティマナは不思議な空間に招かれ、それを知った。といっても、身体が移動したわけではない。

 

「ああ! ここは?」

 

 マティマナは周囲を見回しながら訊いた。半透明な妖精が舞い踊る綺麗な空間が、今いる場所に重なっているような感じ。その空間にいるのは、姿は視えないがマティマナだけではないようだ。

 

「ああ、やっと皆さんを招くことできました! 喋翅の魔石の空間です」

 

 ディアートの弾んだ声。極間近で話をしている感覚だ。

 

「これで、離れていても空間内で会話できます。視覚を共有させるのも可能よ?」

 

 不要なときも入ったままにしても気にはならないはず、と、ディアートから言葉が足されている。

 

「これは凄いね! 今誰が居るのかも分かる」

 

 ルードランが感心したような声をあげた。 

 続いて法師も入ってきたと空間感覚で分かった。これなら、離れた場所にいても会議可能だ。

 

「ええ。私が招待しないと入れませんから、イハナ城の者たちには分からないはずね」

 

 ディアートの笑みを含む声音が囁く。

 

「ああ、すごいです! ディアートさま、招待ありがとうございます!」

 

 リジャンの声だ。たぶん、今は実家にいるはず。

 

「あっ! リジャンさまの声、聞こえてます!」

 

 メリッサが嬉しそうな声をたてた。

 

「基本的に、声をだしたほうが確実だけど、意識するだけで言葉の共有も可能よ。だから、意識して共有させないこともできるわね」

 

 各の内緒話は、皆に知らせないことも選択できるようで、なかなかキメ細かい。

 ディアートは進化した魔石の空間に皆を招待し、使い勝手を知ってもらいたいようだ。

 

「すごい! では、この光景を視せることができるのか?」

 

 バザックスは、空鏡の魔石で上空から死霊を探す映像を皆に視せはじめた。

 上空を舞うような感覚で、地上を見下ろしている。ルルジェのどの辺りなのかも、だいたい分かる。

 

「視えます! これなら確実に転移させられそうよ! 後は、骨の置き場ね」

 

 ギノバマリサが弾んだ声をたてた。皆、鮮明にバザックスと同じ視界を共有している状態だ。

 骨に関しては慎重に転移先を選ぶ必要がある。ライセル城に不浄を置くわけにはいかないが、一時置きする場所を間違えれば死霊たちが奪いにくるだろう。

 

「場所の手配してみましょう。しばらくお待ちください」

 

 法師が告げた。

 ディアートの空間を通じ、皆が、それぞれに必要な会話をしている。

 皆がどこで何をしていても、関係なく話し合いができる。イハナ城へと分解に向かう際も、皆の配置や采配が可能だろう。

 

 これなら、リジャンやメリッサを護衛に、ルードランとマティマナはイハナ城の分解に取り掛かれそうだ。

 ただ、その前に済ませる必要のある事柄が色々あった。

 

「あら。進化したみたい。皆さん、好きなときに妖精の空間に出入りできるように、設定しておきますね!」

 

 ディアートの驚いたような声が響いてきた。

 皆を招待し、それぞれの交流が盛んになることで、ディアートの喋翅の魔石が進化したのだろう。

 ディアートの声の後で、妖精の羽めいた光が飛んできた。ふわりと、皆の手の甲へと吸収されて行く。ディアートの空間に入っているときは、手の甲で羽が光るようだ。

 

「緊急時に必要な方が空間にいなければ、私が強制的に招きます!」

 

 ディアートは、ライセル城の護りを務めながら、皆に遠隔での会話の場を提供してくれる。

 その上で、必要であればディアートの知恵も借りることが可能だ。

 

「ディアートさま、素晴らしいです! 喋翅の魔石、こんな凄まじい魔法が使えるのですね」

 

 マティマナは感動の声をディアートへと届ける。

 良く分からない効果の魔石だったのに、ディアートが惹かれて進化させてくれて本当に良かった。マティマナはしみじみと僥倖を感じていた。

 

 


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