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さまざまな魔石

「気になる……というか、惹かれる品があるのなら、手にとって話をしてみると良いと思うの」

 

 マティマナは、リジャンが魔石として持ってきた品々をキレイにし終えると、皆に向けて告げた。

 リジャンはこくこく頷く。

 

「それでしたら、私、このかたと、お話してみたい」

 

 ギノバマリサは、そう囁くと、気になっていたらしき魔石へと手を伸ばす。神獣の竜らしきが繊細に彫刻された握りやすそうに丸みを帯びた深緑の石。

 

「あっ!」

 

 ちゃんと魔石だったのだろう。ギノバマリサは話し掛けられ、対応しているような表情だ。

 

「翠竜の魔石ですって。少しだけ進化してくれたの。きっと、もっと進化すれば希望どおりの転移ができそうよ!」

 

 ギノバマリサは緊急用の宝石魔法で転移を使っていたし、転移系の魔石なのなら進化するのだろう。

 

「あら、でも、転移の魔石という名ではないのね?」

 

 不思議に思ってマティマナは訊く。

 

「そうなの! 翠竜の力で転移だけじゃなくて、他の魔法も使えるみたいね」

 

 ギノバマリサはウキウキとした表情で、これを頂いても良いかしら? と、リジャンへと問いを向けた。

 リジャンは嬉しそうに、もちろんです! と、早々に持ち主が決まって喜んだ表情だ。

 

「いいわね! 使い切りじゃないの、最高よ!」

 

 大きな魔法を使うたびに宝石を失うギノバマリサとしてみれば、画期的らしい。

 とはいえ宝石魔法が必要な場面はあるだろう。

 

「進化の過程を、ぜひ教えてくれ」

 

 バザックスは、興味深そうにギノバマリサへと頼んでいる。

 

「もちろんです! バズさま! バズさまのお手伝い、たくさんできそうです」

 

 弾む声のギノバマリサに、バザックスは嬉しそうな表情だ。

 

「メリッサも選んで?」

 

 リジャンは控え目にしているメリッサを促す。

 

「あ、ありがとうございます! じゃ、じゃあ、わたしは……これ、かな?」

「選び直しても大丈夫だからね?」

 

 リジャンの言葉に頷きながら、気になっていたらしき葡萄柄の装飾が美しい魔石を手にする。

 銀細工めいて平たいような丸みのある楕円形。葡萄の実の部分は紫の宝石が埋められた感じだ。小さな鎖を通すための輪もついているので、ペンダントにできそうだった。

 

「あっ! 話し掛けてきました!」

 

 と、突然、メリッサは歌いだした。歌いながら自分で吃驚(びっくり)した表情だが止まらないらしく、真っ赤になりながら歌い続けている。とても、キレイな旋律で、声も可愛く素晴らしい。葡萄のことを歌っているのだが、とても癒やされる感じがした。

 

「メリッサ凄いよ! 歌が歌えたんだね! すごい歌声だった!」

「あっ、わたしが歌っているのではなくて、魔石が歌ってました! 葡萄歌の魔石ですって」

 

 集まっている者たちが皆拍手する中で、真っ赤になったままメリッサは魔石の話をしている。なんだか、色々な歌があるみたいです、と、興味深げだ。

 

「それは、進化が楽しみだね」

 

 拍手を送っていたルードランは、メリッサに良く合っている気がするよ、と言葉を足した。

 

「色々な魔石があるのね。首にかけるなら、これ使ってみて?」

 

 品を纏めて縛るための紐は、銀糸の紐や、ちょっとした銀鎖のような風合いのものも造れるようになっている。留め具も自然にできていた。

 マティマナが差し出した銀鎖はメリッサの魔石の輪に自動で通り、首に掛けられる状態になっている。

 

「マティさま、ありがとうございます! この鎖も、とてもステキです!」

 

 宜しいのですか? と、心配そうにしながらも嬉しさあふれる表情だった。

 

 

 

 残りの魔石は、工房に置いて興味のある者に見てもらうことになった。二個目、三個目と、増やしても良いと思うよ、と、ルードランは皆に伝えている。

 マティマナは、リジャンが持ってきていた他の骨董品もキレイに汚れを落とし、磨き上げた。

 

「これ、何かしら?」

 

 マティマナは気になる品を取り上げて訊いた。銀細工の手鏡のような形をしているが、どちらの面も繊細な彫刻が施され、鏡面がない。

 全体としての形も優雅で、とても心惹かれてしまう。

 片面は美しい天上の光景のような目映(まばゆ)い印象で、反対側は蔦と神獣と昆虫が絡みあったような図柄だ。

 

「不思議な雰囲気で、なんだか呼ばれたので。姉上の役に立ちそうな気がしました」

 

 魔石とは別に、雅狼の眼で見つけたらしい。

 

「これ、何か魔法的な効能ってありますでしょうか?」

 

 マティマナは手鏡に似た銀細工を手にし、鑑定士へと歩みより訊いてみた。

 

「変わった品ですなぁ。おおっ、ですが、これは魔道具のたぐいです」

「魔道具ですか? どのような?」

「聖なる成分を邪の穢れた成分に変えたり、穢れや呪いを聖なる成分に変えたり。表裏で使い分けるようです」

「えっ? 成分を変えるとき、この品を使って魔法を掛ける、ということですか?」

「魔気量の多い者にしか使えませんが、マティマナ様でしたら楽勝で使えるでしょう。神獣の面を向ければ、意図した対象から穢れた力や呪いを吸い取ります。反対側に抜けるときには、聖なる力に変換されていますね」

 

 ええっ! それって、逆は、シェルモギがしていることなのでは?

 マティマナは声にはしなかったが、確信していた。

 

 でも、これなら邪なり穢れなり呪いを吸い取って、聖なる成分に変換できる!

 変換された聖なる成分は、魔法の杖に溜め込んで行けると思う。

 

「ああっ、そんな品が敵方の手に回らなくって良かった……っ! 見つけてくれて、ありがとう、リジャン!」

 

 魔石や骨董品のたぐいは、皆でゆっくりと検討することになった。しばらくそのまま卓の上に置いておく。

 噂を聞き、ディアートも工房へと魔石を見に来てくれた。

 

「あら、これ、とても綺麗で素敵よ!」

 

 並んでいる魔石のなかから、即座にひとつ手にしている。それは、トンボに似た羽根をもつ沢山の妖精たちが繊細に刻まれた魔石だ。淡く白いが虹色のきらめきを内包している。

 

「喋翅の魔石? なんだか不思議な感覚ね?」

 

 ディアートはしきりに首を傾げ、良く分からなそうな表情をしている。

 

「何ができる魔石なのですか?」

「それが、よく分からないの。会話に関する何か、らしいのだけど……」

「キレイな魔石ですよね」

「ええ。とても好いわね。これ、試させてもらっても良いかしら?」

 

 良く分からないままに、とても惹かれた様子でディアートは深い笑みを浮かべている。

 

「もちろんです! ディアートさまのために、きっとここに来たのだと思います!」

 

 魔石は縁が働いていると、マティマナは感じていた。マティマナは、耳縁飾りからの魔法があるから魔石は不要だと思っている。魔石のように語りかけてはこないが、魔石のようにどんどん進化している。雑用魔法の可能性がマティマナはとても楽しみだった。

 

 


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