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雅狼の眼

 貝殻草の指輪は、ルルジェ内の領主によっては買い取って領民へと配ったりしてくれていた。ほとんどの者に行き渡ったらしくマティマナは、その点にはホッとしている。

 貝殻草の指輪を一手に扱っている雑貨屋ナギには、今でも大量買い付けが来るのだそうだ。

 都の外にも、販路ができたらしい。

 

「姉上、メリッサ、こんにちは!」

 

 大荷物を抱えたリジャンが、マティマナの工房へと入ってきた。

 

「あら、すごい荷物ね。買い物帰り?」

 

 マティマナは吃驚(びっくり)した表情でリジャンを眺めて訊いた。

 

「あ、お手伝いいたします」

 

 メリッサは即座に歩み寄り、荷物運びを手伝おうとしている。

 

雅狼(がろう)の魔石が進化したので、また骨董市に出かけてみたのですが……」

 

 リジャンはメリッサに手伝ってもらいながら、空いている広い卓へと次々に骨董品らしきを並べている。

 

「随分たくさん買ったのね」

 

 マティマナは興味を惹かれて歩み寄って行く。どれも薄汚れているが、色々な品があった。ただ、不定形な形の置物らしき小物というか石が多い。

 石のようなものと分けて置かれているのは、宝石箱のたぐいや、装飾品、花瓶などといった品々だ。

 花束も買ってきている。

 

「雅狼の眼が教えてくれたから、この辺りは多分、全部、魔石だと思うのです」

 

 雅狼の力に関してはカケラの疑いもないようだが、何気にリジャンは自信なさげだ。

 

「雅狼ちゃんの眼を、貸して貰えるのですか?」

 

 メリッサは、だいぶわくわくした表情だ。リジャンは頷く。雰囲気からして雅狼を放ってその眼で見たものを知るのではなく、魔石としての効果でリジャンの眼に雅狼が宿る感じなのだろう。骨董市に雅狼を放ったら、だいぶ不審に違いない。

 

「汚れのせいか、資格が必要なのか、みんな眠っているみたいで、ボクでは反応がないのです」

 

 魔石であれば、ある程度の魔気を持っていれば話掛けてくるはず。リジャンは雅狼の魔石を使えるくらいだから、魔気量は充分だろう。それで反応がない、というなら汚れのせいである可能性は高い。

 

「こんなに沢山、すごいわね! 反応ないのは汚れのせいかしら? 前みたいに、綺麗にしてみましょうか?」

 

 マティマナがリジャンに訊くと、パッと表情を輝かせた。それが目的で持ってきたのだろう。

 

「ぜひ。多分、姉上の魔法で、みんな甦るのではないかと」

 

 できれば、魔石以外の骨董品も綺麗にしてほしいです、と、ちゃっかり言葉が足された。マティマナは今まで弟に頼られたことなどなかったので、何だかとても嬉しい気分になっている。

 

「良いわよ。楽しそうだもの」

 

 マティマナは笑みを深めて請け負った。

 

「メリッサにも、魔法を持たせてあげたくて」

 

 リジャンは更に言葉を足す。

 

「まあ、リジャンさま。わたしのことまで気づかってくださって嬉しいです」

 

 確かにメリッサは、自動的に働く魔法だけでなく使える魔法もほしそうだった。

 護りの魔法は効いているからマティマナ的には安心だが、メリッサも何か使える魔法があったら良いだろうな、とは思う。

 

「じゃあ、端からいきましょう」

 

 マティマナは、ひとつずつ丁寧に、汚れを取る雑用魔法、綺麗に磨く雑用魔法と、順番に掛けて行く。

 きらきらと魔法が石に集中すると、こびりついていた経年の汚れが消えて本来の色彩を取り戻す。更に磨かれ、光輝くような品となった。どれも、意匠を示すような繊細な彫刻が浮かび上がってきている。

 

「まあ、なんてキレイなんでしょう!」

 

 メリッサは、品々と魔法とに視線が釘付けのようだ。

 

「マティマナの魔法の気配が強いと思ったら。何だか面白そうなことになっているね」

 

 ルードランは工房へと入ってくると、皆の集まっている卓へと寄ってきた。

 

「あ、お騒がせして申し訳ありません!」

「ルーさま、リジャンが魔石らしいものを、たくさん見つけたみたいなの。雅狼ちゃんの眼が教えてくれたのですって」

 

 マティマナは、カチコチになっているリジャンに代わって説明した。

 

「マティマナが磨いたのかい?」

 

 綺麗になっている石と、薄汚れたままのものがあるので丸わかりだろう。マティマナが骨董品を綺麗にするのは、ルードランも以前に見ている。

 

「はい。魔石らしいのに、反応がないのですって。まずは汚れを落としてみようかと」

「何か良い効果の魔石があると良いね」

 

 ルードランは笑みを深め、リジャンへも笑顔をむけた。

 

「バズが、マティお義姉(ねえ)さまの工房が面白そうだと言うから」

 

 ギノバマリサの声が響き、バザックスと一緒に工房に入ってきた。

 

「済まない。ちょっと覗かせてもらった」

 

 バザックスは、空鏡の魔石で状況を知ったようだ。

 

「賑やかで嬉しいです!」

 

 続きも急ぐわね、と、声を足しながらマティマナは雑用魔法を振りかけて行く。当初、ルードランにしか視えていなかった雑用魔法は、親しくしている者たちには視えるようになってきているようだ。

 

「私、転移の魔法がほしいの」

 

 魔石の効果はバザックスを見て知っているし、色々な噂も聞いているのだろう。駆けつけてきたギノバマリサは切実そうに呟いている。

 

 リジャンの持ってきた魔石のなかに、希望のものがあると良いわね。

 マティマナは思案しながら石を次々に磨いて行った。

 

「皆さんに使ってもらえると嬉しいです」

 

 リジャンは嬉しそうに皆へと伝える。

 

「僕が買い取るから、みな、必要なものを選ぶといいよ」

 

 ルードランが申し出るが、リジャンは激しく首を横に振っていた。

 

「いえいえ、贈ります! 差し入れみたいなものですから!」

 

 何やら譲り合っている。マティマナは微笑ましく見守りながら魔法をかけ続け、それぞれの石は特殊な輝きを放つようになっていた。

 

「リジャンは、他の魔石、要らないの?」

 

 リジャンが皆に差し入れのつもりらしいので、一応、確認のために訊く。

 

「ボクは、雅狼で手一杯です! 雅狼は魔石を探せますし、他にも探すのが得意みたいです。嗅覚が凄そうなんです」

 

 まあ、あまり浮気しないほうがいいのかな?

 マティマナは頷き、綺麗にした魔石を眺めた。

 

「そうそう。マリサは、『翼飾』も使ってみてね。ルーさまもお勧めよ」

 

 小さな白い羽根の飾りなのだが、棚から持ち出してギノバマリサに手渡した。

 

「あら嬉しい! 背中に付けるのでしたね?」

「では、私が付けよう」

 

 バザックスは受け取った『翼飾』を、ギノバマリサの背に付ける。小さな羽根はギノバマリサの背に付けられると、ばさりと大きな白い翼となった。自在に動かせるようだ。ふわりと、ギノバマリサの身体が浮く。

 

「すごく綺麗! まぁ、綺麗な翼ね! 天使みたい」

 

 マティマナは見事なつばさに瞠目しながら声を上げた。

 

「かなり高くまで舞い上がれそう! 今度、外で試してみます」

 

 ギノバマリサは少し浮かんだ後で、翼を元に戻した。その辺りも簡単そうだ。背に小さな羽根をつけたままだが、衣装の飾りのようで良い感じだった。

 

 


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