藤原純友は林田湊を攻略したい
藤原純友は京へ攻め上る準備を進めていた。ところが、大変な知らせが入る。
「大変です。東国で平将門が討ち取られました」
朝廷が東国の反乱鎮圧にエネルギーを注いでいることを前提としての京の攻撃であった。朝廷が全精力を純友の反乱鎮圧に向けたならば厳しくなる。
「くそぉっ!」
純友は歯ぎしりして悔しがった。
「これからはどうするつもりだ? 何か考えはあるのか?」
「俺は朝廷に従うつもりはないぞ!」
「兄貴、そんなことを言っている場合じゃないぜ!このままだと俺たちは殺されるんだぜ」
「わかっているよ。だがなあ……」
純友は渋った。
「俺だって死にたくないんだよ。でも、この船に乗っている奴らを見殺しにするわけにもいかないだろう」
「それはそうだが……」
「それに、ここで逃げたとしても、いずれ捕まって処刑されるだけだ。だったら海賊として暴れた方がマシじゃないか」
「お前まで死ぬことはないんじゃないか」
「ここまで来た以上、最後まで付き合うさ。あんたが嫌だというなら、一人で逃げるけどな」
「……わかった。一緒に行こう」
純友は方針を転換し、瀬戸内海でゲリラ的に海賊行為を行うことにした。純友は最新式の船を建造していた。帆を張ることで風を受けて進むことができる。また、漕ぐこともできる。そのため、機動力が高まった。
純友の攻撃目標は讃岐国の林田湊であった。讃岐国府が租税として国中から搾取した財物が京に送られるために林田湊に集められていた。
「まずは林田湊を攻めてみるのはどうでしょうか?」
「林田湊か……よし、行ってみるか」
純友は林田湊攻略に向けて動き出した。純友は八月に四〇〇艘の船で出撃して林田湊を攻撃した。弓矢を持った男達が次々と姿を現した。
「準備完了です」
「よし。では、始めようか」
すぐに弓を構えた男達は矢を放ち始めた。放たれた無数の矢は、暗闇の中へと消えていった。林田郷の田令は自宅で寛いでいた。そこへ突然、大勢の人間が押し寄せてきた。彼らは口々に叫んだ。
「田令殿、大変です。火事です。早く避難しなければなりません」
「何だって?」
「急いで外へ出るのです」
「どうして急に火事になったのだ?」
「わかりません。とにかく、外に出ましょう」
「わかった。案内してくれ」
田令は慌てて部屋を出た。しかし、外に出る前に、あることに気づいた。
「あれっ?」
よく見ると、目の前には大勢の人々がいた。しかも、みんな武装しているではないか。
「何事ですか?」
田令が尋ねると、一人の男が答えた。
「林田湊は藤原純友軍に占領されました」
「えーっ!?」
田令は仰天した。
「大人しく捕まっていただきます」
「そんな馬鹿な……」
田令は抵抗したが、多勢に無勢だった。あっという間に捕らえられてしまった。林田湊は純友に占領された。
「これで一安心だ」
純友は喜んだ。
「林田郷を制圧したことで、瀬戸内海から讃岐国府に入る道が開けたことになる」
「そうですね」
部下の一人が言った。
「しかし、油断はできないぞ。国司の手下達が反撃してくるかもしれない」
「その時は返り討ちにすればいいでしょう」
「その通りだ」
純友軍は林田湊を拠点として活動を開始した。