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ニーベルングの街とクエスト

『なるほど?通話を勝手に切ったジークくんは【世界最速】なんて称号を手に入れて、確実に動画が伸びるであろう要素を全部投げ捨てたのを朝の4時になって報告してくれたんですね?』


「傷を抉らないでくれディナ…!」


 ようやく街、それも初発見の街にたどり着いてセーブ・リスポーンポイント設定を果たしてAVO(アヴァロ・オンライン)から解き放たれた俺にその一言は無いだろう、涙ちょちょぎれるぞ。


 クソ、俺に非が九割無ければ煽りを入れてやった所だが、ここは鉾を収めてやろう。



『…まぁ、流石に煽りすぎたので謝りますが…それにしても、大丈夫ですか?録画を忘れるくらいには疲れていたんですから、今からでも寝ておいた方がいいと思いますよ』


「まぁ流石にこれから寝るな。

明日も特に予定は無いし…というか、ディナの方が問題じゃないか?会社があるって言ってただろう?」


 メガネをかけ直したような音と共に、今度は真面目にこちらを心配してきた。彼女も深夜テンションかなんかなのだろうか。

 そんな彼女に俺は問うが、どうやら今は海外出張で時間の差があるそうだが…それにしてもじゃない?

 君日本時間の昼にも起きてたよね?



「まぁ、何やってるのかは知らんが頑張れよ。俺は寝る」


『はいはい、二人への報告は私の方からしておきますね』


 俺たちはゲーム仲間。

 それ以上でも以下でもなく、無駄に私生活への干渉もしないと言うのが決め事だ。


 なので、俺はディナやタケル、アサヒの仕事を知らない。住所とかもあんまり知らない。

 別にそれで成立するのは、現代の法や様々な技術の発展のおかげだろう。


 さて、俺は寝てからまたAVOに戻るとしよう。


▽▽▽▽


 再びログインしてから、流石に見た目がアウトな事を思い出して服屋に行ったのだが────



「…この服、本当に貰っていいんですか?」

「えぇ、当然よ。貴方はあの神殿を、あの大蛇から解き放ってくれた…そのお礼なのだから、気にしなくて良いわ」


 服屋の店主NPCは、俺に最高級の洋服(穴が空いても直るらしい)を渡しながらそう微笑みながら言う。


 俺はそれに愛想笑いで返すが…こんなに貰ってしまうと、後で何があっても文句が言えないな…

 昨日の宿屋だって「神殿を救ってくれたあなたからお金を貰う訳には!」と、数日分予約入れたのにタダにしてくれたし…


 服に袖を通しながら、俺はどうしようかと思考を巡らせる。


 正直、ここを拠点に動くというのはアリだ。

 今後も全額無料、とは行かずとも割引とかは永続でしてくれるだろう。

 そんな特典をあえて見逃し、別の街へ出かけるというのはナンセンスとしか言いうほか無い。


 とはいえ、まだ武器装備も揃っていないのにここへとどまるというのもまたナンセンスだ。

 …あぁ、そういえば昨日の蛇のドロップとか確認してなかったな。確認しとこ。


 服の動きやすさを確認しつつ、タブを操作してドロップ品を確認した。


▽▽▽▽


・魔眼大蛇の皮衣

説明:魔眼を持つ大蛇の皮から作られたロングジャケット。非常に頑強。

効果:VIT+15% HP+10% MP+10% MP持続回復(+10m/s) 重複装備可能

固有技能(スキル):【魔眼(静止)】

視認した相手を一瞬静止させる(クールタイム・5分)


▽▽▽▽


 効果はかなりいいな。

 ステータス上昇の効果量は攻略サイトなどに記載されているドロップ装備の平均と変わらないが、MP持続回復という効果だけでお礼が付く。

 魔法技能(スキル)をつかってもMPは減るからな、死に効果になることは無いだろう。


 しかし、それよりも気になるのは重複装備可能という効果と固有技能(スキル)だ。


 重複装備可能というのは表記からまぁ察しが付く。

 さっき貰ったこの服は装備ではなく装飾という非武装の判定である為、上に鎧やローブを纏う事が出来るが、通常の装備を纏っている時…


 例えば、ローブのような別途で中に装備を付ける事が出来そうな装備に、追加で鎧を装備しようすると、磁力が発生したかのように弾け飛んでしまう。

 発想の問題で複数の装備をしない人が生まれると問題だからな。仕方ない処理と言える。


 しかし、おそらくこのジャケットの場合は…



「…お、本当に装備出来る」


 服屋の人に「なんか鎧ある?」と聞いたら持ってきてくれた鎧を仕舞い、装備欄にそれを上書き装備をしようとすると、なんと鎧がジャケットと融合して装備された。


 おお、すごい!

 ジャケットに装甲が追加された感じだから、さして動きやすさも変わらない…まぁ、そもそもジャケットが微妙に硬くて微妙に動きづらいんだが。


 とはいえ純粋に装備2つ分の効果があるので、装備の厳選をすれば現在のゲーム内における最高値が叩き出せる筈だ。

 おお、なんだか楽しくなってきたな!



「よし、こうなったら近くのボスモンスターの情報でも───」


───って、そうだった…ここ俺だけじゃなくて、攻略組とかも未発見の土地だった…

 と言う事は、俺が自力で探さなきゃいけない…ってコト!?


▽▽▽▽



「はぁ〜〜〜〜」


 鎧を返却したあと、俺は街中央の広場で寝転がりな、ため息を吐いた。


 正直な話すると、この見事に森に囲われた街に一回離れたあと戻ってこれる自信が無い。

 ので、あんまり街を離れたく無い。


 とはいえ、あと1ヶ月以内には開催されるであろうイベントで善戦する為には、そろそろレベル上げに赴かなければならないだろう。


 うーんうーんと唸りながら考える。

 …この広場いいな、暖かくてなんだか眠くなってきた。少しウトウトしてきた…



「うぁ〜ん!とらが居なくなっちゃったよ〜!」


 しかし直後、近くから聞こえてきた泣き喚く子供の声にすっかり眠気を失い、俺は即座にそこへ向かった。


 広場付近の道では、聞こえて来たとおりに少年が泣きわめいていて、発言から察するに何やらペットを探しているらしい。



「どうした?とらってのがどっか行ったのか?」

「あ、蛇を追い払ってくれた兄ちゃん…」


 俺が膝を曲げて視線を合わせながら問いかけると、少年は目元に溜まった涙を拭う。

 そして、未だ溢れ出る涙を抑え込みながら説明を口にしてくれた。



「うん…うちで飼ってるペットのとらが、散歩の途中でどっかに行っちゃったんだ…

僕が広場で寝ちゃったから…っ!」


 それだけ言うと、再び大声で泣き始めた。

 おーよしよしと撫でてみるが、泣き止むような様子は無い。


 弱ったなぁ…流石に放置出来るほど外道じゃないぞ…?

 えーどうしようか…いや、どうしようかじゃないか、やるしかないか。



「よし、わかった!俺がとら捕まえて戻ってくるからここで待ってろ!」

「えっ…ほ、本当…?」


 肩を掴みながら少年に言うと、少年は泣くのを止めて俺の顔を見つめる。

 このゲームのAIは高性能なので、きっとこの少年は本当に悲しんでいるのだろう。

 ならば、それを見て見ぬ振りをするなんて事、できるわけが無い。



「あぁ、本当だ!ちゃんと連れてくるからちょっと待ってろ!」

「あ、ありがとう…兄ちゃんっ!」


 少年が俺に抱きついてくる。

 そして────



『クエスト発生「とらを捕まえて」 難易度・中』


────ピコンという音を立てながら、視界にそのウィンドウが表示されたのだった。

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