決定とPK
「決めた、このまま攻略する」
「ほう…それでいいんだな?」
哀れな獅子のドロップを回収したのち2回モンスターと遭遇。
その後、どこでも見つかるなら取り敢えず進もうと半ば諦めの気持ちで壁画の刻まれた道を進んでいると、悩み顔だったロビンが決心したように呟いた。
俺が問い返すのは、最初と同じく撮れ高を気にした問題ゆえ。
時々しか全員で攻略などしないうちの所にも「全員一緒の動画見せろ」とコメントが来るのだ、多分彼等の所ならより多く来るだろう。
そんな環境で、メンバーが足りない上に部外者が二人混じった動画を上げるというのは中々に度胸がいる。
それを懸念しての質問だったが…
「いや、俺らいなくなっても二人で攻略するだろうアンタら」
「あ、バレてた?」
「そりゃあな…というか、むしろそっちを望んでる気がする」
呆れ顔のロビンに困り笑いのような顔をむけながら言う。あちゃ〜見透かされてたねぇ?まぁ隠す気も無かったが。
俺が今日潜る事にこだわったのは、話し合いの前にも言った通りカリナの実力がランレベルになったかを確認するテストをする為だ。
そもそも何故ランと同等を目指しているかといえば、彼もまた上級者のパワーレベリングを受けて強くなったプレイヤーな上にちゃんと強くいため。
教えると言った以上は同じ土台の強プレイヤーと渡り合える程度には強くしてやりたいからなぁ〜
それに、AVOで一緒に遊んで間近でその強さの度合いを見たしで強さを測るのにめちゃくちゃうってつけなのだ。感謝すらあるね。
なので、既にだいぶ強くなった彼女の実力を確認する為には難易度・異ダンジョンに二人で挑み、どの程度戦えるかを見て確認するのが考えた感じ一番楽だった。
まぁ彼等がいた事で強さ判断を見誤る事は無いが…完璧に整えた方がわかりやすいじゃん?
それに折角来たわけだし、理由なく帰るというのもなんじゃん?
だから…ね?うん、しゃーなしやな!ヨシッ!
「邪推はさておき、ロビンがそれでいいと判断するなら俺はそれでいいと思う。動画の反響については考えてるか?」
「邪推…はぁ、まぁいい。アンタが出てるってので宣伝効果的にも確定でプラスだろうよ」
「それはそうか…そうか?」
たしかに一時的に人は増えるかもだが、定着はしなさそうだなぁそれ。
本人がそれでいいってんなら俺は何も言わんが…おっと、モンスター来たな。
「とりあえず、参加するってんならちゃんと全員戦闘に参加してくれや」
「おう言われてるぞガス」
「アンタに役食われてるんだよ…」
ため息と共に剣と大盾を抜き構えるガス。
それに続いて俺とロビン、カリナも武器を構え、ディアは【泥溜】を詠唱した。
全員準備万端って感じだな。
そんなわけで、遂に確定した参加メンバー5人は同時に狒々型モンスターに襲いかかったのだった。
ちな一分せずに殺した。南無。
▽▽▽▽
「クソが、逃げられたっ!魔法技能でも使うたんか!?」
細かい紋様と壁画の刻まれた巨大神殿。
それに礼を向ける事もなく、和装を纏った男は怒りと共に蹴りを入れる。
「アンタやめなさいよタツ、バチ当たるでしょ」
「あぁ!?ゲームの中やぞ、んな事あるかぁ!」
そんな男…タツに対し、木の枝に座る少女は静かに苦言を呈した。
タツはそれにあり得ないと反論すると、彼女はため息によって己の艷やかな銀髪を揺らした。
「あるから言ってるんでしょ狂犬…というか、変なRPやめなさいよ。βの時は最も真っ当なPKしてたじゃない」
「人気が欲しいんじゃ…」
少女は呆れた目をタツに向ける。
「だったらPKやめればいいじゃない…
というか、スレのプレイヤーには好かれてるみたいだけどアレじゃダメなの?」
「アイツらは傍観しとるだけじゃ。アイツらに慕われてもなんも面白くないわ」
「アンタ面倒ね…っと」
より強い呆れ…というより軽蔑に近い視線を向ける少女は、見下ろすのが億劫となって枝から降りつつ、タツに対して画面共有によって画面を送った。
「…なんじゃこれ」
「さっきの戦闘中の動画。報告用に自動撮影で撮ってたの」
そして彼女が再生のボタンを押すと、そこには───
『ジークか!?…ぐ切って…から…で承認…くれ!』
映像に映らぬ画面先、誰かと会話する依頼対象『ハッピーフレンズ』のリーダー・ロビンの姿が映っていた。
「どんな技能使ったんだろう〜って調べて見たんだけど、詠唱じゃなくて誰かプレイヤーと通話してるみたいなのよね。それも自分から掛けてる。
戦闘中にわざわざ掛けるって事は、逃げるのに使った何かしらは相手の技って考えた方がいいかも。
とりあえず殺す相手が増えそうね〜」
「経験値多いのはいいけど、こうも仕事ばかりだと面倒だわぁ」と呟きつつ、少女は動画と報告を依頼主に送信する。
それに対し、タツはというと…
「ジークじゃて…?ジーク言うたんか、コイツは…ッ!」
「…なに、知り合い?」
明らかに私怨に満ちた呟きに対して、少女は訝げな声で訊ねた。
「イベントでワシを殺した野郎じゃ、有名人じゃけんど知らんのか?」
「知らないわよ、イベント見てないし。そもそも復帰したばっかりだし」
少女が答えると同時に別働隊メンバーから「リスポーンしたメンバーに逃げられた」と報告が届き、彼女は「はーめんど、先に帰るわね」と呟き森の中に消える。
一方タツは報告を一切意に介さず、画面先のロビンの画面先、ゲーム内のどこかにいる(一方的な)因縁の相手に思いを馳せていた。
「次のイベント…いや、ゲーム内で会ったら絶対に潰しちゃるけぇの…!!」
怨念に満ちた相貌。
恨みに濡れた眼光がジークを捉える時は、着々と近づいていた。
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