狩り場と迷子
「───伝承クエストねぇ…」
始まりの街を少し離れた平原で寝転がりながら、気怠げに教えてもらったばかりの言葉を呟く。
条件達成による特別なイベントの発生とアサヒは言ってたが…
『おう、威力はわかったからそれの発生条件教えてくれや』
『あはは、伝承クエストは各個別の発生条件な上、初条件達成者以外は発生しないらしいんだ。
つまり、ボクの伝承クエストはボクだけの…それと、たしか後5人のプレイヤーが発生したクエストは彼らだけのものなんだ。
それに…ボクがもし他の習得法を知ってたとして───本当に知りたい?』
『───わかってんじゃねぇか』
などと言われた後に、「自力で見つけますぅ〜」と実質的な啖呵を切ってしまった。
煽られたら乗るほかないんだ…仕方ないんだ…
「はぁ〜、そろそろレベル上げに行くかぁ…」
…悩んでいても仕方が無い。
俺は明日の昼にレベルを上げて再集合する約束の為に一旦伝承クエストの事は忘れて、渋々と付近の狩り場に向った。
▽▽▽▽
「すまん、俺が今どこいるか分かる奴いる?」
『『『……』』』
翌日、集合時間にどれだけ待っても現れない事を疑問に感じた3人から通話が入った。
ので、素直に道に迷ったと伝えると、その場の空気が一種で凍りついてしまう…ごめんね?
『…えーっと、ボク狩り場への地図渡したよね?』
「おう、渡してもらった。
そんで狩り場に向かおうとしたんだが、いつまで経っても狩り場に辿り着かずに放浪することになって、しかも途中で雨降ってきたから近くの洞穴に入ってみたらそこは魔物の巣で───」
『待って、濃すぎる』
『急にカフェオレの原液飲まされた感じする』
『アホなん?』
酷い言い様だな…これから俺と洞穴の犬モンスターとの激戦を語ろうという時に…
まぁ個人的にも別にどうでもいいというのが正直な感想なので気にしないが。それよりも自分の現在地が知りたい。
どこなんだこの森は。
『うーん…そうだね、正直…うん、検討がつかない。
君はβテスト時にプレイヤーが探索していない領域へ踏み込んでいるらしいね』
「…え、マジで?」
『うん。まぐれで帰れそうにないなら、リスポーン以外に戻る方法が思いつかないよ』
終わったかもしれんな…(数日ぶり2度目)
既に出先で食べるように買っておいた干し肉とかは全部食べてしまって、なけなしの金で教えてもらった【魔法技術】と【簡易魔法】の技能が無ければ魔物肉の調理も出来ずに飢餓の状態異常やらで野垂れ死んでいてもおかしく無いのだ。
いや、そんなにすぐ死ぬとも思えないが、とにかくギリギリで生きているのは確かだろう。
『死んだか…』
『奴は四天王の中で最弱…』
「お前ら勝手に殺した事にするな」
『でも将来的に死ぬのは確定じゃないですか』
『哀れやなぁ、ジークはん』
コイツら今度の配当下げるからな。
…いや、しかし困った。このゲーム初の死が餓死やら自殺やらなのはこの先ずっと笑い物にされるだろう。
それだけは嫌だ…!もしそうなれば、コイツら煽れそうなタイミングの都度確実に煽ってくるぞ…!
「生き残ってやる…絶対に生きて帰ってやるぞ…!」
『えぇ…ちょっとジ──』
そう呟いてから、一方的に通話を切断する。
そして着信も一時的に拒否状態にしてから、俺は深い森の奥に進んで行った。
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