考察と逃走
いつかの金鎧さんだぁ〜!久しぶり〜!
とか言える関係じゃねぇからなぁ、一方的に興味を抱いてるだけだからなぁ…
ってか、常につけてるのかあの鎧。
純粋に動きづらいとかはないのだろうか?
「……?」
席開くのを待つ間、氏を眺めているとなんだか少し妙な事に気づく。
鎧の人は、運ばれてきた飲み物を前にしながら全く動かないのだ。
はじめは座り込みかなんかだろうかと思ったが、この前何故か逃走された際に謝罪をしてくれた辺り、別に悪い人で無いことはわかる。そんな事はしないと思うのでまず除外。
それに伴い、ロールプレイで鎧を絶対に脱がないとかそういうのであれば、そもそも鎧の人がこの店に入らないはずなので除外。
そうしてあり得ない事を除外して、俺は一つの仮説を立てる。
氏は、周りの視線が気になっているのではないか…と。
「金の鎧って幾らすんのかな?」
「ドロップ品…?」
「かっこいい」「センスやばじゃん」
「ギラギラしてる」「金持ちなんかな」
店内の喧騒へ更に耳を澄ませば、ここで食事をするプレイヤーの多くが鎧の人へ好奇の目を向け、仲間との話のネタにしている事がわかる。
そして鎧の人に目を向ければ、氏が時々ドリンクに手を出して飲もうとするも「いや今は駄目だ」と自制するようにそれを止めている事もまた分かる。
自分の行動が制限されるこの状況で尚もそんなド派手鎧を着続けている辺り、アレは多分…まぁそれは置いておこう。
ゲームの仕様的に兜ぐらいは外せると思うが…というか店に食べに来てる辺り外せるのは確定的だが、どうやら氏は何らかの事情であまり顔を見せたくないらしい。
ならなんで食べに来ちゃったの…とは思うが、まぁ多分初心者さんなのだろう。
流石にここまで注目されるのは予想外だったようだ。実際、もうちょっと時期が後なら全身鎧かつレアリティの高い金製の鎧であってもここまで注目を浴びる事は無かっただろうし。
さてさて、ここまで分析しておいて「気になったけど解明できたからいいわ!ばいばい!」とかは出来ないよなぁ?
俺は視線の先、未だ「ドリンク飲みたいけどめっちゃ見られてる…」と手を出しては引っ込めてを繰り返す少し面白い鎧の人を見据える。
俺は脳内で、氏へ向く視線を上手いこと無くす作戦を組み立て…よし良い案思いついた!
そんなわけで、店員さんに「あそこの人と相席します」と伝えてから歩き出し…
「よ、遅れたな」
「…ッ!?」
鎧の人の座るテーブル席。氏が座る席から見て反対側の席に座りながら、まるで親しい友人かのように俺は声をかけた。
急に声をかけられた…いや、これは俺が声かけたからだな。俺個人への何らかの恐怖心だな。
なんか怖がらせる事したかなぁ…?
涙目になりそうな感情を抑えつつ、一瞬ビクゥッ!と揺れた氏に対し、ハンドシグナル的に「おちつけ」「静かに」と伝える。
「あぁ…そう言えば人に見られんの嫌だったな、お前。すま〜ん!みんなこっち見ないでくれるか〜?」
「「「は、はーい!」」」
大ぶりに右手を振って店のプレイヤーに指示しつつ、左手でどうやら喋りたくもないらしい鎧の人…『カリナ』さんって事は女性なのか?男嫌い説あるな…
カリナさんにフレンドの申請と、同時に「困ってるみたいだから話しかけた」「喋りたく無いならチャットでいい」「ナンパとかのつもりはない」と送信。
後者はとりあえず安心して貰おうと送ったが…まぁ気休めだな、送ろうと送るまいと通報されかねん。
微妙にドキドキしながら彼女の対応を待っていると、ピコンという音と共にフレンドが承認されチャットが送られて来た。
『食事を取りたいのですが、ここだと見られすぎて困ります。どうにかなりますか?』
おそらく通報はされなかった事に一安心、ホッとため息を吐く。
やはり視線が気になっていたようだな、俺が「見ないで」と頼んだのに結局チラチラ見てるし…まぁ俺が一般の立場でも見るし仕方ない。
さて、相談の内容を解決するのは簡単だし手伝うとするか!
「それじゃ場所変えるか…つっても何も言わないだろうが、まぁ付いて来てくれ」
「…!」
コクコクと了承した彼女の手を取りつつ、ついでに彼女が注文した飲み物を貰い物の大きめなカップに移して渡す。
そして代金を店員に渡し、二人で店を後にしたのだった。
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本日の更新はこれで終了です。
サボりました。




