ニーベルングの街と黄金の鎧
「お〜、人の海…」
宿屋の窓から覗く街の情景。
それは前回ログインした日、一回戦後に本を取りに帰った時の閑散とした様子とは真逆に人で溢れていた。
葬儀関連の予定調整やら何やら、色々と面倒な事をしている内に6日もAVOから離れてたもんなぁ…ゲーム内だと既に一ヶ月近いのか。
相当時間を食われてしまった。
「…ん?」
というわけで早速レベル上げ、と考えたとほぼ同時。俺は視界に映るHP等のゲージの中に新しいゲージが増えている事に気づく。
おやおや、これは…何?
気になったので、各種追加情報のヘルプをお知らせから確認してみる。
というかめちゃくちゃヘルプ多いな?
いやまぁ、料理やら鍛冶やらはゲーム的に訳すと色々難しいものがあるのだろうが…お、あった。
なるほど、このゲージはイートポイントの残量を表すものらしい。EPとは?
説明しよう!EPは文字通り食事により加算される特殊なステータスポイントで、全てのプレイヤーが同一の最大値を持つ!らしい!
EPは自動的に減少したスタミナポイント、ヒットポイントに変換されるそうだ、イイネ!
食事による上昇効果も出来るらしいが、それだけじゃゲーム内でしっかり飯食う必要が少し薄いからな…餓死あるけど。
EPを得た上で上昇効果も付ける事が出来るなら、MPの節約にもなってウマウマだ。いい仕様と言えるだろう。
となれば一旦飯だ!これまで休息とポーションでしか回復法の無かったSPを気にしすぎる必要が無くなるのはありがたい。
たしか街に美味い飯屋があったな、食うと決まればレッツゴーだ!
▽▽▽▽
「あ、ジークさんだ!」
「ジークさん久々に見たなぁ」
「ジークさん久しぶり!今度うちのチュン太に会いに来てよ!」
「おー街のみんな久しぶり、俺が居ないうちに何かあったか?」
「いやいや!最近は街に御子様が沢山来るようになって!」
「困りごとがあったら手伝ってくれるから、ありがたいよ!」
「でも、逃げたペットを捕まえるのはジークさん以外にはお願い出来ないねぇ…」
「リーマさん所のモーリちゃん、御子様に殺されちゃったみたいだし…」
「というか、他の御子様に任せた子たちみんなやられちゃったみたいで…」
「それは残念だ…これからは長期間開けることはないから、逃げた子がいたらおばさん達が伝えに来てくれるかな?」
「あら本当!ありがたいわぁ…それじゃあ、何かあったらジークさんの借りたお部屋にお手紙届けるからお願いねぇ!」
「…ねぇ、ジークさん凄くない?」
「多分イベント前からいたんだろうけど、にしても信頼関係エグいね…」
「なんであんなにNPCと仲良くなれるんだ…?」
ふふ、これは君たちが笑うNPCへの真摯な態度が産んでくれるものなのだよ…!みんなもやろうね…!
仲良くなったおばさん達を通して捕獲クエストの無限供給の関係を築きながら内心で呟く。
なんでみんなやらないんだろうね、友達に見られたら恥ずかしいからだろうね、俺に恥は無いからね。
つまり俺の一人勝ちだ、雑魚共め…!
…まぁ俺がゲームに生きすぎてるみたいな所は大いにある。
さて、そんな訳で街に出てお店までやって来たぞ!
お店はめちゃくちゃ混んでいたぞ!残念ッ!
誰かとの相席なら案内できるらしいが、同席したらファンでした〜ってなるとちょっといい面してないと幻滅されかねんからな。
面倒だから、丁度人が少なくなっているであろう始まりの街でご飯食べようか…
────そんな事を考えていた時、店の喧騒がふと耳の奥に響いた。
「…なぁ、あの人めっちゃ派手じゃね?」
「わかる。正直めっちゃ気になってた」
音の元を辿れば声の主が当然に見つかる。
若そうに見える彼は、言葉によって相手を指すだけでなく、実際にその手指を用いて派手と称した相手を示していた。
示す先、テーブル席に座るのは黄金の鎧を纏うプレイヤー。
そう、イベントの日何故か俺から逃げ出した、あのプレイヤーだった。
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