朝陽と真凛と
「…ふぅ、疲れたぁ…」
頭を覆うバイザーのような機械を外すと、私はそう呟いて先程まで寝転がっていたベットに転がり直した。
いつも戦闘になると集中しすぎて頭が疲れる。
今日はまだ思考加速の用いられてない第一回イベントにしか参加しなかったので眠気で済んでいるが、いつもなら頭痛を起こす事もある…
…その代わりに強さを得られるだけマシか。
私は器用じゃないから、戦闘じゃなくて生産系にハマってたりしたら悲惨な、目も当てられない事になっていただろう。
「…はぁ」
さて、そろそろ行かないと。
せっかく早く切り上げられた訳だし、まだ終わってない自分の仕事を済ませよう。
気持ちを切り替えるように、自分の頬を強く叩く。
そして「よし」と意気込んでから、安息の地から離れ───ようとした時。
「やっほ〜朝陽ちゃ〜ん!元気っ?」
「…お姉ちゃん」
電動の扉が静かに開き、暗がりを照らす木漏れ日のような光と共に私の姉…雁刃 真凛が姿を見せた。
「配信…は終わったのか、どうしたの?」
「ん〜…ちょっと遊びに来た!気分で!」
…嘘だ。
姉は自分自身に嘘を吐く時、普段とは似ても似つかぬ楽しそうな声を発する。
そもそも、姉が気分で行動することはない。
抜けている所はあるが、決して気分で物事は決めないし、常に自分の時間は限られていると律するように行動している。
どうせ、父さんに面倒事を伝えるように言われたのだろう。
友達と遊んだあと、即座に親に呼び出される私に気を使ってくれているのだろうが…この人に気を使われるのは、逆に辛い。
「…わかった、何がしたいの?」
「え!遊んでくれるの〜!わーい!それじゃあ少しお話しよっか!」
とはいえ、せっかく気を使ってくれたお姉ちゃんを「目的は分かってるから」と突っぱねるのは気が引ける。
彼女の言う通り、少し遊んでから本題を聞くとしよう。
ベッドに飛び込んできた彼女を躱しつつ、私は寝間着からすぐに移動出来る衣装に着替え始めた。
「朝陽ちゃん、さっきは凄く楽しそうだったね〜!
相手の彼…ジークくんとは友達なんだっけ?」
「うん、別のゲームで知り合ってから、よく遊んでる」
「ゲームでの出合いっ!いいなぁ〜私ずっと彼氏とかいないからなぁ〜!
私もAVOちゃんとやろうかなぁ…」
「…そういうのじゃないから」
ジークとは…いうなればライバルみたいなものだ。
私と彼の実力はほぼ拮抗しているし、多分彼もそう思ってくれている…はず。
というか、そもそも彼と現実で会った事も無いのにそんな関係になるはずがない。
「えぇ〜でもお似合いに見えたよ?仲良さそうだったし」
「無理だって、あり得ない」
…急にトーンが低い、まさか本気で言ってるの?
いやいやいや、普通に考えてあり得ないでしょ…そもそも私はまだ高校生で、ジークは最低でも成人している年齢。
もし仮に、彼にその気があったとして…正直引く。
正確な年齢こそ伝えてないが、まだ成人してないのは分かってる筈だし。
まさかお姉ちゃんにそこまで常識が無かったとは…いや、ジークが年上と伝えていなかった私の責任か。
彼、若く見られがちだから。
「はぁ…まあいいや。それで本題はなに、お姉ちゃん?」
「えー!お話もうおしまい!?」
「おしまい!はい、さっさと言って!」
これ以上話していると、次にジークとあった時に変な事を考えてしまいそうだ。
ここらへんで切り上げさせてもらおう。
お姉ちゃん「ちぇ、冷たいんだから…」と呟いてから一つため息を付くと、嘘を付いてるときのにんまりとした表情ではなく平時の、ただ平穏で代わりのない湖面のように静かな表情で、その口を開いた。
「父様が『今回の件で話がある』とお呼びです。付いてきて下さい」
「…了解です、お姉様」
後のことを考え、ため息が出そうになる気持ちを抑えながら、お姉ちゃんの後に続く。
…嫌だなぁ、父さんと会うの。
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