聖剣極光と砲門解錠
「ふぅん、これは…」
赫々、轟々と猛る地獄が如き業火の中、アサヒは平然と立っていた。しかし、その表情は明るく無い。
まぁそれを狙ってたんだから当然だが。
「ほら、聖剣を封じてやったぞ」
「面白いことをしてくれるじゃないか」
彼女があれほどの業火の中で立てるのは、【火炎耐性】などの属性攻撃耐性技能の効果ではない。
聖剣の鞘の効果、永続回復によるゴリ押しだ。
耐性系技能で耐えていれば攻撃によって付与される異常効果が、火だったら火傷のテクスチャが付与されないからな。
どれほどリアルでもあくまでVRだ。
自動回復がある上に痛覚遮断も出来るのだから、あえて耐性技能を取ったりする必要性は薄い。
しかし、アサヒはそれによって苦渋を呑む事となった。
彼女の伝承開放には永続回復から溢れた分の回復値を変換した魔力の蓄積が必要不可欠。
『ネロ』によって発生した火炎は6日と7晩消えることはなく、そして湧き出る業火は神の炎ゆえ、あらゆる防御を焼き溶かす。
それに伴ってアサヒはHPの減少と回復を絶え間なく繰り返すこととなり、上限値を越す時間を完全に奪い去った。
彼女は地表にいる限り、聖剣の伝承を使えない。
そうなれば────。
「でも、残念だったね『風よ大気よ我に従え』【飛翔】」
「あー、お得意の風魔法だなぁ?」
魔法技能として覚える事のできる【簡易魔法】は、一定のレベルに至る事で【火属性魔法】【水属性魔法】【風属性魔法】などの各属性に特化した上位のスキルが会得出来る。
属性魔法系技能は、それ1つで数種の魔法技能を扱える。
しかし、他の魔法技能よりも一発毎の消費MP量が多いため、それを専門にステータスを上げているプレイヤー以外基本的に使用しない。
…まぁ俺もアサヒも持ってるし使うが。
「フフ、これでまた聖剣が使えるね」
「お前本当面倒だなぁ…」
目的が聖剣を封じる事なら絶望感を覚えるような笑顔を浮かべた彼女は、宙を舞いながら大地に立つ俺を見下ろす。
それに対してブラフの悪態をつきながら両手剣を構える。
────これで準備は完璧に整った。
あとは死なないように立ち回るだけだな!
「さぁ、行くよ────ッ!!」
「来やがれ!叩き潰してやるッ!!」
大きく振りかぶった聖剣の一閃は上空より注ぐ。
彼女の強化されたSTRに加え、重力による加速を帯びた一撃は伝承によって強化された左腕の表皮すらも容易く切り裂く。
だがソレは敢えて見せつけた的だ。
衝突の瞬間、僅かに無防備になる腹に無理矢理剣撃を叩き込む。まともに喰らえば、俺のステータスでも体が両断されておかしくない。
しかし、彼女は剣が腹へぶつかったと同時に剣の動く速度と向かう先へ器用に合わせた空中移動を行い、衝突と僅かな切断によるダメージ程度に被弾を抑えた。
人外級の反応速度、まともにやってられんな。
マジでコイツ頭にハイパーコンピュータでも入れてるんじゃなかろうか?
さて、俺の攻撃に合わせた移動で背後に回られてしまった。普通にマズイな?次の一撃に備えよう…
と思った瞬間、彼女は上空へと去った。
何故かと一瞬困惑したが、直後に「あぁ」と察する。
「接近すると火が面倒か」
「御名答、ヒットアンドアウェイじゃなきゃ空に逃げた意味無さそうだからねッ!」
火の効果高度が割と高いのは嬉しい誤算だな。
俺は発動者だからダメージは無いがら彼女は無闇ち突っ込むとダメージを受けてしまう。
初撃で「被弾抑えられるか危ういな」と内心ヒヤヒヤしていたが、これならなんとかなりそうだ。
軽く微笑みながら、アサヒの一撃を受け止める。
「く、オラッ!」
「う…ッ!凄いな、踏み込み系技能かなァ!?」
…どうやら楽しそうに見せているが、割と切羽詰まった状況に陥っているみたいだな。
剣撃とそれの防御・回避を行う度にインターバルが長くなっていて、一撃を確実に当てようという気概が薄れている。
今の一撃は特に酷かった。いつもなら回避できるカウンターだったというのに、腕と腹へモロに決める事ができた。
蓄積を早く済ませたいのが明らかだ。
その理由はおそらく、聖剣の鞘がHPの回復特化でMPは回復してくれなポンコツだから。
MPが回復しないというは、彼女が魔法技能を使わず、魔法も【飛翔】以外に使わなかったことからおおよそわかってはいた。
前衛構成ならMPはさほど上げていないだろうからな、そうじゃないと攻撃力の高さに説明がつかない。
詠唱内容とアサヒの行動からして【飛翔】はMP持続消費型の魔法である可能性が高い、MPが回復しないのでは、長くは飛んでいられないだろう。
「そろそろ決めたいけど…キミも自動回復があるみたいだね」
「おう、ヒットアンドアウェイじゃ削り切れ無いかもな?」
当然ながらこれはブラフ。
俺の自動回復は常に不良品回復ポーションを飲み続けてる程度の回復効果しかないからな、この状況が続いたらじわじわ死に近づく。
もっとも、そんな事は有りえないが。
この状況に持ち込めた時点で俺の勝ちはほぼ確定している、あとはアサヒが飛んでいる内に伝承解放してくれるのを願うのみで、7割方消化試合。
とはいえ、こちらも状況は芳しく無い。
流石にMPが足りない、個別の魔法技能はMP消費が少ないとは言ったが、100が10になるような変化ではない。精々85とかそこらだ。
それによって俺を悩ませるのは【龍滅の剣】の伝承解放。
【勝利の剣】は外部のバッテリーから充電して放つMP非消費型だが、【龍滅の剣】は直に俺のMPを吸って発動する消費型。
この為、俺はMPをそれなりに上げた魔法剣士的な構成にしていた訳だ。
おかげで贅沢に魔法技能を使いまくれたのだが、アサヒの戦闘では流石に使いすぎた。
MP食い虫の【古の光】は彼女が空へ逃げると同時に解除したが、普通に『ネロ』の消費が重かった。
それに、ヤバそうな時には【霞は溶ける】も使ったので回復も微妙に持ってかれている。
残りのMPは6割程度。
鞘の回復量は確かじゃないが、おおまかに計算して聖剣の蓄積完了まではあと一分ぐらいか?
「そろそろだよ!死の覚悟はできたかい───!」
「マジか思ったより早いな!?」
彼女の警告に感謝しよう。
鞘の回復量はおおよそ秒間350程度…なるほど、秒間550のダメージを与える『ネロ』の焦熱フィールドからすぐ離れたのはそのためか。
そして、その回復量から計算して完了までは残り20秒。微妙に足りない気もするが、もうそれ以上の時間は無い。
アサヒによる伝承解放前最後の攻撃を凌ぐと、彼女は空中へ戻り、天の中域で停止した。
「【大地を裂けよ】【命よ絶えよ】【勝利を剣に】──」
そして彼女は複数の魔法技能の名を唱え、解放に備えた強化を開始する。
空中で決着させる事を決めたようだな。
まぁ効果がいつまで続くのかも分からない火の中でギリギリの削り合いをする意味ないし、妥当な判断と言えよう。
────しかし、それは俺の目論見通りだ。
「【兵装解放・疑似魂魄起動】」
龍滅の剣起動の詠唱を呟く。
同時に蒼の剣身は、ソレに刻まれた紋様のような溝から淡い光を解き放つ。
光はその淡さ故に『ネロ』の業火に呑まれ、アサヒから視認は出来ない。
「【太陽の化身】【聖光を剣に】【幻想の欠片】【栄光は掌に】──ッ!」
「【砲剣起動詠唱開始】」
『───【承認】【この剣は真銀と魔法】【小妖精と侏儒に鍛えられた奇跡】』
龍滅の剣に宿る【守護疑似魂魄】へ指示して起動の詠唱を行わせると、剣身にいくつもの魔法陣が重なり、溢れる光が強まってゆく。
『【与えられた力は龍滅の光】【されど今はその力を眠りにつかせん】【力の残穢をここに放たん】』
5つ全ての起動詠唱が終了し、剣身が纏う魔法陣は大小合わせ百を越す。それら全てが現在のAVOではプレイヤーに再現不可能な魔法となっている。
故に【守護疑似魂魄】が代理として唱える。
しかし、唱えたただけでは発動しない。
何故なら、全ての発動に必要となる砲門が解かれていないから。
天に浮かぶアサヒを睨めば、彼女もまた準備を整えたという様子で、その手に握る聖剣を上段に構え、今にも振り下ろさんとしている。
それを確認した俺は、龍滅の剣の装飾にも似た鍔に隠された、指一本が入れられる左右対となるグリップを引き、柄頭に納めた。
『【最終起動確認完了】【剣身解除】【砲身解放】【砲剣固定】』
────瞬間、砲身が顕現する。
紋様かと思われた剣身の溝は割れ、切先・中央・根元の3段に分裂。
分裂した3段が更にそれぞれ4つへ開くと、根元は柄と直結する砲門を四方から守るように覆い、中央と切っ先は更にそれを覆う様に重なった。
元の姿とはまるで異なる形状だが、まるで重心の変化を感じないのはゲーム的仕様だ。
「ジーク!楽しかったよ!本当に楽しかった!!これで終わってしまうのが実に残念だ!!」
全身から陽光の如き光を放つアサヒは、満面の笑みでそう語る。
あぁそうだな、本当に楽しかった。
彼女の攻略法を考えるのはもう二度とごめんだと再確認させられたが、それだけは間違いない。
だが、それは少し間違っているな。
「別にコレが最後じゃないだろう!この後だってイベントは続くし、AVOだってまだまだ始まったばかりだ!!
終わるのはこの試合だけ、リベンジの機会はまだまだある!!」
「っ!あぁそうだ!そのとおりだとも!!次の試合でも次のイベントでも、ボクはキミのリベンジを待っているよ、ジーク─────ッ!!」
俺達は互いに笑い、睨み合う。
ただ今回の試合がここに決すると確信して、終焉の一太刀を相手の喉元に叩き込まんが為に、いま!!
────国すら焼かん終焉の業火と、吹き荒れる暴風の中。
ジークとアサヒは、互いの必殺の名を叫ぶ。
「聖剣極光──────【勝利の剣】────!!」
「砲門、解錠──────【龍滅の剣】ッ!!」
仮想都市上空に二条の極光が顕現する。
一条は山を両断するように。
一条は街を、山肌を、天を引き裂くように。
上段振り下ろしの【勝利の剣】はただジークを倒す為に振るわれたが、下段振り上げの【龍滅の剣】は違う。
【龍滅の剣】はハナからアサヒのみならず、街で二人と関わらぬよう戦っていたプレイヤー達を巻き込む様に狙って繰り出されていた。
そしてその目論見通り、街中のプレイヤー達は【砲剣固定】によって最大飛距離のまま固定された超威力の魔力砲に呑まれるか、それによって倒壊した建物に潰されるかでその数を目減りさせてゆく。
その数はアサヒの聖剣解放による犠牲者を僅か5秒足らずで上回り、1000、900、700、500、200と残り人数を示すカウンターは秒毎に100単位で減っている。
そして遂に、互いの一撃が衝突する。
【龍滅の剣】はアサヒの装備を溶かして表皮を焼き、【勝利の剣】はジークの肩口を抉った。
されど────倒れない。
アサヒも、ジークも、ダメージを負いながら地面に伏す事はなく、相手に向ける鋭い眼光も変わらない。
二人の伝承解放はそれぞれ同じ焦熱効果を持つため、一撃を加えた後も継続してダメージが付加され続ける。
【龍滅の剣】の焦熱効果はアサヒの回復値を上回っているが、HP残存値はアサヒが上回っており、状況はもはやどちらがHPを先に削れるかでは無く、どちらが先に削り切られるか。
ジークには【龍滅の剣】に加えて【古の光】を発動できる余力があるが、あまり使う事に前向きでは無かった。
理由は対アサヒがこのままアサヒの浮遊効果終了で終わった場合、MPが無いと対応する手立てを失いうるから。
彼女を確実に殺す為には、終了による落下直後に【龍滅の剣】を捨て、【千の魔法操る手】用いて結界系魔法を張り、内部にアサヒを閉じ込めて『ネロ』の業火で焼くのが一番確実。
このままでは自身のMPが尽きるよりも先にアサヒのMPが尽きると確信していたジーク故の思考。
しかし、それと同時に「あまりに画面映えしないからこの手は打ちたくない」とも考えていた。
とはいえ、アサヒを相手にこれ以上火力を上げる手立ても無い────瞬間、ジークの目線にとある物が映り込む。
そしてジークは、その頬を釣り上げた。
「【龍滅機構覚醒】───ッ!!」
瞬間、砲門から放たれし魔力砲剣が荒ぶり、轟々と猛る竜が如き様相を表した。
ソレに伴いその切っ先が2つに割れると、竜が餌を喰らうようにアサヒを飲み込む。
彼女はソレに抵抗しよう聖剣に力をより込めるも、同時にアサヒの浮遊効果が途切れる。
踏みしめる足場を失ったアサヒは聖剣を振るう事すらままならなくなり、ため息共に抵抗を諦めた。
しかし、それだけでは終わらない。
アサヒを両側から捕えて放さない顎の最奥、喉笛に覗く【龍滅の剣】の核たる砲門。
そこを覗き込んだアサヒは自身の終わりを目にした。
砲門に輝くのは、自身を捕えた極光よりも数段色の濃く、最早黒にも近い蒼の光。
それは秒ごとにその濃さをどんどんと黒へと近づけてゆき─────弾ける。
黄金の極光を失い、ただ一条の極光が煌めく空。
その空は、その極光すらも呑み込む極大の蒼に包まれ─────プレイヤー数を1減らした。
「俺の勝ちだ、アサヒ…!」
森を焼き尽くす業炎の中、一人寝転がりながら呟いたジーク。
呟きの直後、クラッカーの紙吹雪が舞う映像と『第一回公式イベント『サバイバル』優勝!』の文言が、その視界を包み込んだのだった───!!
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