挑発とイベント開始
『…という訳で、以上で現在報告されている重大なバグと、その発声原因と対処法になります。
これらのバグはイベント後に行われるアップデートで改善される見込みとなっておりますので、それまでの間に遭遇してしまった場合は、説明した対象法に基づいて対応していただけると幸いです。
ご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。
開発チームは以降、再発防止に務めさせて頂きます』
今超責任者の灯火さんが説明していたのは行動不能系バグに関する対処法やらの話だ。
進行不能系とだけ聞くとかなりヤバそうなバグに聞こえるが、実際の所『検証班が発生させた面倒なバグ一覧』みたいな感じだった。
だって氷属性の魔法と炎属性の魔法が衝突した際に低確率で発生する特殊演出が起きている間に風属性無効の向上効果が掛かっているプレイヤーが【粘液発生】の魔法技能を発動させると極低確率で発生する、とか普通にプレイしてて遭遇する事ゼロに近いだろう?
まぁ、そういうバグがあるっていうので、他にも行動不能になるバグがあるかもと警戒する事はあるだろうが…
『まぁ内情話すとこのAVO自体かなり企画前倒しで販売開始になっちゃったからねぇ〜!
いろいろシステム面を調整しきれていないのサ!ゲームエンジンのValhallaもちょっとイジってるしねっ!』
『同情を誘う気はありません。
ですので、今回のアップデートで本来企画していた通りのゲーム仕様を完璧に実装する手筈となっています。
エンジンもAVOに最適化した形に調えますので、今後一切のバグは発生しないでしょう。
より詳細なアップデートの内容説明はイベント後ですので、知りたい方は本日16時からの公式配信をご覧下さい』
その言葉を受けて、内心には納得と驚愕の感情が同時に芽生えた。
確かに『ここらへん整備されてないなぁ?』『この辺りもっと上手くできたのでは?』みたいなシステム面の問題が多かったというのは事実で、掲示板でも「改善しろよ」という意見が出ていたのも確かだ。
しかし、それにしても高クオリティなゲームだったのもまた事実。
システム面での問題が多くあれど、グラフィックは完璧と言って差し支え無かったため、半月の間に見捨てられる事は無かったという訳だ。
まぁシステム面もさっきのみたいなバグと想定外の動作ができてしまう物以外、戦闘面に関わるものも無かったみたいだしな。
…にしても、足りてなった所半月で全部調えたのかぁ
やっぱりこの会社、いろんな人材使い潰した上に成り立っているのでは…?
『わぁお!灯火ちゃんったら情報の小出しがおじょーず!もはやサメ!
はーいっ!そんな感じでもうそろそろ1時間だね!みんな準備はいいかなぁ?
参加したいみんなはちゃんと参加申請をウェブページか各街の広場に設置された受付から送信してねー!あと5分だからねー!
ウェブページは配信の概要欄から飛べるよっ!』
「うし、そろそろ行くか」
参加申請の送信を促す声を聞くと同時に俺は配信画面を落とす。
転送されたらすぐに移動するというのに、直前まで座っているなんて体が鈍って仕方ないからなぁ…
「俺だけここ座って転送されるの待ってちゃあかん?」
「準備運動中に倒されたらお前の責任な?」
「それは嫌やなぁ…」
俺に続いてアサヒとディナが席を立つ中、このテーブルから離れたくないといった様子で突っ伏していたタケルも「しゃあない」と言って立ち上がる。
カウンターから監視するように覗き込んでいた店員さんに一礼してから、俺達はカフェを後にした。
▽▽▽▽
「タケルく〜ん!がんばって〜!」
「ディナさん!いつも応援してまーすっ!」
「ジークさん優勝取ってくださーい!」
「アサヒちゃん最強!アサヒちゃん最強!」
「応援ありがとうなー」
「ご期待に答えられるよう、全力を尽くしますね!」
「任せとけ〜」
「称賛に合った結果を実現してみせるよ」
店を出るといつものようにプレイヤー達が列を成し、それぞれが応援するメンバーに対して声援を送った。
それに俺達も軽い身振り手振りと言葉で返しつつ、街中を進んでいく。
声援はありがたいけど、立ち止まって対応すると他のプレイヤーに迷惑だからね…歩いても迷惑な可能性はある。
「そういえば俺、始まりの街まともに見た事無いな」
「あぁ、いつも集まって話し合って解散してだからね。ボクもジークが始まりの街にいた印象は薄い」
「私達もあまりしっかりと見た事はありませんし、今度始まりの街の観光でもしてみるのもいいかもしれませんね」
「来月くらいには二次生産分のAVOが出るやろしなぁ」
「今思えば、初回生産分が需要と供給の関係死んでたのって制作途中で前倒し販売されたから説ない?」
「あるなぁ」
「…ありますね」
「…わからないなぁ」
『いえーいっ!!各街の参加プレイヤーのみんな元気かなぁー?
知らない人もいるかもだからご挨拶!アヴァロニカ・オンライン公式宣伝担当のマーリンちゃんでーすっ!』
イベント後の行動について軽く雑談していると、突然マーリンの声が響いた。
予定表には転送前のアナウンスなんて無かった筈だが…
『ワタシハイマサンカプレイヤーノノウナイニチョクセツカタリカケテイマス…
まぁβ番に引き続きかる~い注意事項の説明だから聞き流しちゃっても全然大丈夫だよ!
イベント開始と同時にプレイヤーのみんなは仮想都市フィールド、簡単に言って通常のゲーム内に存在しない都市に転送されちゃいます!
これはいろんな街を見てたプレイヤーが「ここ知ってる場所〜」みたいに有利に働く事がないよう、公平ににするための措置だから文句はナシねー!
それで、このフィールドだと通常購入できる回復系アイテムは使えないんだよねぇ…
これもプレイヤーの財力で有利に働かないよう公平にするための措置だから、ごめんねっ!
代わりに!全てのプレイヤーにイベント用回復ポーションを配布しちゃいまーすっ!
イベント用って付いてるとおり、イベント終了後には自動回収されちゃうから遠慮せずに使った方がいいよ!
数は全員5本で、回復量はまぁ中位の回復魔法くらいかなぁ?上位のプレイヤーだと赤ゲージから黄色の真ん中に戻るくらいだね!
あと、事前の告知通り1回戦は各配信サイトで生配信されちゃいます!
高レベル帯のはこのまま公式配信と繋ぐ実況付きのと、通常枠の2枠になるっぽいわ!いい忘れてたわ!ごめんな!
そんなわけだから芋るなとまでは言わないけど、見てる人がプレイヤー以外にも大勢いるって事に気を覚えておこうね!怯えてる所配信にのるかもだからね!
おっとっと!説明してたらもう転送開始まで10秒無いや!まあいっか!
みんなー!盛り上がるように気張ってねーっ!』
すげぇ、めちゃくちゃ詰め込んでる…
多分急に実況中継枠が決定したからそれを伝えるついでに注意事項の説明もしろとか言われたんだろう。
だんだんわかって来たぞ!
社会の嫌なところが!
「ジーク」
「なんだアサヒ」
突然アサヒが声をかけてくる。
足元から現れた魔法陣の輝きに飲まれるなか、顔をそちらに向けて、わかりきった答えに問をぶつけると、彼女は殺気に満ちた眼光と微笑みを向けながら一言。
「ボクが勝つよ」
「──いいや、俺が勝つね」
全身が光に飲まれる間際、対抗する言葉を吐き出す。彼女にそれが届いたかなどどうでもいい、彼女なら聞かずともわかっている筈だ。
俺の視界は、青白い輝きに包まれた。
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