アヴァロニカ・オンライン
「『ドラゴン・ソング』は駄目だな…超王道RPGとか謳ってたけど、そのまんますぎて面白みがない。
あとPvPもカスすぎて話にならない」
『期待してましたけどやっぱりだめでしたか…』
『正直な話、正式発表の時から微妙な雰囲気しとったけどなぁ〜』
ため息を吐きながら俺が評価を口に出すと、目前に座る真面目そうな女がため息と共に口を開き、エセ京都弁の男が彼女を静かに煽る。
正直、元々俺はエセ京都弁の男…タケルに近い意見だったので、そこまでショックではない。
真面目そうな女、ディナが推して来るので試してはみたが…結局発売前の予想と大差ないクオリティで時間の無駄遣いに終わった訳だ。
「いちいち煽るなタケル。いや煽ってる自覚無いのはわかってるから、話しすぎるな」
『あぁ、すいませんすいません』
口に扇子を当てながら頭を下げると、少し青筋を浮かべていたディナも一回頬を叩いて前を向き直した。
───はぁ、とため息を吐きたくなる。
これはタケルやディナ、そして今席を外しているアサヒに原因は無い。どちらかと言えば、彼らも被害者の側と言えるだろう。
現代、2214年。
2110年代前半に普及した思考加速装置と、それに付随した完全なVRは、現代になってさらなる発展を遂げている。
近年はVRMMORPGが特に人気が高い。
技術の成長にともない、若年層から高齢者まで全く同じ土俵で戦う事が出来る様になった事が大きな理由とされており───という話は別の機会。
俺たちはその人気にあやかって、ゲームの攻略動画を投稿サイトにアップロードして広告収入を得ている…いわゆる配信者グループだ。
タケルとディナの2人とは攻略動画を個人で上げていた頃に出会い、なんやかんやとあってグループで活動するようになった。
それから段々と視聴者も増えてゆき、去年にアサヒをメンバーに加えてからそれは更に加速。
現在では、自惚れを抜きにしてもVRMMO攻略・実況業界ではかなり名のしれたグループにまで成長した…のだが…
先月、活動開始から攻略動画を上げ続けていたMMORPG『ブレイブ・フロート』が突如としてサービス終了を宣言し、一週間前にその8年にも及ぶ運営に幕を下ろした…下ろされてしまった。
俺の食い扶持なくなったわけだしな!当然だな!
俺は困った、非〜常に困った!
3人は別の仕事をしているらしいので、お小遣いどうしよう程度で済んでいるようだが、俺は広告収入一筋なのでこのままだと死んでしまう。
…いや、正直貯金は都心のマンション1棟買えるくらいは資産運用で増やしているのでさして問題は無いといえば無いのだが、永遠に減っていく状態なのは無駄遣いもしづらいというものだ。
なので、今は『ブレイブ・フロート』に変わって実況やらをする新作MMOを探していたのだが…
『これでもう10本目ですね…』
『次に新作出るの、後一ヶ月は先やなかった?』
「終わったかもしれんなぁ…」
MMO人気にあやかるのは俺たちのような配信者だけでなく、ゲーム業界そのものもなので、月10作ほどの頻度で新作が各企業から発表されている。
今月も『ドラゴン・ソング』の他に『スターライト』『カオス・クロニクル』『デンジャラス・ナイト』など、15作の新作MMOが発売されており、内5作はそもそも地雷臭が凄すぎたり、凄まじい人気で買えなかったりで手元にはない。
そう、確認作業も諸々も文字通り終わりである。
『アテ自体はあったんですけどねぇ…』
「人気すぎて買えないとか思わないじゃんね…」
そもそもの人気が高かったのと、ブレイブ・フロートのサービス終了が重なり一瞬で初回生産分が売り切れてしまったわけだ。
次回生産分は次の新作発売時期と同じく一ヶ月後なので、結局待つ時間は変わらないし、流石に1ヶ月も遅れると気分がノリ切らないので、別のゲームでスタートダッシュ決めた方がいいと判断した。
したが…正直来月もパッとしないんだよな…
『ごめん、今戻ったよ』
どうするべきかと項垂れ、少し暗い空気が流れ始めると、席を外していたアサヒが通話に戻ってきた。
「おかえり、なんか呼ばれてたっぽいが大丈夫か?」
『あー…うん、大丈夫。ボクの仕事関係でね、家の電話にかかってきたみたいなんだ』
『頑張っとりますなぁ』
『アサヒちゃん、最近忙しそうでしたけど…佳境ですか?』
『あはは、やっぱりディナさんにはわかっちゃうか!
うん、色々立て込んでててね。でもあと一週間くらいでボク主導の分は大体終わるから、いつもと同じように動けるようになるよ』
「お前が動けてもやれるゲームがない話する?」
『あぁ…やっぱりドラゴン・ソング駄目だった?』
「尖ってる所がなかったし、職業ごとの格差がひどい。それに伴ってPvPがカスの極みでヤバ過ぎる地獄」
『ジークがそこまで言うって事は相当だね』
「バグがなかったのは評価出来たが…そんだけだな。他全部ゴミか微妙かに分類出来る…あー!攻略するゲームどうしよ!どうしよっか!?どうしよっかなぁ〜ッ!?」
アサヒが登場しても話が進展するわけでもないので、俺こと『ジーク』は頭を抱えて声を荒げる。
この一週間、毎日20時間以上ゲームの試験プレイをし続けているので普通に限界。
面白いならいいんだけどね…微妙だからね…
アバターの頭を搔き乱しながら、どうするべきかと思考を巡らせる。
あー本当にやれる事が無い、打つ手がない、どうしようこれ…
悩む俺にどう声を掛けようかと頭をひねっているタケルとディナ。
そんな中、アサヒは一人思い詰めたような表情をうかべながら頬を掻くと、一拍置いて何かを決めた様に口を開いた。
『…あー、そういえば少し良い話があるんだ。ジークにとってもいい話になると思うんだけど…聞きたいかい?』
突然の彼女の提案に対して、俺たちはただ頭に疑問符を浮かべる事しか出来なかった。
▽▽▽▽
『『アヴァロニカ・オンライン』は…まぁ、当然知っているだろう?』
「いや、まぁ知ってるというか…」
アヴァロニカ・オンラインは、まさに先程話していた人気すぎて買えなかった新作MMOのタイトルだ。
───日本有数のゲーム会社『サンライズ・コーポレーション』の新作であり、ゲームエンジンは前作から引き継いだオリジナルの『Valhalla』
海外企業から多額の投資を請けて制作されたValhallaは、非常にリアリティのあるグラフィックと五感への刺激によって、ノーマルアセットだけで世界レベルのクオリティを叩き出す。
世界の技術者に洗練された技術の極限と評価された事もある、凡百の企業では持て余すほどのオーバーテクノロジー…と、どっかの記事で読んだ。
つまり、すごい勇者がすごい武器持って前線出てきたみたいな感じと思ってくれれば分かりやすい。
それは当然発売前からかなり注目されていたのだが、前述の理由で即売れして俺たちは一人分すら確保出来なかった。
全員しょんぼりして翌日の撮影は全部ボツになったくらい残念だった。普通に撮れ高あったけどみんな表情地獄だったからね…
『あはは、そうだね。因縁深いというかなんというか、あそこまで圧倒的に買えなかったのはビックリしたよ』
「15万の在庫が2分保たなかったとか聞いたぞ」
『私も見ました』
『俺も見たなぁ』
『ボクの耳にも届いたよ、もっと在庫あれば世界記録狙えたかもだ』
アサヒの独特な話し方から談笑が始まる。
丁度いい、長く話して喉が乾いてた所だしお茶のも〜っと…
『さて、そんな『アヴァロ・オンライン』のサンプルが4本ボクの手元にある』
俺は毒霧の如く麦茶を口から吹き出した。
『嘘だろ!?』
『えっ、どうやって手に入れたの!?』
その音が通話に響くと同時に、アサヒを除いた二人も声を張り上げた。
タケル、エセ京都弁ムーブ剥がれてるぞ。
『仕事で色々縁があってね。家族の分で4つ貰えたんだけど、うちはボク以外VRMMOやらないから全員分譲ってもらえた』
「神か?現人的なあれか?」
過去に横行していた転売行為だが、現代では法によって厳重に縛られる様になった為、彼女が入手した手段は何であれ正規の手段なのはほぼ確実…おそらくは本当に縁で貰えたのだろう。
『それで、なんだけど…まぁ、見てもらったほうが早いかな』
そう言って彼女が空を撫でると、目前に一時停止された映像画面が展開される。
なにかの配信画面のようだが、これは───。
『これは一昨日行われたβ版の第一回イベント…まぁ、宣伝用の余興みたいなものだね。
正直思いは固まってるだろうけど、一旦これを見て、他のゲームと同様に判断して欲しい』
そう呟くと同時に、その画面は動き出した。
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