破壊不能と伝承開放
「ラン、左側の立像を頼む!」
「はい!」
早速襲いかかって来た右側の立像の槍を躱して懐まで潜り込み、挨拶代わりに一撃を叩き込む。
さて…威力やら何やらは基本どうでもいいのだが、足場がだいぶクソのクソだな?
踏みしめたところに金貨とか落ちてたら最悪転びかねん。
金貨の無い立像の足元まで来たのはいいのだが───ガキィン、と音を立てて剣が弾かれた。
うん、純粋に滅茶苦茶硬いな。
立像はすぐさま剣を用いての攻撃をせんとするが、それの動作に入る前に後方へ退避する。
ミスリルは店売りで見た限り一番強かったんだが…表面を抉ることも出来ないか。
だが、『最上位鑑定』によれば、僅かにだがダメージ自体は入っている。
少しずつ削っていけばどうという事はないな。
おっと、槍の横薙ぎ。
槍も立像と同じオリハルコン製。当たればとんでもないダメージになるだろうが…ガタイの問題で動作が大振りすぎる。
というか、このゲームまだオリハルコンは未発見だったよな?
…どうにか何割か持って帰れないだろうか。
ミスリルの両手剣で大分持ってかれたのでお金欲しい。
「【光は身体に】【古の光】」
そんな事を脳裏浮かべつつ、3つの魔法技能を発動すると、MPが小指の先ほど減少して停止した。
本来【古の光】は効果中MPが減り続けるのだが、MP自動回復の効果がその減少値と同数である事で打ち消されている訳だ。
さて、無駄な硬度で折角買った武器の耐久が全損しても嫌なので一気に決めよう。
先程から放たれている突きの連撃を交わす合間、【希望よ貫け】と【栄光は掌に】を発動。
槍を無理矢理弾き、僅かに体勢の崩れた1秒程度の隙。
その瞬間を狙い、強く踏み込む。
瞬きの間に、俺は懐に潜り込んでいた。
しかしそれに驚くことは無い、バフを盛ればよくある事だ。
立像は表情こそ崩さないものの、大きくその赤い目を見開いて、驚愕の感情は伝わって来た。
体勢を崩した立像は動けない、転べばより大きい隙が生まれる為だ。
立像には何らかの知性があるのだろうが、なによりも優先するのは自身の命ではなく王の墓、黄金の棺。
そうあれと創造されている。
故に、槍を手放し身を守る事もしない。
それが意味するところは────
「【勝利を剣に】ッ!」
────俺の勝ちだ。
黄金の立像は腹に受けた一撃によってくの字の姿勢となったまま、紅蓮の眼光を失い地面に転がる。
ただのオリハルコン像に戻ったらしい。
ボスドロップは…ランの方も倒してからか?
…はっきり言って攻略難易度は下の下だな。
買える武器じゃ行動不能に出来ないというところや、おそらくは攻撃力がかなり高いであろう事は脅威と言えるだろうが、AGI辺りのステータスは低いのだろう。
大振りの攻撃や突きなどは当たれば大ダメージだったと思う。そもそも当たらないのだが。
…このダンジョン、ワールドアナウンス出る位だからかなり重要なんじゃないの?
運営調整ミスってない?大丈夫?
まぁいい、困るのは運営だ。
俺は責任取らないからな!
さて、ランの調子はどうだろうか?
任せると言った以上、相当の事が無ければ手伝う気は無いが…全然順調そうだな?
「開け頁、『疾風の馬』!」
ランは惜しみなく伝承技能を発動し、先程も呼んだ馬の名を呼ぶ。
…伝承技能の希少性わかってない可能性はあるな。
ともかく、空間の割れ目から現れたその馬に跨がると、なんと壁すらも道として駆け、跳躍と共に立像に斬りかる。
なんという跳躍かと驚愕するも、直後。
驚くべきは馬の立体起動ではないのだと察した。
握る長剣が脳天に触れる。
宝物庫に響く金属の衝突音と光、火花。
ジリジリという金属の擦れる音が響いた。
なんて威力だ、あれならヒビを入れるくらいなら…いや、入らないな?
凄まじい音とエフェクトだというのに、立像には亀裂が入る様子どころか、耐久減少の様子すらも見られない。
なるほど、ようやくわかった。
立像の表面すら抉れないのはシステムの保護がかかっているからか。
つまり、あの像はHP全損以外で行動不能に出来無い破壊不能オブジェクトとしての性質も持つ特殊モンスター。
防御力自体は柔かったが、それなら『貫通』効果と『急所判定』効果を合わせても破壊できなかった事は頷ける。
…だが、相手が悪かったな。
ようやく記憶が引き出せた。
2陣営に別れて戦争し続ける『トロイア・リアス・ウォーゲーム』での記憶が確かであれば、
ブリリアドーロというのは、シャルルマーニュの甥にしてそれに仕える聖騎士、十二勇士の一人たる英雄『ローラン』の駆る愛馬だ。
ローランは金剛の如く強靭な体躯と、人体や獣を千切り裂く怪力を誇る英雄。
それ故に本人すらも防具は飾りと笑った程と聞く。
しかし、握る得物は血縁に由来する伝説の剣。
「絶世両断────」
ランの叫び…伝承よりいでし武具を軛から解き放つ詠唱が轟くと同時に、彼の握る黄金の柄から魔力の輝きが眩く煌めき剣身を包み込んだ。
その剣はトロイアとアカイアの間で発生したトロイア戦争に於いてトロイアに属し、戦争の引き金を引いた弟を国と共に守った至高の英雄が振るいし聖剣。
聖人の祝福が与えられた黄金の柄には、剣の持つ『切断』の力を増強し、持ち主の持つ『金剛』の力を貸し与える力が秘められる。
故にその剣の鋭さ、それに勝るもの無し。
故にその剣の強靭さ、それに勝るもの無し。
万象ありとあらゆるを凌駕する絶世の剣は、その名を呼ぶ叫びによって、完全なる顕現を迎える。
「────【不毀の剣】ッ!!」
解き放たれた剣の威力は、破壊不能オブジェクトとの拮抗した状況を容易く覆す。
両断される立像の体躯。
俺が倒した像と同じく、叫び声を上げることもなくただのオリハルコンへ戻り地面へと倒れたのだった。
『ワールドアナウンス:プレイヤー名『ジーク』と『ラン』が、【古の墳墓・異】のボス『神王の墓守・黄金立像』を討伐し完全攻略しました』
『完全攻略されたダンジョンは消滅し、例外を除き挑戦出来なくなりますが、通常の【古の墳墓】には問題なく挑戦が可能です』
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???「────アンリ、マユ?」
……ちょっと待った。アンリマユっていうの((ry