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ラストスパート(19)

 足にのしかかるペダルの重みが恵を心身ともに追いつめた。


(もし、この位置に新川さんがいたならどうだった?入り口で神沢を抑えたかも。抑えられなくとも、この上りでも追いつめて行けたはず。なのに私は)


 恵の目にグイグイ上っていく妃美香の姿があった。思うように進まない自分とは正反対の姿。すぐ後ろには有紀がついている。さらに後ろには「602」、「603」が迫る。有紀は、前に逃げることができず後ろから突っつかれていた。


(重い・・・・・・足が重い。新川さん、ごめん。私が前に来たばかりに。後ろで詰まらせて。後ろから追い立てられて・・・・・・ごめん)


 恵の目が霞んでいく。涙なのか汗なのか分からない。いまの妃美香に追いつける力がない。それどころか、近づくのも怖くなっていた。あの重いオーラの前に動けなかった自分がいた。腕が、足が小さく震えていた。



 どこからともなく、せせら笑う声が恵の耳に届く。誰なのか分からない声が恵の頭に響く。


『相手に飲まれたのなら、負けても仕方ないじゃん。このまま行っても2位になるかも。初出場なら十分すぎる成果じゃないか』


「そうだよね。がんばったよ」


 恵はつぶやく。顔が地面へと向く。足が動かなくなっていく。


 後方の沈黙を妃美香は背中に感じていた。


(どうしたのかしら。以前の気迫は?あれはわたくしの勘違いだったかしら。意外とモロかったですわね。これでも少しは期待したのですが。ガッカリするほどでもないか。有紀と一緒に沈むのことです)



 恵の頭に響く笑い声、その奥に別の声が聞こえてくる。


『ケイって、ミズキケイっておんな!』瞬の声が聞こえる。

(瞬?あのとき、瞬の言葉が悔しくて自転車部に入ったっけ)

 また瞬の声が聞こえる。『俺は、まだ負けちゃいない!』


『あと一歩まで追いつめているんだ!だから悔しい』

 美樹雄の声が聞こえる。

(美樹雄。応援してくれていた。優しく支えてくれた。勝てると信じて本気で悔しがってくれた)


『恵ちゃん、ありがとう。恵ちゃんと走りたい』

 奈美の声が聞こえる。

(奈美ちゃん。いつも味方になってくれてありがとう。悔しかったときもなぜだろう。奈美ちゃんといると安心する。不思議だよ)


 恵の顔が前に向く。汗が入り滲んだ目に妃美香の背中が離れて見える。暗く冷たい海の中に沈みゆく感覚が恵を取り巻いていく。沈んでいくその中に、微かな光の筋が見えた。


(そうだ。なぜか分からないけど、このまま沈むのは嫌だ。悔しい・・・・・・悔しい、くやしいー!)


 恵の頭に言葉が叫びをあげる。




『それで終わり?』 

 

 笑っていたあの声が聞こえる。


(誰?新川さん?違う。似ているけど全然違う。初めて聞く声・・・・・・。そうだ!これで終われない。終わりたくない!)


 恵の背中に再びゾクゾクとした感じが襲う。苦しい呼吸のなかゆっくり口元は笑みを浮かべる。瞳孔が開いていき、妃美香の背中を捉えていく。


「このままでは終わりたくないんだよ!」


 恵の叫びが林道にこだまする。

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