ラストスパート(13)
「602」はハイスピードのまま安定してコースを走る。
恵も急勾配を走る。路面が荒れている左側だ。それを察した「602」は安堵する。
(左をとるの。それでは追いつけない。やはり気にしなくていい。ここで抜けないのなら、水城、あなたはもう終わりです)
「602」がきっぱり言い切った瞬間、凄まじく挑戦的な気迫が襲いかかってきた。「602」の身体は硬直し、その瞳孔は開いていく。
左側から恵の姿が見えてきた。その目に恵が抜き去っていく姿。ゆっくりとした光景に何が起こっているのか分からない。
(何があった?どうして抜けるの。私が遅い。いや、水城が速い。これは!)
「602」の目には恵が斜めに傾き倒れ込んでいる姿が映っていた。それを見て全てを「602」は理解した。
このコースは道幅を広げたことにより、側壁が綺麗に削られていた。その側壁の下部はスラロームのバンクカーブのように反っている。そこだけは、荒れた路面ではなく滑らかになっているのだ。恵はその側壁と路面の僅かな狭間を走っていた。
(こんな箇所を見つけて走るなんて、どうしてそんな発想ができるの。しかもこんな急勾配を高速で走って・・・・・・一歩間違えればただでは済まないのに。だけど、この先どうするの)
「602」は恵の走りに感心すると同時に、その先にあるものを思案した。下の路面なら急勾配が終わっても地続きである。だが、側壁は違う。そこでプッツリと途切れてしまう。このまま行けば、恵は宙に放り出されて減速もできないままクッションに激突することになる。クッションがあるとはいえ、この速度でまともに突っ込めば大怪我をすることは間違いない。
「602」に完全に背中を見せた恵は不敵に微笑む。
急勾配が終わり、側壁が途切れ恵が宙に飛び出す。その瞬間、「602」とその後ろにいた「603」は信じられない光景を目の当たりにした。
恵は宙に飛び出した瞬間、車体をひねりコース方向90度以上に向きを変えると、勢いでクッションに接触する寸前に足で蹴り出してコース方向に勢いを加えた。そのまま何事もないように上っていく。
(妃美香の言葉で早く気がつくべきだった。舐めていた。水城を)
「602」は急勾配の出口を勢いを殺さずに曲がって行く。そのすぐ後を「603」が追いつてくる。
「602」は指で合図をすると「603」と恵の追撃に入る。
「603」は頷き後に続いていく。




