女子×激戦×戦慄(5)
恵が空を眺めていると係員がリフトへと案内した。有紀も後に続いた。恵はリフトに乗り込むとまたボンヤリと空を眺めた。
「相沢さん。激戦てどういうことですか?新川さんは、余裕ではなかったの?」
奈美がさっきのレースの状況が知りたいというウズウズした目で美樹雄に聞いた。
「アナウンスでは余裕の走りなんて言ったけど、飛んだのが余裕に見えたのかねぇ」
瞬が声をかけると美樹雄は笑った。奈美の周りに浩一と瞬も集まった。美樹雄は奈美の目を見てクスリと笑った。
「奈美ちゃん、途中までは水城さんと有紀はほとんど差がなく走っていたよね」
美樹雄の問いに奈美はうなずいた。
「有紀は本気で走っていた。手は抜いていない。それは見ていれば分かる。決定的に違ったのは、あの山の越え方」
美樹雄が山を指さした。奈美もそこを見てさっきの二人の走り方を思い描いていた。
「あの頂上を有紀は飛んだ。瞬も言ってるけど、あれは余裕から飛んだんじゃない。あれがベストな走り方だっただけ。フル加速でおりた水城さんと比べて緩やかに下って見えたから、余裕で走ったように見えたんだ。最後のフラグに最適な速さで入るために計算された走り。そう、有紀は本当に独走するつもりで走ったはずだ。なのに、差はたったの0.8秒。いま、水城さんの走りに一番驚いているのは有紀だよ」
(恵ちゃん、すごかったんだ!でも?)
美樹雄の説明に奈美はあらたな疑問が浮かんだ。
「しっかし、分かんねえなあ。恵のやつ、どうしてフル加速で走ったんだ?練習走行で感覚はつかんでいるだろうし、1度もあの走り方はしていない」
瞬が奈美の疑問を口にしてくれた。
「そこですよ。僕にもそれが分からない」
美樹雄がそう言いながら考え込むと、瞬も奈美も一緒に考え込んでいた。三人が同じ顔をしているのは周りから見るとなんとも滑稽であった。
「わかりますよ」
浩一が三人に声をかけた。